第267話 ストレートティー(前編)

 まずはこの会話をお聞きください。


「──なぁなぁ、たまーに無性にホットケーキ食いたくなる時ねぇ?」


「何となくわかるかもしれないわ」


「んでも実際作って食ったら結局一口満足なんだよなー。一枚もいらねぇの」


「それはわからないわ。ホットケーキ焼くの下手なんじゃない?」


「上手いわ。あれよ、フライパン投げてひっくり返してるっつの」


「フライパン投げてるなら悲惨ね」


「想像力足しぇ、ひょいってやつ、ひょいってやつ」


「あは、二回も言うなんて必死過ぎ。で? 言いたい事は?」


「限定ロールケーキ一口下さい」


「いらないって言ったくせに──むーん、手ぇ離してー」


「んん、美味いなこれ」


「ひどい、今度何か奢り返してよね」


 …………という会話をお聞きくださったと思いますが、俺と女子ではありません。


 ここはショッピングモール内の喫茶店。

人気の店なのか満席で、けれど都合よく気兼ねしないでいい端っこの席に座れたはいいものの、入る直前に一人、追加されたのだ。


 壁際に俺と荷物。

対面には女子と、レンが座っているのだ。


 レンも俺達と同じように買い物に来ていたらしく、別に合流はいいんですが、このやり取りを真ん前から見ていた俺から一言、物申してよろしいでありましょうか。


 俺はアイスのストレートティーに挿したストローを口から離して、申した。


「…………いつの間にそんな仲良くなったんすか」


 レンは女子に告白して、女子はレンを断った関係で、ばったり会った時に俺は少々気まずいなと思っていたのに、この仲良し加減だ。


 むしろくっつき過ぎてですなぁ?


 すると女子とレンは顔を見合わせて、隣同士くっついていた肩や腕をようやく離して俺に、にんまり、と微笑んできた。


「友達だもの」


「友達だし」


 二人揃って、お揃いの理由。

そしてレンは頬杖をついてこう言った。


「そーりゃ多少は気まずいとかあっけどよ。俺、お前らの事好きだもん」


 ストレートティーふくかと思った。

何を言うんだか。


「言っとくけど、フッたフラれたはもうケリついてっからそういうんじゃねぇぞ?」


「お、おん」


 なら安心──出来ない事案がまた目の前で起こった。

レンが掲げた携帯電話で、ツーショットでピース付きで、写真を撮り出したのだ。

距離近くないですか!?


 ……いや待て。

ここで余裕的なものを見せておいた方が理解ある彼氏、という事になるのではないか? しかし俺そっちのけで──。


「──ほい、ミツコにライーン送信ー」


「へ? 何でミッコ?」


「あー、お前知らなかったか。あいつとも俺、お友達よ」


 いつの間に。

聞けば最近ミツコはアルバイトを始めたとかで忙しくしているらしい。

女子ともあまり会えていないらしく、自慢ライーンも含めての写真だったようだ。

そっか、と頬杖をつくと、女子も頬杖をついてきた。

少々前屈みで距離が近い。


 ……その顔、ずっりーよ。

いーよ、はいはい、楽しいっすもんね、はーい。


「ところでレン君、結構大荷物だけれど何買ったの?」


 俺の隣の椅子には袋がどっさりある。

それでもはみ出て足元にも荷物がある。


「ああ、写真部のやーつ。一年らにアルバムっつーかファイルをな。まずはこれを全部埋めるくらい写真撮るっつーのが最初の活動なわけよ」


「へー、ちゃんとした活動だな」


「リョウも……してねぇか」


「してるわー、自由且つのんびりを実践して見せてるわー」


 レンは最近俺を名前呼びする。

というか、戻った。


「そうそう、企画のやつぼちぼち動くからよろしくー」


「げっ。ま、まじでやんのあれ──」


「──? ?」


 っつぁー……シウちゃんにまだ言ってなかったぁー。


 俺は顔を両手で覆って隠れた。


「生物部植物科とメイク部と写真部のコラボ企画ー、って言やわかるべ?」


 レンが言うのぉ?


 指の間から、ちら、と女子を見ると、ぱぁ、と顔を晴らしていた。

大きく開けたきらきらの目が、ずい、と近づいてくる。


? ?」


 …………お気づきですか、この台詞。


 仕返しとばかりの晴れ顔は面白がっているのと、期待のそれだ。


「……そだよっ、頼まれたんですっ」


「撮影俺なー。べっぴんに撮ってやっかんなー、リョウちゃん♡」


「絶対に見に行くからね、リョウちゃん♡」


 俺は二人してにやつく仲良し共に、うっせー! とストローに噛みつくのだった。

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