第4話

 「...ん」

窓から差し込む朝日によって叩き起こされた俺は、重い鉄の扉を開くかのようにゆっくりと瞼を開いた。



俺は上体を起こした後、大きなあくびと共に瞼を擦り、窓へと視線を向けて太陽をひと睨みした。


「なんで毎朝出てくるのかな...お前は」


 俺は夜が好きだ。

夜は誰と話すこともなく、自分だけの『特等席』のような感覚を感じる時間帯だ。


他人に気を使うことも、誰かの目を気にすることもない。自身を何も偽る必要がない。


そんな気楽な時間が俺は好きなのだが、そんな限られた楽園のような時間を無惨にも終了を知らせる太陽は鬱陶しく感じる存在であった。


まだ完全には覚醒へと至っていない脳に鞭を打ち、ベッドから出るべく手をついた。


その瞬間「むにゅ」という効果音が最も合いそうな柔らかい感触が手のひらに走った。


「枕...じゃないよな?」


その感触は不思議な物で、柔らかいものの軽く弾力があるようなそんな不思議な感じだった。


「何だ、これ?」


毛布の下にあるそれは彼が今まで経験したことがない感覚であった。


何度か触ったり、つついたりしてみるが今までに感じたことがない感覚であり、それが何なのかは分からないままであった。


(考えても分からない。なら実際に見るのが早い)


俺が毛布をめくろうとしたその瞬間だった。


「んっ...」


突然、声が聞こえた。

俺の声とは異なる、女性と思しき高い声だ。


直後、俺の脳は急速に回転を始めた。


あの謎の感触とほんのりとした暖かさ、それに先程の声。恐らく答えは一つしかない。


俺は恐る恐る毛布をめくった。


「っ!?」


予想は的中した。  


(何で女の子が!?)


そこには穏やかな寝顔でスヤスヤと寝息を立てる少女の姿があったのだ。


「むにゃ...おかわり3杯...」


その少女はテンプレを明後日の方向へと飛躍させたような寝言を呟きいた後、再びスヤスヤと寝息を立てていた。


「待てよ、ということは...」


先程の感触があった辺りを見てみるとやや盛り上がっていた。位置的に考えても恐らくそう言うことだろう。


(やっぱり、そう言うことだよな)

俺の額から冷や汗が出ているのが分かる。正直な話、先日コープスの大群と戦闘した時よりも危機感を感じた。


「んん...眩しい...」


そうこうしてる内に少女も朝日によって目覚めの時を迎えたようだ。


俺は慌ててベッドから飛び出ようとした。


(この状況ならば誤解される可能性は非常に高い!!となれば姿を隠してやり過ごすしかない!)


姿を隠した後はどうするのか、と問いたくなるがそんなことは知らない。見つかれば間違いなく面倒なことになる。


「うわっ!?」


が、しかし運悪くバランスを崩してしまいドスン、と大きな音ともに床に転がり落ちてしまった。


「いてて...」


「ふわぁ〜。あれ、何の音?」


(まずい、気づかれたか!)


俺は慌ててベッドの方へと視線を移すと伸びをしながら上体を起こす少女の姿が見えた。


身を隠そうとするも既に手遅れだった。

目を擦らせながら少女がこちらを向いていたのだ。


「えーと、これはその...」


俺は「詰んだ」と言えるその状況で何か言おうとしたのだが、何も言えなかった。


あ、終わった。


そう思い、覚悟を決めた。


しかし、テンプレにあるようなキャー!!エッチ!!といった叫び声と共にビンタが飛んでくるなんてことはなく、一瞬の沈黙の後に少女が口を開いた。


「ん〜おはよう、レオニードくん」


よく眠れた?と言いながら少女がゆっくりとベッドから出てきた。


(なんで俺の名前を?)


しかし、そんな疑問は一瞬で彼方へと吹き飛んだ。


「なっ...!?」


俺は上手く言葉が出なかった。

なにせ、自分よりやや歳上と思しき女性の下着姿が視界に入ってるのだ。


「どうかした?具合でも悪いの?」


俺の目の前で少女が屈んで俺の顔を覗き込んできた。


「いや、体はどうとも無い...けど」


ところが、ちょうど俺の視界には少女の胸の辺りが正面に来るようになってしまっており、谷間が見えてしまっているのだ。


他にも綺麗な白い肌や柔らかそうな太ももなど強すぎと言える刺激が、彼の視線に入っているのだ。


普段は何にも興味が無いように見えるが、一応彼も思春期の少年ではある。そう言った刺激を前に冷静でいられる訳がない。


「ん?どうかしたの?」


少女は下着姿を見られているというのに怒りもせず、不思議そうにこちらを見ている。


「いや別になにも...って、まさかあの感触は!?」


先程の感触の正体を完全に理解したと同時に、鼻から赤い液体が勢いよく飛び出した。


「感触って何の...って、レオニードくん鼻血が!!」


少女の驚いた声が聞こえたが、俺の意識はそのまま遠くへと離脱していった。


------


「これでよし、と。全くびっくりしたよ」


そう言いながら俺の顔についた鼻血を拭き取り終えた少女は赤く染まったティッシュをゴミ箱へと放り込んでいた。


どうやら間抜けなことに俺は鼻血を出してぶっ倒れたらしい。アクション映画みたいな興奮する夢でも見たの?と言いながら少女はベッドに座る俺の隣に腰を下ろした。


「落ち着いたかな?レオニードくん」


「なんで俺の名前を?それに俺はなんでここに?」


よく考えると、俺が覚えている最後の記憶は、日本へと移動中にコープスと戦闘したことである。


確か、極東支部まで自動操縦でたどり着くよう設定したはずだが...その後、目が覚めると隣に少女が眠っているという状況だったのだから困惑するのも仕方ないだろう。


「あれ、覚えていないの?昨日レオニードくんは...あっ!」


隣に座っていた少女が急に大きな声を上げた。


「どうしたんだ?」


「今...何時...何分?」


古めかしいロボットの如くカクつくような動きでこちらを振り返った少女の額には冷や汗が流れていた。


「8時少し前、57分ってところだけど...何かあるの?」


時計を見てみると時刻は7時57分を指していた。


「8時にレオニードくんと一緒に会議室に来いって言われてたの忘れてた...」


「え?」


「やばい、やばい、やばい!!遅刻したら怒られるし朝ごはん抜きにされちゃう!!」

 

「と、ともかく急げ!!走れば間に合うはずだ!!」


こうして俺と少女は手早く着替えを済ませ、司令室へと向け疾走することになった。


(ったく、初日からとんでもないハプニング続きだな)



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