第324話 ハーブクッキー(後編)
どうも、タチバナタイヨウです。
俺はちっこい時から、っていうかちっこい時もでかかったんだけれど、そん時から他の奴がどう見ようと、どう見られようと気にした事がない。
どう言われて聞こえようと、だから何だ、と今でも思う。
それを薄情と思わせてしまったのなら、俺は変えていきたい。
そうは思っていないから。
「──これ、結構いいな」
「ほんとっ?」
ちぃが描いた花束のデザイン画は数点。
フラワーアレンジメントの画像でも参考にしたのか、まとまったものが多い気もするけれど、こうやって自分なりを出してみるのはいい事だ。
真似っこ上等、何でもそこからだと思う。
「摘みたてで手に握ったまんまの感じ」
「う、うん。そのまま渡す、みたいなイメージで」
「リボンが黒ってのも面白い」
俺では選ばない色かもしれない。
濃い色でも藍か紺くらいだろうか。
色のバランスを取る。
「えと、四人個々の似合う似合わないはもちろん大切だけれど、タチバナ君が前に言ってたイメージも大切にしてくて」
モデルは先輩二人と同級生一人、後輩一人とばらばらの人達。
何となくだけれど、俺はこう言っていた。
コウさん先輩はなんだかんだ喜ぶイメージ、クサカ先輩は結局楽しんでるイメージ、カトウはとりあえず怒ってるイメージ。
普段の印象は
大変身が目的ならそれはそれで面白いと思うけれど、今回はそうじゃない。
単純だけど──喜怒哀楽の感情、そう分けてみた。
「白じゃないのな」
「うん。黒って人を綺麗に見せるから」
本の受け売りだけれど、とちぃは言う。
……いいな、黒か。
俺は納得していた。
花を女性──想い人に例える。
俺にはなかったら新しいものだ。
「明日だよね、一年生の子が来るのって」
「うん」
「緊張するなぁ……似合うといいなぁ……」
ちぃはまた一枚、ハーブクッキーをざっくざく食べた。
緊張感が窺えない。
俺が担当する三人には偶然な事にそれぞれ彼女がいるし、考えやすいっちゃやすい──そうだ。
「練習してみるか」
口の端にクッキーの粉ついてんぞ、と教えてから俺はちぃに体を向ける。
ちぃも口元を拭きながら俺に向いた。
いつ見てもちっこいなぁ。
「俺でイメージ膨らませてみて」
考えやすいところ、俺で練習だ。
俺はちぃの彼氏だし、ちぃは俺の彼女だし。
そう考えると結構面白いかもと思った。
「そこらにある花とか持ってきてもいいよ」
「うー……楽しんでるでしょ……」
バレた。
ちぃはゆっくり立ち上がると窓際や壁にある花達を眺め出した。
花瓶に飾っているもの、壁に下げているもの。
さて、どれを選ぶだろうか。
俺だったらそうだなぁ……ちぃのイメージ……ちっこい、元気、たまに弱い、でも強い。
あと──ふわふわ? 髪とか、頬っぺたとか。
淡いピンク……オレンジ? 花びらは大きいやつじゃなくて──。
「──決めたっ」
するとちぃはもう選べたようで、ぱたぱた、と小走りで選んだ花を手に持ってきた。
「はいっ」
小さな白い花がついた、いくつも枝分かれした一輪のカスミソウだ。
手のひらよりもちっこくて、ちぃのちっこい指に握られている。
椅子に座ったままの俺の前で、ちぃは立ったまま説明する。
「あのね、タチバナ君って魔法使いみたいなのね」
本の虫の説明はファンタジックだなぁ。
「すっごく小さな花も、タチバナ君の魔法の手でもっと素敵になるの。花束にしたり、栞にしたり、たまに美味しくもなるしっ」
一輪でもいくつも花をつけるカスミソウはそれを連想しているのか。
「それとね──」
ちぃは少し俯いて、頬を赤らめてこう言ってくれた。
それは俺も照れるやつで、ああ、今回の企画のテーマだなって思った。
俺がちぃと、ずっと続けていきたいやつだ。
「──タチバナ君のそばにいたいなって。ち、小さい私だけれど……はっ、恥ずかしいんだけれど、うんっ」
「うん、恥ずい」
俺はちぃの手に触れた。
小さなカスミソウは俺も好きな花だ。
それを持ってるちぃはもっと好きだ。
「タチバナ君?」
ふっ、と笑みが零れた。
立っているちぃと座っている俺の目線がいつもより近い。
「……欲しいな、この花」
「ん? いいよ?」
ああ、これは伝わってないな。
俺も男だからさ……もうちょっと先とか、考えるわけです。
けれど怖がらせたくないから、今日のとこはここまで──より、ちょっと先へ。
小さい手、小さい花、その指に、そっと
「わ、わぁあ……」
ふはっ、何その声。
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