第252話 茎わかめ(後編)
ジャージのポケットの片方に手をつっ込んだまま、俺は言った。
「──一センチ伸びた。っつー事はコセガワと同じ?」
「ざーんねん。僕は二センチ伸びましたー」
ちっ。
「俺は三センチ」
ピースサインを向けるサクラバは俺らよりも見るからに背が高く、百八十センチ以上ある。
俺らは百七十五センチあたりだ。
「成長期ぃ」
「一年ん時は八センチ伸びたからな。寝てる時に骨がみっしみし鳴んの」
「俺もあったわ。足つりまくんの」
立てないくらい痛いのなんの。
体育館でやっている身長測定では、初々しい一年生達が計っているのが見えた。
まだこれから伸びるんだろうな、という男共がちらほら。
「何だかんだで五センチは伸びてんだよな、俺」
「僕も同じくらいかなー」
「俺は……十五センチ」
かーっ。
俺はポケットに入れていた茎わかめをおもむろに取り出して食べた。
それを二人に見られて手を出してきたので、それぞれあげる。
「さんきゅ、梅味」
「クラキから?」
「いや、これは俺が──って、サクラバ知ってたっけ? 俺らがそのー……」
するとサクラバは、こりこり、と食べながら眉間に皺を寄せた。
「同クラで知らねぇとかないべや」
「ははっ、そだね」
「ついでにコセとノムもな。オメデトー、いいですねーカノジョ持ちー。羨ましーっすわー」
「アリガトーゴザイマース」
「アリガトーゴザイマスー」
激しい棒読みで遊んでいると、サクラバの後輩が挨拶してきたので黙る。
サクラバはバレーボール部で、大会でも結構いい成績を残している。
話しかけてきた後輩──二年の奴も結構な高身長で見上げてしまう。
「──よ」
と、今度は俺に話しかけてきたのは、用紙をひらひら、と掲げながらこっちに来るレンだった。
「──百七十五!」
「百七十九!」
見るからにレンの方がでかいので何の張り合いをしてしまったのか、とりあえずため息をついておこう。
「おっ久し。あと検査何?」
「目と耳」
サクラバに、行くべ、と言うと、先に行ってれ、と返ってきたので俺とコセガワ、レンで行く事に。
実習棟の一階だったか、と他愛のない会話を続ける。
「そういや生物部は新入部員入ったん?」
「ぜーろー」
「マジか。ほぼ毎日菓子が食えます、って謳い文句で釣ってんのかと思ったのに」
「それがノノちゃんの人見知り戦闘力に
あー迫力と圧か、と俺は苦笑いする。
「写真部はどーよ?」
「五人確定、あと渋ってんのが二、三人かな。天文部はどうよ?」
俺は、四人、と親指を折り曲げた手を見せた。
あの後、確定で四人、まだ渋ってる──考えてみます、というのが三人ほどいる。
去年に引き続き割りと盛況で嬉しいというのが本音だ。
どうして三年は俺一人なのか、というのはまぁ人それぞれ──色んな方向に分かれていいって事で。
……ミヤビちゃんは他の部活見なくてよかったのかねぇ?
「何だよ、顔笑ってんぞ?」
「ん、いや、面白そーな一年が入ってさ」
「いいなぁ、僕も後輩ほしー」
「タチバナ達がいんじゃん?」
「じゃなくて一年生ー。女の子希望!」
「……コセガワってこういう奴だったっけ?」
「色々吹っ切れたっぽくって」
「はっ、春めかしいこって。で? 面白そーな一年ってのは?」
レンの身体検査用紙をちら見すると、握力も俺よりあった。
「ミヤビちゃんって一年なんだけどさ」
「女?」
「残念、男ー。しかもイケメンな。カジって奴でさ、即決で天文部入ってくれたんだ」
そう言うとレンが止まった。
他の奴も流れるように歩いてんだからいきなり止まってやるな、と顎で示すと、慌てて歩き出した。
「……カジ、っつった?」
「おん。何、知り合い?」
「いや……や、気のせいかも。苗字なんて被る事多いしな」
三学年、各十三クラス、何人いると思ってんだ。
「ま、その内会うんじゃない? クサカといればさ」
そだな、とレンは頭を掻きながら言ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます