第350話 アッサムティー(後編)
五組のミッションを終えて教室を出た私達は隣の六組の教室に入った。
もちろんノックは忘れていない。
六組でのミッションは、真ん中に二席並べられてる『ティースプーンを一本選ぶ』というミッションだった。
金色銀色、陶器など様々で、形もそれぞれのスプーン達は見ていて飽きない。
シンプルな物、アンティーク調な物やキャラクター物、十数本も並んでいると迷ってしまう。
見ていると男子が、こういうのあんまよくわかんねぇし選んでいーよ、と言うので、どれにしようかな、と一本、手に取ってはまた一本。
スプーンって素敵。
何でもないカップに添えるだけでうきうきする。
好きな飲み物をゆっくり混ぜるのも楽しい。
きっとこのアイテムら──紅茶、もしかしたらこの氷砂糖を落とすのかも。
だったら、これ。
柄尻が鍵状になっているティースプーンは綺麗な銀色で、ランタンの灯りが映っている。
それを選んだ時男子は、何でそれ? と聞いてきた。
美味しそうなのもあるけれど、謎を開けてみたかったから、と私は答えた。
リドル部がいて、いない扉に小さなアイテムは一人分ずつ、可愛いお人形に誰かの手。
そしてティースプーン。
鍵の形状をしているスプーンが他より多いのは、解かせたい? なんていうのが理由よ、と言うと男子は、楽しんでますね、と棒読みで言った。
なんて冷たい男でしょう。
けれどさっきから男子は落ち着かない様子だし、寒い寒いと肩を
おそらく男子は、霊感、というものがあると思われる。
感じ方はそれぞれ、見えるだけがそれではない。
自覚はしているようだけれど、否定しているので何も言わないでおく。
少し羨ましい、というのも言わないでおく──さよならしたひとと、会えるから。
七組でのミッションは、六組で選んだティースプーンを『並べられたカップのどれかに添える』というものだった。
これまた一つとして同じカップはなくて、形状、色が様々でまた迷った。
スプーンは私が選んだから今度は選んで、と男子に言うと、早かった。
これ、と指差されたのは何の模様も書かれていない丸く白いカップだった。
しかしよく見ると中に金色のウサギがいた。
シウちゃんウサギ好きだろ? と微笑む男子はソーサーにスプーンを置く。
むかつく、自分が好きなの選んでいいのに、私がすきなのを選ぶなんて。
嘘、嬉し。
八組でのミッションは『瓶と袋をマットに置く』というものだった。
教室の机の上にそれぞれランチョンマットが敷かれていて、前の組みの人達の分はセットされたままだった。
入ってきた扉からすぐの席、二つ空いて向こうの席、皆ちゃんと選んでいるようだ。
私達もどの席にしようか、色、模様とりどりのマットを見ていく。
む、ここ可愛いけれど置かれてるわ。
む、ここも。
む、むぅん。
すると男子が、ここは? とランタンで照らした。
シンプルなピンク強めのベージュのランチョンマットに袋のアイテムを置く。
私もポケットから小瓶のアイテムを出して隣に置いた。
袋の黒いリボンに小瓶の薄茶色のコルク、濃い赤茶のお茶のパックに、琥珀色の氷砂糖。
透明の袋、小瓶はランタンの橙色に光る。
うん、この席に座る人はラッキーだわ、と私は思う。
ところで──。
「──リョウ君」
「…………ん?」
私の声が遠いらしい。
ううん違う、他の何かに集中しているようなので、ずい、と男子の懐に入って顔を見上げた。
「何が見える?」
「し、シウ、ちゃん?」
「うん──何を感じる?」
「なん、で、わかった?」
男子の目が泳ぐ。
隠さなくていい。
私は何も感じない。
ただ、男子が怖がっているのだけがわかる。
「……足音が、する。怖がらせたくねぇから言わなかったけど……もぅ無理ぃ」
そう言って男子は今にもべそかきそうな顔で教えてくれた。
ついてきているような、先を歩いているような、周りで足音がするとの事。
私にはまるで聞こえないし、わからない。
仕方ない、ここでリタイアかな、と思った時だった。
これは私にも聞こえた、はっきりと。
──あーあ、オニィもここで終わりかー。
鬼?
「……ヨリ?」
「え?」
──やばばっ、なんでっ?
すると男子は、ぱっ、と顔を上げて机の間を走り出してしまった。
私も慌てて追いかける。
そのまま八組の教室の後ろの扉を出た男子は、九組から向こうは行き止まりの立て看板の前で止まっていた。
八組と九組の間にはまた階段がある。
三階には上がれないようにここにも看板があって、ルート上、一階に降りるしかない。
一体何を見て……ちょうちょ?
ランタンは男子が持っている。
その灯りに照らされた床や壁に、私は蝶の影を見た。
ゆらゆら、ひらひら、数匹が飛んでいる。
「──……あれ? 俺……?」
そして私は男子に目を戻して、振り返った背中にほっとした。
男子がいつものとぼけた、失礼、気の抜けた顔をしていたから。
その一瞬なのに、影は見えている通りの影に戻っていた。
「……置いてくなんてひどいわ」
「あっ、ごめんっ、なんか走りたくなった!」
何その理由。
今の事がなかったみたいに──忘れたみたいに。
「………………おーいシウちゃーん」
はっ、と我に返った私が次に見たのは男子のドアップな顔面だった。
……あれ? 私、何してたんだっけ?
行くべー、と男子は手を繋ぐ。
……んぅ?
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