第297話 端っこかすていら(前編)

 日曜日は遅めに起きる事が多い。

いつもは六時くらいに起きるけれど、今日は九時まで眠っていて──修学旅行の疲れのせいね、と遅めの朝食兼早めの昼食を父さんと一緒に食べた。

ブランチというやつで、母さんはすでに出かけていた。

父さんも休みのようで、朝から何でか私と一緒にいたがる。

どうやら数日家を空けていたせいで私不足だったらしく、寂しい寂しいってうるさかったー、と母さんに聞いた。

めんどくさ──早く子離れしてほしい。


 そんなこんなで午後二時近く。

旅行のまとめをしていた私は震えた携帯電話をタップした。

ライーンだ。


『終わったー、向かってるとこー』


 ミッコちゃんからだ。

お土産を渡したいと連絡したら、バイト終わりに遊びに来てくれる事となって、実は起きた時から少し浮かれていた。


『お疲れ様。場所はわかる?』


『うん、二時半くらいに着くかな』


『はーい、気をつけてね』


 携帯電話を持ったまま部屋を出た私は、よし、とキッチンへ向かった。


 ※


 ミッコです。

女子の家に着いたんですけれど、出迎えてくれたのはクマさんでした。


「──いらっしゃーい」


 クマさん改め、甚平を着た大きな男の人の出迎えにあたしは数秒遅れて挨拶する。


「こっ、こんにちはっ。あの、ハナブサみつ子といいますっ。シウに、シウさんと約束してて──」


 誰!? お父さん!? でっか!!


「──聞いてますよー。ミッコちゃんだね」


 にっこりと微笑ながらスリッパを出してくれるシウ父にあたしは釣られて微笑む。

けれど緊張は解けなくて、バッグの紐を思いっきり握ったままだ。

どうぞー、と緩く通されて玄関を上がる。


「お、お邪魔します。あの……シウは?」


 おじさんいるとか聞いてないよいるならいるって言いなさいよあたしも聞かなかったけどさぁ!


「今、手が離せないらしくて──シウちゃーん! いらっしゃったよー!」


 はーい! と遠くから返事が返ってきた。

ぱたぱた、とやっとで顔を見せたシウにあたしはほっとする。

エプロン姿という事は何か作っているのか。


「いらっしゃいミッコちゃん。今焼いてるからリビングにいてくれる?」


 焼く? 何を? と思った時、シウ父に手招きされた。


 あ、何か甘い匂いしてきた。


「あっ、あの、うちの店で出してるお茶を持ってきたのでよかったら。少しなんですけれど」


 廊下で言うべきではなかったか、と時すでに遅いその袋を掲げる。


「わぁ、ありがとうねー」


 おぉ……笑った顔、シウにそっくりじゃん。


「ありがとう。早速淹れちゃってもいいかしら?」


「うん。あたしも何か──」


「──お客様は座って待つ。好きなとこにどうぞ」


 シウとシウ父は二人してリビングと続きになっているキッチンに行ってしまった。

仲良いんだなぁ、と遠目に見ながらあたしはソファーに腰掛ける。

リビングは綺麗に整頓されていてあたしの家とは大違いだ。

外観からもそうだけれど、広い家だなぁ、と失礼ながらもきょろきょろ見てしまう。

前に来た時──お正月に着物を貸してもらった時は、真っ直ぐ広間みたいなところに通されたのでここは初めてだ。


 ふぅん……家だとこんな感じなのね……おじさん、シウの事大好きって感じ。

うちのお父さんとは違うなぁ……──あ。


 あたしはソファーから立ち上がる。

少し奥に見えた仏壇にある写真が見えたからだ。


「──あの、手を合わせてもいいですか?」


 すると二人はあたしの視線の方を向いて、また笑った。


「うん、姉さんも喜ぶわ」


 そう言ったシウにあたしは何でか照れた。

そそ、と近づいてりんを鳴らす。


 やっぱ姉妹……似てるぅ。


 シウが綺麗だとしたら、お姉さんはかっこいいって感じがする。

けれど笑顔はきっと可愛いんだろうなと見えた。

この二人みたいに。


「…………あのー」


 あたしが目を瞑って手を合わせている内にか、シウとシウ父はあたしの両隣にいつの間にか座っていた。


「ありがとうね、お姉ちゃんも喜んでる」


 シウ父が前屈みになって微笑む。

シウも同じように前屈みになってあたしを覗き込んできた。


「焼けたわ。端っこかすていらで作ったフレンチトーストなの」


 それは修学旅行のお土産と聞いていたけれど、まさかアレンジ料理にしてくれるとは。

甘い匂いの正体はそれか、とあたしも笑ってしまった。


「──じゃあ父さんはどっか行って」


「えっ!?」


「いつまでもいたらミッコちゃんが気まずいでしょう?」


 ……わかるわー、あたしもお父さんに言った事あるある。


 父さんの分もあるから、とあたしとシウはしょんぼりと寂しそうなシウ父を残して、シウの部屋へと向かったのだった。


 ごめんなさい、いただきます!

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