第298話 端っこかすていら(後編)
シウの部屋も綺麗に整頓されていて、無駄なものも邪魔なものも何もないって感じだった。
割と少女趣味なのか、ピンク色の物が多い気がするのは気のせいではなくて、一人掛けのソファーにツギハギだらけの大きなウサギのぬいぐるみを見た時はちょっとびくついた。
若干ホラーチック? あと机にも小さなウサギのぬいぐるみがいて、それにはあのブレスレット──クサカから貰った雪のブレスレットが大事そうにかけられていた。
「──ノートパソコン?」
「うん。旅行のレポート書いてたのよ」
シウは、班の皆が撮った写真のデータを貰い、使えそうなもの、そうでないものを仕分けていた、と言った。
それから訪れたルート順に並べているとか。
するとシウの携帯電話が震えた。
「こういう写真とか」
今、班の人から送られてきたのか、映された画面を見ると、お菓子とお菓子と、お菓子が映っていた。
「あっは! めっちゃ食べてるじゃん! 今もだけどー」
「私達の旅行のテーマだったんだもの。そのお裾分けはどうですかー?」
まだ旅行気分が抜けていないのか、シウは浮かれている。
確かにシウのお土産はとっても美味しい。
元々甘いカステラだからか、染み込ませた牛乳と卵の液は甘さを抑えていて、けれどメープルシロップがとろぉりかけてあるのでやっぱり甘い。
あたしもいつかこれ作ってみよ。
あとあたしが持ってきたお茶も美味しい、合う!
「ありがと、美味しーっ」
「んふふ、当然」
ぶい、とピースする女子は、たたっ、と携帯電話をタップしてまたひと口、フレンチトーストを食べる。
あたしもまたひと口食べる。
「……あたしとあんたって学校違うじゃん?」
「ん? ええ、そうね」
ちょっと前から、少しだけ思っていた事。
「……一緒の学校だったら良かったなー、とか、ちょっと思うんだよね」
たまに、学校の廊下を歩いている時とか、放課後寄り道したりとか。
「振り返ったらあんたがいたりさ……同じクラスだったら一緒にお弁当──お菓子食べたり」
言い直すと一拍置いてからシウは笑った。
やっぱりシウはお菓子が似合う。
「修学旅行は同じ班かしら」
「そ。ふらふらするあんたのお
そう笑ってやるとシウは、むっ、として、そんなに子供じゃないわ、と弱弱しく反抗した。
おそらく、これから一度たりとも、あたしはシウと同じ学校になる事はないだろう。
「──進路、決めた?」
フォークでメープルシロップを掬って、舐める。
「うん。ミッコちゃんも決めたみたいね」
シウがおかわりのお茶を淹れてくれる。
静かに、ふんわりと香ばしい匂いがまた新しく上った。
あたしは専門学校へと進路を決めた。
「あたし、美容師になりたいんだ」
「似合う」
「んふっ、まだなってないけどー?」
「うん、似合うわ」
あたしは素直に照れた。
まだなってもいないし、続くかどうかもわからないのにシウはもう、未来のあたしを想像してくれている。
そしてシウは、大学に進学すると聞いた。
あたしには書道の事はわからないけれど──。
「──うん、似合う」
かっこいいもんね、綴ってる時のシウは。
「ありがと、嬉しいな」
今は、可愛い。
こういうとこ見れるのは友達の特権かな。
そしてシウはこんな事を言い出した。
なんでも近々、部活動の企画とやらで美容関係の事をするらしい。
モデル、花、メイク──。
「──何それおっもしろそ! クジラ君側から見学したい……やっぱあんたと同じ学校がよかったー!!」
「これ、前回の」
お、と開かれたミニアルバムを見る。
「美しかろ?」
ドヤ顔納得のシウがそこにいた。
そしてあたしは、決めた。
すすっ、と正座をして姿勢を正して対面のシウを真っ直ぐに見る。
シウは最後のフレンチトーストをフォークを刺して、お皿に残っていたメープルシロップを塗りたくって大きく口を開けていた。
「──見学させて」
「む?」
口に入れたままシウは止まる。
あたしは止まらなかった。
「本番じゃなくていいの! 練習っていうか、準備の時とか、空気感っていうか、そういうの味わいたいの! 邪魔しないからお願いっ!」
拝み手で頼んでみる。
他校で部外者のあたしだ。
けれど──。
「──じゃあ、どうやって侵入するか考えないとね」
ぱっ、と目を開けると、にんまり、と悪だくみする顔のシウがいたのだった。
……ん? 侵入って言った?
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