第368話 バナナナッツハニートースト(後編)

 たっぷりのミルクコーンスープにカラフルなフルーツ達とベビーリーフのサラダ。

分厚めのじゅわじゅわのベーコンとぷるぷる半熟の目玉焼き。

それと、みっしり並べられたバナナと砕かれたナッツにとろーりと蜂蜜がかけられたトースト。


 一番遅く起きた私はリビングでせかせか用意する三人を眺めていた。

お手洗いを済ませて顔を洗っただけなので寝癖もそのままだ。


「おはようクラキさん。よーく眠れたみたいだね」


 コセガワ君はいつも通りに朝から爽やか風味だ。


「おはー。もうちょいで出来るから座ってなー」


 ノノカもしゃかしゃか動いている。


「おはよーさん。俺らは片付け係な。ん」


 一緒に起きたはずの男子は眼鏡姿で、ここに座れ、と先にテーブルについていた。

引いてくれた椅子に、男子の左隣に座る。


「かたじけない……」


「ふっ、まだ覚醒してねぇな?」


 寝癖、と跳ねている後頭部を柔らかく撫でられた。


 昨日もこんな風だった。

優しくて、くすぐったかった。

そしてさっきの朝も、目を開けたら男子の口が見えて、うっとり眠たかったのに、ぎょっとしてすぐに断片的に夜の事が頭に浮かんだ。

それでまたすぐ──あったかいな、って思った。


 愛してるって、言っちゃった、って思った。


 網戸も何もない窓が開けられていて、朝と昼の間の風が入ってくる。

海を帯びたしょっぱいような冷たさが髪や頬を撫でて、私の目まで刺激してくる。


 夢じゃなかった……全部。


「……うん、起きた」


「ははっ、今?」


「ううん、ずっと」


 ずっと、本当。

どうしたらいいんだろう、気を抜いたら爆発しそう。

男子はどうしていつも通りにいれるんだろう。


 すると男子は私の髪を耳にかけながら耳元でこう言ってきた。


「照れないように頑張ってっから、頑張って」


 ──爆発するかと、思った。

だから先に、氷が浮かんだ水を、コップを掴んで半分一気に飲んで冷やす。


「……危険だから、先に注意してっ」


「どうやって?」


 むぅん! 悔しい! 起きた! はっきりと!


 じろ、と男子を見ると結んだ口が今にも解けそう。

通常運転の私って、どんなだったかしら。


 ぐぅ。


 む、お腹が鳴って男子が笑いやがったわ。


 その顔を見てたら、なんか、私も笑えてきた。


 多分、こういう感じ。

私と男子の、続きだ。


 愛してるの、続きだ。


 ※


「──ナナナパン?」


 四人、テーブル囲んで朝ごパンをいただきます。


「そ。バナナナッツハニートーストって小さい頃言うのめんどくって、コウタローのママが命名したの」


「週に一回は泊まりに来てたもんね。それで翌朝の定番になってさ」


「ほんと幼馴染なんだなぁ」


 ノノカとコセガワ君は家が隣同士で親同士もずっと友達の仲良し同士らしい。

蜂蜜の甘いのが最初にきて、一緒に焼かれたバナナがより柔らかく歯に潰されて、香ばしいナッツの欠片も一緒に口に進入、歯切れのいい土台のパンもさっくり、全部一緒にもぉぐもぉぐ。

これは……口いっぱに食べるのをお勧めするわ。

多幸感、ごくん。

ミルクコーンスープも、はー……こういう場所で、この人達で、この景色で食べてるからかしら。

体がぽかぽかしてきた。


「今もお泊りしてるの?」


「するよー。パパとママがいない時とか心配だからっつってさー」


「ぱぱまま」


「ノノちゃん一人怖いもんね」


「んふっ、ノノカ可愛い」


「うっさーい! 苦手なもんの一個や百個あるでしょがっ。あ、そうそう、このまま帰んのも味気ないからさ、もうちょっと時間潰してから出よー」


 目玉焼きは黄身を潰して、塩胡椒。


「俺マヨ。何するよ? また海行く?」


「アタシは醤油一択。クサカ、悲しい事にアタシ達は受験生なんだよねー」


 夏と休みと友達の時間も大事だけれど、長いようで少ない時間は効率的に有効に。


「僕はソースで。遊びに誘った手前、一人不合格とかちょっとねー」


「……なんで俺を見んだよっ!」


 むっ、ベーコンを黄身につけて食べるの最強に美味しいわ。

口の中に少々しょっぱくなったところに、甘いナナナパン──ああ、もっとずっとリピートしたいのに、あと半分づつ。


 ううん──夏はまだ始まったばかりだわ。

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