第187話 ホットオレンジジュース(前編)
──目が覚めました。
おはようございます。
「……むん」
どうやら私はベッドの中にいるようです。
中の薄い毛布がやや右寄りなのが気になります。
仰向けになって布団を蹴って左に引っ張って──直りました。
部屋の外からは小鳥と思わしき鳴き声が聞こえます。
どっか行け。
それとひどく喉が渇いています。
──ここまで現状報告。
部屋のノックで頭がはっきりしてきた私は寝返りを打って扉の方を見た。
母さんが扉半分、顔を出して──。
「──おはようさん。起きてんじゃないの。もう十時過ぎてるわよー」
なんと。
「……もうそんな時間?」
「そ。二人していつまでも寝てんだから」
二人?
「父さん?」
「そ。頭は大丈夫?」
「母さんに似て賢い方かと……」
「当然。じゃなくて、あんた昨日お酒入りのチョコ食べちゃったでしょ。そこは父さんに似ちゃったみたいよー」
父さんはお酒が弱くて、けれど昨日はカラスちゃんに貰ったチョコを……食べて……っ──。
「──朝なの!?」
「なーに大きな声出して。顔洗ってリビング集合。酔い覚ましのジュース作ったからねー」
母さんは一足先に私の部屋から出て行って、私はベッドから勢いよく出た。
いつもの寝る格好だけれど着替えた記憶はあまりない。
あれ、私……どこから……っ。
その時、髪の毛を指で梳いていたら何か引っかかった。
左の、手首の、と見るとそこには小さな雪の結晶がついたブレスレットがあって──思い出した私はまたベッドに潜り込んだ。
まだ夢から覚めていないのかもしれない。
けれどこのどきどきの感触は現実で、覚めた夢であって──いっぱい、チューしたのも思い出した。
布団の中で丸くなっているとまたノックがした。
母さんが、寝ぼすけはおやつなし! と少々お怒りなのでベッドから飛び起きて、そしてこうも言われた。
「腕のきらきらは外してから顔洗いなさいよー」
わ、わかってるもん!
と、私はまた雪の結晶を指でなぞった。
※
着替えは後でいいや、と顔を洗った私はリビングに行くとすでに父さんが座っていた。
ソファーの肘掛けに項垂れている。
「おは、おはよう、父さん」
「おはようさん……」
ぎこちなく隣に座った私に気づかない父さんは、大きな手で目元を押さえている。
「二日酔い?」
「んー……ごめんねぇ、一緒にケーキ食べれなくて」
忘れてた!!
「だ、大丈夫。私もその、寝ちゃってて」
すると父さんは体を起こして微笑んだ。
「そっかそっか。楽しかったみたいだねぇ、クリスマス」
……うん、とっても。
「……父さん達もデート、楽しかった?」
「おう。母さんなんかワイン三本も空けたんだぞー」
「えっ──」
「──久しぶりの外食ではしゃいじゃったのー。これでもセーブして飲んだのよ? あと二本はイケた」
母さんがそのように酒豪だとは知らなかったので私はびっくりだ。
すると父さんが体を倒して私に耳打ちしてきた。
「父さんの小遣いなくなるかと思った……」
「何だってー? はい、ホットオレンジジュース。頭すっきりするわよー」
掘りごたつに私と父さんが隣同士に、母さんが父さんの右横に座って、いただきます。
温かいオレンジって落ち着く……美味し。
少し生姜が入ってるのかしら。
蜂蜜の甘さが良い感じ……。
「んふふー、昨日ね、クサカ君とここでお茶したのよー」
「えっ! 何それ聞いてないっ、スミレちゃんずるいっ」
私が慌てたかったところなのに先に父さんに取られた。
「だから今言ってんでしょーが。一緒にケーキ食べたのよー。いいわね男の子って。食べっぷりもいいし、んふふー」
私と父さんは顔を見合わせて、母さんを見た。
すると母さんは、じろ、と私達を見返してきた。
「……一人ぼっちケーキにお誘いしただけですー。余計な事は言ってませーん」
むん……気になる……とっても気になる!
どうやらそれは父さんも同じらしく、貧乏ゆすりが震度二くらいになっている。
私は揺らさないけれど、母さんのにやにや顔に若干むっ、ときたので──。
「……ずるい! 私も一緒にケーキ食べたかった!」
──と、二つのヤキモチを妬いたら笑われてしまったのだった。
あと父さん、そろそろ地震やめて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます