第4話
「おい、お前」
と、声をかけられた。
「勇者に復讐したくはないか?」
それは、悪魔のささやきのようにも聞こえた。
俺は頭を左右に振って見回す。声の主らしき人はいない。幻聴かと思ったが、上を見てみると――建物の縁に座っている女が一人。
「……あんた、誰だ?」
しかし、俺の質問には答えず、女は建物から身軽に飛び降りた。
地面にぶつかって、ぐちゃっと潰れて死ぬんじゃないのか――なんて思ったが杞憂だった。優雅に着地をする。
俺と同じくらいの年頃の若い女だ(つまり、二〇前後)。綺麗な金色の髪に、雪のように白い肌。今までに出会った人の中で一番綺麗な顔立ちをしている。俺の恋人――いや、元恋人のシェリルですら霞むくらいに綺麗だ。綺麗すぎて人間味を感じないというか、人間ではない存在のような――。
「勇者に復讐したくはないか?」
と、もう一度俺に言った。
知らない女にいきなりそんなことを言われても、どう答えたものか悩んでしまう。そう、知らない女。この人は一体誰なんだ?
逡巡している俺に、苛立ちが隠せないようで、
「『イエス』か『ノー』さっさと答えろ」
その、只者じゃない威圧感に圧倒された俺は、
「イエス……」
とだけ答えた。
「よろしい」
女は微笑むと、何やらもごもごもにょもにょと詠唱する。
「――〈転移門:テレポートゲート〉」
地面に描かれた魔法陣から、荘厳な門が現れる。ぎいいい、と門が開く。中は果てしない闇だった。有無を言わさず、俺を門の中に蹴り入れた。そして、女も入ると、門は自動的に閉まった。
◇
曲がり角を曲がった先の道は行き止まりだった。そこにいるはずの男――ルークは、しかしどこにもいない。
「どこに行った?」
カインは目を細めて呟いた。
行き止まりの道。道の左右の壁を登って逃げたとは考えにくい。 隠れられるような場所もない。もし、引き返してきたのなら、自分と鉢合わせになるはず――。
「一体、どんなマジックなんだ?」
カインは苛立ちを隠せずにいた。爪を噛む。
(他に考えられるのは魔法――転移魔法などか……。いや、だけどあの男がそんな高度な魔法を使えるはずがない……)
だとすると――。
「だれかが彼を助けた? 助ける? 一体誰が……?」
深く考えようとしたが、馬鹿馬鹿しくなってやめた。
これはただのお遊びだ。兎が攻撃してきたので、その兎を痛めつけて殺そうとした。ちょっとした狩りだ。兎に逃げられたのなら、それはそれで構わない。
「帰って遊ぶとしようか」
勇者らしくない気色の悪い笑みを浮かべると、カインはその場から立ち去った。
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