第251話 茎わかめ(前編)
今日は全員、体操服のジャージ姿。
「──去年とちっとも変わってないや。シウは?」
「身長が五ミリ伸びたわ。カシワギちゃんは?」
「一ミリも変わらず……いいなぁ、ノムラちゃんもクラキちゃんも背ぇ高くてー」
私とノノカ、そしてカシワギちゃんの三人は身体検査用紙を片手に廊下を歩いていた。
今日の午後は全学年一斉に身体検査を行う日で、私達と同じように皆が皆、ジャージ姿で体育館や各教室に移動をしては集まっている。
「ノノカはそうだけれど、私は平均数値じゃないかしら?」
私の身長は百六十センチに届かないくらい。
ノノカは百七十センチに近いくらい。
カシワギちゃんは百五十五センチないくらい。
「もうちょっとほしいなっていうのあるじゃない?」
「アタシが逆にこんなにいらないよってあるじゃない?」
「私はどっちでもいいかなって思うじゃない?」
ノノカに続いて私もカシワギちゃんの真似をすると、二人とも意地悪だぁ、と怒られた。
「あっは、一緒だっての」
「一緒って?」
「ないものねだり、あるものねだり」
「あー……」
「その点、シウは真ん中でちょうどいいかもね」
え。
「そう?」
「有って、無い」
「無くて、有る」
言い方の違いだけれど、後半のカシワギちゃんの言い方の方が好み。
「……私はノノカもカシワギちゃんも好きよ」
そう言うと二人は真ん中の私の両腕にそれぞれ腕を絡めてきた。
「アタシもー」
「わたしもー」
「あは。あ──」
「──あ。こ、こんにちは……」
一年生のハギオさんと渡り廊下ではち会った。
ハギオさんもクラスの子と一緒に回っているようで、そして私に見つかった、みたいな顔でクラスの子の背中に半分隠れてしまった。
取って食べたりしないのに──そんな風にされると食べたくなっちゃうのはどうしてかしら?
「こんにちは。どう? 書道部に入る気になった?」
「い、いえ……まだ考え中、です」
「ふーん、言ってた新入部員候補ちゃんってアンタかー」
と、ノノカもカシワギちゃんも興味津々に絡み出した。
もちろん良い意味での絡みだ。
私が、嫌いの感想貰ったの、と話したら面白い子じゃん、と笑っていたからだ。
するとおそらくノノカの気迫──圧? に押されたハギオさん達は、おず、と半歩下がってしまった。
「あっ、大丈夫だよっ。この二人は雰囲気だけ強めというか、そういうのあるかもだけれどっ、基本良い人達だからっ、多分っ」
「……それ、フォローになってますか?」
「…………あれ?」
ハギオさんにつっ込まれてようやくわかったか、今度は私とノノカに見つめられたカシワギちゃんが半歩引いてしまった。
「──あは、先輩達って変な人達ですね」
あら、ハギオさんが笑ったわ。
私はもっと固い子なのかと思っていた。
けれどそれは芯で、固くあっていいもので、何より私はまだハギオさんを知らない。
可愛い一年生をもっと知りたいと思っている。
「……書道部に入ってほしいなー?」
「こーらこら。強引勧誘はアウトー」
「だって嫌いって言われっぱなしは嫌なんだもの」
するとハギオさんの隣にいた子がハギオさんを肘でつついた。
どうやらこの子も事情は知っているようだ。
「……すいません、でした」
ん?
私とノノカとカシワギちゃんは顔を見合わせる。
「何で謝ってんの? 嫌いでいーじゃん?」
「わたしも嫌いなものあるよー? それもいっぱい」
例えば? と私が問うと二人は、風紀検査! テスト全部! ピーマン! こんにゃく! と息巻き気味に次々答えた。
するとハギオさんのお友達が耐えきれずに笑ってしまって、私も釣られて笑ってしまった。
「こういう事よ。いいの、あなたが嫌いでも私が好きだから」
そろそろ次の検査に行かなきゃ、と私達は移動する事に。
そして、お裾分け、と私はポケットに入れていた今日のお菓子──茎わかめの小袋を二人に渡した。
わかめっておかずだけれど、茎わかめになるとお菓子類に分類される不思議がある。
「……ありがとう、ございます。いただきます。やっぱり、変ですね」
少しは私の事を知ってもらえたようだ。
「またね、ハギオさん」
そしてすれ違いざまにハギオさんはこう言った。
「あの、先輩が嫌いなものって何ですか?」
そんなの決まってるじゃない、と私は半分振り向いて微笑んだ。
私は体重測定が大嫌いなの、と。
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