第274話 チョコレートアソート(後編)
女の子達のお喋りってのは、ひそひそ話しているようでもばっちり聞こえているわけで。
「──楽しそうだねー」
バスの隣の席に座るコセガワが女子に貰ったチョコレートを食べながら楽しそうにしている。
ひそひそ話すのは聞こえていないふりをするためか。
しかしスペシャルな性癖とか言われて動じないこいつが怖い。
「……どうっすか」
「何が?」
「お宅の彼女との進展すよ」
俺もチョコレートを食べる。
歯が、ぬぬん、と通る感じで、生チョコ的な感じか、と味わう。
するとコセガワが、はぁあああ、と深いため息をついた。
「しんどい」
そう言ってうずくまってしまった。
まさかの答えに俺は見下ろす。
女子から聞く話では少しずつではあるけれど、それっぽいことが進んでるとか何とかって話だったはずなのに、地雷スイッチを押してしまったか、と焦る。
しかしそれは全くの杞憂だった。
「もー……一生懸命何でもない風に俺に接してくるんだけれど瞬間意識した時のはっとした顔とかどちゃくそ可愛いしツンデレよりツンギレの方が似合うノノちゃんだったのに今はもうツンしてる最中も俺の方がデレッとしちゃうしこれって合わせてデレデレって感じだしずーっと欲しかった俺のツボみたいなのをどっきゅん押してくる感じとか身が持たないっていうかぁ」
……俺になっとるぞ、コセガワ氏ぃ。
「そんでちょっとずつ慣れていこうメモの一覧を一個ずつ消費してる最中なんだけれど俺的にはまどろっこしくてすっとばしてぇな? とか思う時あるんだけれど、あ、我慢してる俺凄くね? 誰か褒め倒して? とか考えるだけでもぞくぞく興奮してくるっていうかぁ」
あー……何で俺、こいつと友達やってんだろ。
「ちなみに一覧はどこまで?」
「十秒間のハグをクリアしたとこだね」
うぇっへっへっへっ、初々しいっすのぅ。
にや、と笑ってみせると上半身を起こしたコセガワは眼鏡を上げ直して──まだ語り足りなかったようだ。
「思わず高速で素数を数えて俺頑張れ負けるなって励ましたよね。ついでに俺からは触れちゃいけないってルールがあって本気で誰か俺の腕もぎとってくんねぇかなって思ったわ。んでも誰もいないし追撃するように激しく良い匂いするし、あれ? 俺の彼女って甘い果実か何かの化身? とか混乱したしこの辺りで素数どっか行ったんだけれど見慣れてるはずの柔らかおっぱいがまたふっよふよでさ。また育ったんじゃないかなEカッ──」
「──ストーップ。そこでやめとけやめとけ」
聞いてる俺が辛いです。
しかしなんだ、コセガワも慣れ──てはないけれど、俺と同じ高校生っていうのがわかって何か安心、は出来ないけれど、ほっ、としたような。
やっぱり複雑。
「……ん? 見慣れてるって何だ!?」
「ああ、最近まで僕の目の前で着替えてたんだよ」
「ん!?」
俺が混乱の番。
「ノノちゃん、そういうの気にしないんだよねー。何とも思ってないから別に見られたって平気ー、みたいな」
それはまた複雑な。
「小さい時から一緒にいるんだもん。お風呂も一緒に入ってたしさ。いやはや、幼馴染がこんなに難しくなるとはねぇ」
さすがに下着までだけれど、と言うコセガワだけれど嬉しい目は隠せていない。
健全な男子高校生の俺もまぁわからんでもない。
バスの窓の外を見ると、遠くに海が見えた。
もうすぐ目的地──本日の観光場所に着く。
ほー……でっかいなぁ。
「お前も大変っすな」
「わかってくれるぅ? 俺の精神力の高さ褒めてくれるぅ?」
すり寄るな鬱陶しい。
「はー……お前もちょっと変わってやったらノムラも変わんじゃねぇの?」
つい口に出てしまった。
コセガワはノムラ──好きな奴の前では違う。
それは俺自身にも言える事だとは思うけれど、どこか抑えているというか。
それが今までの経緯もあってだとわかっている。
こうやって我慢? の方法を聞いていると、アドバイスの一つもしたくなったというか。
そうしてやりたい、というか。
するとコセガワはチョコレートの包み紙を綺麗に小さく折ってこう言った。
「……つまり押し倒せって事?」
「そーじゃねーーよっ!!」
すっとばしどころか暴走してんじゃねぇか! とつい叫びつっ込みをしたところ、後ろの席の女子とノムラが背もたれの上から顔を出した。
「大きな声どうしたの?」
「なーにー? 煩いよー?」
するとコセガワはにこやかにしゃあしゃあと、何でもないよ? と言いのけたのだった。
もうこいつ、腹立つぅ。
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