第397話 マーブルケーキ(前編)

 生物部植物科が今日の勉強場所。

もとい、部活動場所であり多少の雑談は止まらないわけで。

だって勉強してるのは俺ら二人、と後は部活中の後輩達だから。


「……コセガワせんせー、後ろの生物部がうるさいでーす」


 なんて、一斉の視線が痛いだけで声はないんだけれど。

まぁ俺が皆恋バナ気になるお年頃ぉな話をしたのが原因なんだけれど。

そして後輩達はお茶とお菓子をかちゃかちゃ、かさかさ、と俊敏に用意して俺とコセガワを囲んで着席した。

俺らの分まで淹れてくれた冷たいコーヒーの牛乳割りと、一切れずつ袋に入れられたぐるぐるうにょうにょ渦めくマーブルケーキが大きな籠皿にどっさり。


「強制休憩みたいだね」


「さんきゅ、いただきま」


「ルームシェアっすか? 同棲っすか?」


 ミヤビちゃん。


「大学合格したらの話ですよね?」


 タカナシ。


 間髪入れずに質問かい。

お、割と甘さ控えめの珈琲味だったか。

うんまぁ。


「そうしたかったんだけどお許し出なかったんだって」


「え、親さん達に反対されたんですか?」


 タチバナ。


「も、もしかして付き合ってるのも反対、とかですか?」


 チョウノさん。


 ごっくん、ずず──はぁ。


「付き合ってるのはいいけど暮らすのはまた別の話って言われたのー。そんで自分の親にも同じような事言われたのー」


 女子の家から帰った後の夕食中、俺は親父と母さん、それとヨリに事の経緯を話した。

びっくりされて、ちょっと怒られた。

けれどわかってくれた。

そしてわかった。

俺は全然まだまだガキだって事。


「……水差すようで悪いけど、僕はノノちゃんと住まないかってお願いされたんだよね」


 水差すっつーか水風船投げつけられた気分だわいっ。


「まぁ断ったけど」


「へ?  何で?」


「コウさんなら二つ返事かと思った」


 それ。

何よりノムラの親からとか信用っていうか信頼? どっちもか。

素直に羨ましいに近い何かを感じた。


「皆、僕をなんだと思ってるの? ただの高校生でなーんもない奴よ?」


 このコセガワは珍しい。

いつもそつなく、それ以上にやってのける奴なのに弱音のようなものが見える。


「ノノちゃんという馬鹿高い目標に追いつくためにはレベルアップは必須、ってとこ。それに一人暮らしは面白そうだし」


 いずれ一緒に住むのはノノちゃん親の承諾と僕の中で決定してるしね、とかっこよ発言の後のコセガワ節に力が抜けた。


 何通りもある中を皆ぐるぐる考えてる。


「そっかぁ……先輩達いなくなっちゃうんですね……」


 チョウノさんが、ぽそっ、と呟いた。

引退したばっかで実感はまだないけど、そう。

この旧校舎とも別れが近い。


 思えばここは色々とお世話になった場所だなぁ……しみじみ。


「……急ぎすぎたんかなぁ、俺」


 大学はもちろん受かる気で受けるし、だから今も勉強してる。

今日もだけど教室にいて、会って、話して、そういうのが当たり前になっていった。


「リョウちゃん先輩、もしかして別れちゃいそうとかって考えました?」


「うっ……」


 ちょっと、思った。

学校変わると別れるとか自然消滅とかってよく聞く。

すると後輩達は顔を見合わせて、はーっ、とか、ふーっ、とか呆れた息を吐いた。


「絶対ないっすね。明日のおやつ賭けてもいいです」


「タイ……じゃないっ、タチバナ君それ賭けにならないよっ」


「チョウノ先輩、もう名前で呼ぶの慣れたらどうですか? こっちがむず痒いんですけど。あと俺も絶対ないにベット」


「リョウちゃん先輩のばーか」


「突然の悪口」


「あのひとが手離すわけねーじゃん。俺とのチューも何の躊躇いもないくらいなのに弱気うっざ」


 おおっと、それ言っちゃったよ。


「何その面白い話詳しく」


 ほらー、ほらーっ! とにかく軌道修正をせねばっ。


「ああ、あの、すいませんっした! あと、ありがと、う?」


 確かに弱気だ。

っていうかそんなの、女子に失礼だ。

俺が信じなくて続くわけないじゃん。


「とりま今は勉強頑張ってくださーい。落ちたらマジ離れ離れになるんでしょ」


「ちょ、お前マジ受験生に落ちるとかそういうの言うなよ……」


「僕は平気。落ちるわけないもん」


 うっせコセガワ、うっせ!

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