第325話 ソフトクリーム(前編)
サクラバトモキです。
困ってます。
困ってるっつーか、悩みっつーか。
学期末テストの真ん中の日の午後の今、俺はバレー部の部室がある部室棟の
テスト中はどの部活も停止中で、もちろん誰もいない。
俺は部室に置いていた教科書を取りに来ただけだ。
「ふあ……あぁぁ」
でっかいあくびが出たなぁ、眠ぅ。
昼飯食った後は大体こう、昨日も夜遅くまでテス勉してたから当然か。
暑過ぎてグラウンドの向こうがぼやぼやしてら……陽炎ってやつか。
持っていた教科書を開いたまま膝に置いて、陽炎を眺めてみる。
ぼやぼや──俺の先、みてぇな。
やべ、真面目に眠てぇんかな。
こんな事あんま考えないんだけれど、最近は先の事ばっか考えてっからかも。
「……バレーやりてぇな」
こういうのって、やれなくなるとやりたくなるみたいな、変なのがある。
テスト前に部屋掃除しちゃうみたいな、違うか。
何より、俺はもう引退したようなもんだし。
六月にあった県予選大会、結果は敗退。
俺のバレーはここで終わり。
部活としては九月の文化祭までって決まってるから、後は後輩育成と引継ぎくらいなものだ。
……勝ちたかったなぁ。
春高は出ない。
進学するし、受験があるからだ。
高二の時から決めていた事だけれど、やっぱぼやける。
次に次にと目まぐるしいったらない。
学校に来て、つるんでる奴らと馬鹿やって、好きなバレーやって、そんで、好きな奴と帰る。
こういうのがずっと続いたらいいのに、とか。
そうもいかないのは分かってんのに、やっぱ眠いんだろな、俺。
しかし待ち合わせ相手はまだか、とまた教科書に目を落とす。
とりあえず覚えて覚えて、頭に入れるっきゃない英語。
いっちばん苦手な教科だ。
単語帳でも見てようか、とバッグをがさごそし出した時、来た。
「──こんにちはっ!」
バレー部の二年で、後輩で、女。
「走ってくる事ねぇのに」
ベリーショートで、目がでっかくて、背もそこらの女より高め。
「先輩が待っててくれてるから」
そんで、俺の彼女──アイザワアキさん。
昼飯は友達と食べながら今日のテストの自己採点と、明日のテストの要所を聞くとかで、けれどちょっとだけでも会いたいとか何とか可愛──だぁっ!
そ、そういう事言うもんだから、ちょっとだけそういう待ち合わせをしていた。
教室とか下駄箱とかそういうとこでもよかったんだけれど、なんか、照れくせぇので、部室前ってわけで。
よいせ、と立ち上がる。
「行くべか」
「はいっ」
弾む声ってのがまたこう……だぁっ!
なんだろ、意識しちゃうってやつ? 部活終わりに帰ってる時と同じなのによ。
一緒に歩くとか初めてでもねぇのに、ちらちら隣が気になるっつーか。
すると、くいっ、とシャツの袖を引っ張られた。
なんだ?
「あのっ、ちょっと寄り道、しませんか?」
寄り道とは。
まぁいつもは部活終わりだからあんま店とか寄らないし、ってかコンビニくらいしか開いてないし、電車の時間もあるから真っ直ぐ駅に、というルートばっかりだ。
夜遅いし当然か。
「いいよ?」
「ほ、ほんとにいいですかっ? やったっ」
アイザワはこんな事で喜ぶんだよなぁ……こんくらいいつでもすんのに。
「あの、駅とは反対側なんですけれど、ソフトクリーム、好きですか?」
甘い物は正直あんま得意じゃない、けれど。
「食うよ?」
「よかったー。あんまり甘いの得意そうじゃないからどうかと思ってたんですっ」
バレてーら。
そしてアイザワは鼻と口を両手で隠しながら、ちら、と俺を見た。
よく見ると、にやけているようで。
「──えへー、なんかちょっと付き合ってるって感じしますねっ」
「は?」
「だっていつも一緒に帰るばっかでどっか行くとかってなかったじゃないですかっ」
あー……もしかして俺って気遣い出来なかった系か!?
「あ、いいんですっ。私の我儘というか。先輩、受験生だし忙しいのわかってます。でも、こうやって制服同士なのってもうちょっとしかとか考えた……なーんて──」
アイザワは遠慮してるっぽくて、ごにょごにょと声が小さくなっていった。
「──我儘じゃねぇよ」
何言ってんだか。
そりゃ俺だってどっか行きてぇとかって誘ってみたかったよ。
けれど学校に部活、忙しいのはお互い様じゃんよ。
お前との先、考えねーわけねぇじゃんか。
「……誘ってくれてありがとなっ」
俺はアイザワの手を握った──繋いだ。
くっそ照れる。
顔見れなくってそっぽ向いた。
これでより付き合ってるっぽく、なったんじゃね?
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