第340話 ステンドグラスクッキー(後編)

 左側に女子、右側にミヤビちゃん、真ん中に俺。


「──あんたってめんどくさいですよね」


「あなたに言われたくないわ、ミヤビちゃん」


「げぇ。その呼び方嫌なんですけど」


「クサカ君は呼んでるのに?」


「リョウちゃん先輩はいいんです」


「そのリョウちゃん先輩、ずるい」


「いつから付き合ってんのか知らないですけど、未だに苗字呼びですもんね」


「あなたが知らないところでは名前呼びよ」


「うっわ、いらねぇ情報」


「どうしても聞きたいのかと思って。大好きなリョウちゃん先輩ですものね」


「そりゃ好きですけど」


「割りと真面目な質問、いいかしら?」


「今までのも結構真面目に答えてたんで別にいいですけど」


「クサカ君の事、好き?」


「はい」


「先輩として?」


「はい」


「恋の相手としても?」


「それは半分です」


「半分?」


「俺はユウさんを好きになったのは女の人だからとかではなくて、ユウさんだったからで、そこに性別はないんです」


「うん」


「リョウちゃん先輩は一見普通です」


「んー、うん」


「でもなんか……空気とか声とか、そういうの」


「感じちゃった?」


「あんたが言うとやらしく聞こえる」


「他に言い方を知らないの」


「まぁ……そういう事かなっていう、名前の無い感じ」


「どきどきやときめきなんていうのでは安い感じ」


ほださされた、みたいな」


「だからっていきなりキスはないと思うわ」


「あれはあんたへの嫌がらせが八割だったんで」


「今思い出してもむかつく」


「それはもう清算したんじゃ?」


ゆるすとは言ってないわ」


「しつけぇなぁ……」


「ごめんなさいねぇ、そこがチャームポイントなの」


「リョウちゃん先輩がよけなかったのも問題あると思うんですけど。ぶん殴られっかなと思ったのに何もないし」


「それ思った。どうして抵抗しなかったのかしら」


「……脈ありだったとか?」


「断固阻止するわ」


「あんたじゃなくてリョウちゃん先輩の心次第なんですけど」


「じゃあ聞いてみましょう。ちょうど真ん中にいるわ」


 はいはいそうです、ずっと真ん中でばりばりぽりぽりクッキー食べながら聞いてましたよ!

なぁんで俺がいんのに俺の話すっかなーっ、居心地は悪くはねぇけれど両隣から視線が、ちらちら、じぃー、って刺さるとおいとましたくなるんですけれど完全にタイミング逃したっていうかぁ!


 ごくん。


「……脈はこっち、です」


 俺は女子がいる左手を出して示した。


「律儀ですよねぇ、わかってますって」


 聞いたじゃん! だから答えたんじゃん! シウちゃんもわざとらしくガッツポーズすんなし!


「そういうとこがリョウちゃん先輩のいいとこです。気持ちいいんです。なかなかないですよ? 言うとこと言わないとこの加減がいい人って」


 確かにちゅーされて何も言わなかったけれど、それはシウちゃんが取り返してくれたからで、今のは言った方がいいのかなって思っただけでぇ。


「んふ、私の自慢なの」


 何故かドヤ顔の女子に俺は、ほつほつ、と照れた。


「……こんな人でほんとにいいんですか? 可愛さは俺の方があると思うんですけど」


「憎さ百倍ってあなたにぴったり」


「まんま返します」


「クサカ君、あなたの後輩生意気ー」


「リョウちゃん先輩、あんたの彼女腹立つー」


 それから子供みたいな口喧嘩が始まった。

ガキだの大人気ないだの──真ん中の俺、我慢の限界。


「──だぁーっ! 喧嘩すんなーっ!!」


 二人の襟首を掴んで、一緒になって後ろに倒れた。

頭の上には日傘が転げて、最後に食べたステンドグラスクッキーの色みたいな空が真正面に眩しい。


「……あーあ、クサカ君と二人きりなら今のこの感じもロマンチックなのに──むぅ」


「あーあ、シウ先輩がいなかったら今この感じで襲えそうなのに──むぐ」


 やめなさい! と俺は抱えるように二人の口を塞いだのだった。


 やれやれ、手のかかる末っ子達って感じだよまったく……。

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