第3話

輸送機からリェーズヴィエを発進させて飛行すること数分、コープス達の集団を確認した。


「8機か、団体様とは珍しいな」


 メインカメラが視認している映像を見ながらレオニードは呟いた。



 大抵、コープスは3〜5機の集団で行動しているパターンが多いとされている。事実、覚えている限りでは前述の通りの集団しか確認したことがない。



「お安い御用、とは言えないな」

とは言え、このまま逃げ出す訳にもいかない。


リェーズヴィエ単機なら仮に発見されたとしても振り切って離脱することも可能だが、鈍足な輸送機では一度発見されたが最後、跡形も残さず破壊されるだろう。



 レオニードはスロットルを操作し、スラスターの出力を低下させ、減速させた。


 同時に、万一に備えて脚部の側面装甲にマウントしているハンドガンを右手に装備させ、コープスの様子を伺った。


(変化は無いな...何が目的なんだ?)


 しばらくコープス達を監視し続けているが一向に変化が無いのである。稀に周囲を警戒する個体も見受けられたものの、それ以外にはこれといった動きは見られないのだ。



「目的は我々じゃない...のか?」


 多少引っかかる点は残っているが、戦闘を回避できるというならそれに越したことはない。


(今度会った時は叩き落としてやるさ)


 機体を反転させ、ゆっくりと空域を離れようとしたその瞬間だった。



 コクピットに警報が鳴り響くと同時に強烈な衝撃がレオニードを襲った。


「...っ!後ろから!?」


 衝撃が来た方向へと機体を向けると2機のコープスがこちらへ銃撃しながら接近するのが見えた。


その2機は先程までのコープスとはカラーリングがやや異なる。


「チッ...別働隊か!」



先程の銃撃を察知したのだろう。


運が悪いことに、先程まで固まって飛行していたコープスがこちらの方へと方向転換し、接近してくる様子が後部カメラからの映像として表示されていた。



「...撃墜スコアを稼がせてもらおうか」


 いくら束になろうと所詮はコープスだ。

レオニードはリェーズヴィエの左手にソニックダガーを装備させ、奇襲を仕掛けてきた2機のコープスを迎え撃つことにした。



「数を減らす!!」


手始めに右手に装備しているハンドガンを乱射した。


放たれた銃弾はコープスの装甲に着弾の火花を咲かせた。2発、3発と次々にコープスの表面に火花が散る。



鬱陶しいと思ったのだろう。コープスは手にしたシールドを前方に構えた。


「思った通り!」

 レオニードはその瞬間を待っていた。


攻撃が防がれているにも関わらず、彼はラスヴィエートをコープスへと向けて急加速させたのだ。



 一般的に考えれば防御体制を取っている相手に突っ込むのは無意味と思われるだろう。


 むしろ盾を構えつつ迎撃という選択肢を取ることができるコープスの方が有利とも考えられる。


 しかし、レオニードは無策にリェーズヴィエを突撃させた訳ではない。


 シールドを構えるコープスが装備しているライフルは他の機体と比較すると銃全体のサイズが一回り大きいロングバレルタイプのようだ。


 ロングバレルタイプのライフルは射程と精度が優れているものの、その使用は両手を使った射撃を行う設計となっている物が多く、片手での使用は制御が困難になる。


 仮に片手で射撃を行ったとしても自慢の射撃精度は発揮できず宝の持ち腐れとなるだろう。


そしてコープスは現在シールドを片手に構えている。そのため適正ではない状態での発砲しかできないはず、と踏まえた上での突撃という選択肢であったのだ。


「せっかくの精度も台無しだな」


 事実、先程と比べてリェーズヴィエに向けて発砲される弾丸の数は減少している上に弾自体も明後日の方向へと消え去っている。



「盾を捨てるという選択肢はないのか」


 レオニードの駆るリェーズヴィエは速度を落とさずコープスへと接近した。


「遅いよ。もうお前の負けだ」


 リェーズヴィエは左手のソニックダガーをコープスの頭部へと突き立てた。加速で得たエネルギーも相まってダガーの刀身はシールドごとコープスの頭部を貫いた。


すぐ隣にいたコープスはその様子を見て一瞬怯えたかの如く動きを止めた。


「...」


 レオニードは無言でリェーズヴィエの右手に装備させたハンドガンをコープスへ向けて乱射した。味方を失って一瞬動揺し、動き出すのが遅れたのが致命的だったと言えよう。


 シールドを構えようとしたようだが、それより先に放たれた弾丸がコープスの装甲を抉り取り、機体に穴を開けた。


 ほぼ同時に2機のコープスは機体からスパークを発生させ爆散した。


「...リロード完了」


空になったハンドガンの弾倉を交換し終えたリェーズヴィエはスラスターを噴射させ、コープスの群へと機体を突っ込ませた。


「ん、向かってくるか」


 1機のコープスがライフルを乱射しながら左手にナイフを装備させ急接近しているのが見えた。


牽制のためハンドガンを数発撃ち込みつつ、こちらも速度を緩めることなく接近させた。


弾丸がコクピットに直撃するかもしれない恐怖の感情を強引にねじ伏せ、更にコープスとの距離を縮めた。


 あと少しでぶつかる、という距離にまで達したその時、コープスがナイフの斬撃を繰り出そうと腕を振り上げたのが見えた。


「今だ!」


 レオニードはコントロールスティックを思い切り後方へ引いた。


直後、リェーズヴィエはスラスターと一体化した主翼の位置を瞬時に変化させ、前方への逆噴射を行った。


 この逆噴射により、リェーズヴィエは急速に減速し、皮一枚ほどの火花が散らんばかりのギリギリの距離で斬撃を避けたのである。


 まさか回避されるとは予想していなかったのだろう。勢いよく切りつけた反動で、コープスは前のめりに体勢を崩した。


「...ばーか」


レオニードがそう呟くと、リェーズヴィエは容赦なく左手のソニックダガーをコープスの胸部へと突き立てた。


ダガーの刀身を胸に突き立てられたコープスはメインカメラの光が消え去り、力が抜けたように機能を停止した。


瞬く間に3機のコープスを撃墜・無力化することができたものの、まだ気を抜くことはできない。


 残る7機のコープスが手にしたライフルでリェーズヴィエを撃墜せんと発砲しているのである。


「...っと、危ない」



先程の2機のコープスからの射線とは比較にならない量の弾丸の雨が飛んで来る。


「本気で落としに来たか」


 先程トドメを刺したコープスを自機の前に構え弾除けとし、銃撃を防いでいるものの流石に7機のコープスからの射線の前では長くは持ちそうにない。



「貰うよ」


 ハンドガンを膝のハードポイントへと戻し、撃墜したコープスが所持していたライフルを強奪し、リェーズヴィエへと装備させた。



「使ったことはないが、撃つだけなら」


使い慣れない銃ではあるが、引き金を引けば弾が出るという一連の動作は同じだ。慣れた手つきで引き金を引かせた。


大まかに狙いをつけての射撃ではあったが、放たれた弾丸は轟音と共にコープスのライフルを腕部ごと吹き飛ばすことに成功した。


「ビンゴ。もう一撃」


 今度は3度引き金を引き、3発の弾丸をコープス目掛けて撃ち放った。


3発の弾丸のうち2発はコープスを捉えることなく空の彼方へと吸われてしまったが、最後の一発がコープスの頭部へと突き刺さり爆ぜた。


 これで残るは6機。長期戦になる前に一気にケリを付けたいところだ。機体を加速させつつ、盾がわりに使用したコープスへと視線を向けた。


即席の盾もといコープスの装甲はあちこち剥がれ落ち、各所でスパークが発生している。いかにも爆発間近という状況であり、耐えたとしてもあと1、2発といったところだろうか。


「お疲れ、もういいよ」


 レオニードがそう言うと同時にリェーズヴィエがコープスの集団目掛けて残骸を投げつけた。


 銃弾の雨の中を進んだ残骸は群れへと届く前に爆散し、あたりに黒煙を撒き散らした。


 黒煙でリェーズヴィエの状況が伺えない1機のコープスが一瞬、ライフルを下ろした。


「掛かったな」


直後、黒煙の中からリェーズヴィエが躍り出た。そう、黒煙によりコープスの視界を奪い隙を発生させることがレオニードの狙いだったのだ。


 コープスが再びライフルを構えるよりも早く、リェーズヴィエは手にしたダガーでコープスの右腕をライフルごと切り落とした。


「...もらった!!」


 そのまま右手のライフルの銃口をコープスの胴体へと突きつけ容赦なく引き金を引いた。


ゼロ距離から放たれた弾丸は肉食魚が獲物の身を食い破るように装甲とフレームを抉り取り、コープスを爆散させた。


「5機撃墜、まだやるか?」


金属片と爆炎が混じった黒い霧の中からゆっくりとリェーズヴィエが振り返った。


「やるって言うなら...容赦しないけど」


 レオニードは隠すことなくコープスの群れへと殺意を向けた。それに呼応するかの如く、バイザーに隠れたリェーズヴィエのツインアイが微かに赤く発光していた。


その様子を見て怖気付いたのか、リェーズヴィエの周りを取り囲んでいたコープスはゆっくりと後退し始めた。獣に刺激を与えないよう恐る恐る立ち去るように。



やがてコープスたちの姿が見えなくなった。


「......終わったか」


 そうレオニードが呟くのとほぼ同時にリェーズヴィエはコープスから奪ったライフルを放り投げた。


「敵機の撤退を確認。このまま目的地へと向かう」


ため息まじりにレオニードはシートに体を預け、脱力した。


運良く敵は逃げ去ったものの、あのまま戦闘が続いた場合結果は分からなかった。


「ほんと、運が良かったのかもな」


 敵が撤退した理由は分からないものの、かなり危険な状態であった。ハンドガンの弾は無くなり、ダガーの刀身強度も限界を迎えていたことがモニターに表示されていた。


 しかし、無事にコープスを退けた。自分一人の力で。


レオニードは座標を入力し、機体を自動航行モードへと変更させた後ゆっくりと目を閉じた。

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