第273話 チョコレートアソート(前編)
移動中のバスの中は、すでに興奮気味のクラスメイト達が各々騒いでいる。
「──んー……っ、こう座ってばっかだと肩凝るー」
隣に座るノノカが背伸びをしながら大きくため息をついた。
その向こう右に座るカシワギちゃんも大きくあくびをしている。
「ふぁあ……朝早かったから出ちゃった」
私はリュックからいそいそとお菓子を出して、ばりっ、と開けた。
「はい、疲れた時は甘い物」
四種類のチョコレート──甘いのが私の担当。
キャンディ包みのキューブ型、丸型のチョコレートの中にはナッツやビスケット、それぞれ味の違いがある。
「あんがと。じゃあ酸っぱい担当から酢昆布をカシワギ氏に贈呈しよう」
ノノカもバッグからミニサイズの箱を取り出した。
眠気覚ましにはちょうどいいかもしれない。
「ではしょっぱい担当から──って言いたいところだけれど、そろそろ着くからやめときますねぇ」
ちぇ。
私達はそれぞれお菓子を三種類に分けて担当してみた。
小さい時の遠足と同じように、三百円まで、というルールも決めた。
こういうのも旅行の楽しみだったりする。
すると前の席に座っていた男子とコセガワ君が背もたれの上から顔を出してきた。
「二人も食べる?」
くれくれ、と手を出す二人に──これと、これ。
そしてサクラバ君にも、と一つ足して渡す。
ちなみに男の子三人は荷物持ちをジュース担当だ。
バスの窓の外は知らない街並みが駆け足で流れていく。
どこか自分が住んでいるところに似ているのだけれど、色が違うように見えるのはどうしてだろう。
きっと私の匂いがここにないからかもしれない。
とりあえず今は、チョコレートの匂い。
美味し、続けて二つ目──。
「──シウー、あんま食べてると美味しいもん入らなくなるよー」
「美味しいもんは無限に入るのでお構いなく」
「頼もしぃ。予定詰め込みまくったから心配してたんだけれど、クラキちゃんと男子達で何とかなりそうだねぇ」
私達の修学旅行のネタは、
お菓子だけではなくて、ご飯物も含んでいる。
皆それぞれ目当てのものが違うので話がまとまらず、なら、ぜーんぶ! という事になったのだ。
「……ところでですが」
するとカシワギちゃんが神妙な面持ちでノノカと席を変わり、私とノノカの間に座ってきた。
顔を近くに、と手招きするのでカシワギちゃんの肩に、こてん、と頭を乗せる。
「最後の修学旅行ですね」
「うん?」
「そうだけれど、それが?」
カシワギちゃんの手の中にある酢昆布の箱から一枚、失敬。
「……わたし、彼氏と一緒に修学旅行を回るという夢があったのですが──」
あら素敵な夢。
「──彼氏どころか好きな人も出来なかったというですね……くぅっ!」
カシワギちゃんは悔しそうに顔を押さえた。
「私達と一緒じゃご不満かしら?」
「アタシらと一緒じゃ不満なのかい?」
ぱっ、と手を離したカシワギちゃんが、にっ、と笑う。
「そんなわけないじゃないっ」
私達もー、と酢昆布をぺろん、と唇に挟み垂らして、携帯電話で写真を一枚撮る。
こんな些細な事でも楽しい思い出のひとコマだ。
「難しいなぁ、好きな人作るのって」
ふむ。
「カシワギちゃんって、レン君みたいなのがタイプだったんだっけ?」
「へ!?」
「え、マジ? あいつスペシャルな性癖隠し持ってそうじゃん」
「酷い。コセガワ君だってそうよね?」
後半、ひそ、とカシワギちゃんだけに教えると苦笑いが返ってきた。
「何だってー?」
「何でもなーい」
どうぞ困ればいいわ。
「とにかくっ、夢は叶わないので夜、女子会しますっ」
ぱんっ、と手を合わせたカシワギちゃんはそう提案する。
六人部屋の女の子達でお菓子を広げて喋るぞー、とまた一つ楽しみを増やしてくれた。
「それってコイバナ? アタシ苦手ー……って話を聞いて二人共? おい」
私とカシワギちゃんは後ろの席の同じ部屋になる女の子達に話しかけていた。
良い返事はすぐ。
「決ーまりっ」
「うぇー……勘弁してよ……」
「いいじゃない。ノノカもきっと楽しくなるわよ。愚痴大会しましょ」
愚痴ならいいけど、とノノカも諦めたようで、私とカシワギちゃんは、それだけじゃないけれどね、と、にやっ、と笑い合うのだった。
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