第188話 ホットオレンジジュース(後編)
「──お?」
ゲームをしていたらライーン通知が、てとん、と鳴った。
ゲームを一時停止して、ベッドに投げていた携帯電話を操作してみると、同時に妹のヨリがノックなしで、ばーん、と部屋に入ってきた。
一応男な兄の部屋なのでノックしていただきたいっ。
「何か用かー?」
「暇でね! 駄弁りに来た!」
「冬休みの課題とかすりゃ──」
「──あー暇だね! 暇だ暇だ!」
あー嫌だね! 嫌だ嫌だ! ってとこか、とベッドにうつ伏せに寝ていた俺の上にぴったり乗ってきたヨリをそのままにライーンを開く。
『おはようございます。昨日はありがとうございました』
堅苦しいな、と俺は軽く笑った。
「シウさんから?」
「おー」
「昨日楽しかった?」
「……おー」
色々あった。
楽しくって、恥ずくって、泣きそうになって、笑いまくって、少し思い出すだけで舞い上がるのを抑えるのが朝から大変だ。
可愛かったなー……。
またライーンで、今度は画像だった。
昨日クレーンゲームでとったツギハギコとやらの文字通りツギハギだらけの変なウサギのぬいぐるみの首に、雪の結晶のブレスレットがかけてある写真で、数秒後、俺はにやけた。
「何々? わう!」
「見んなー。重ぇからどけー」
腕に力を入れて上半身を反るが、ヨリは首にしがみついてきた。
「下に行くならおんぶー」
何か今日は随分と構ってちゃんだな?
少々息苦しいのを我慢しつつ、俺は起き上がってベッドに腰掛ける。
まだライーンは途中だ。
『プレゼントありがとう。めっちゃ大事にするわね。あと、寝てしまってごめんなさい』
……にや。
「うー寒いー。何かあったかいもん飲もうよー」
「わかったわかった──よいせっと。暴れんなよ、階段あんだから」
ヨリをおんぶして背負い直した時、こう聞こえた。
「……いいなぁ、オニィは」
「あん?」
俺はライーンを返信する。
その間もヨリはぶつぶつ言っていた。
『おそよーさん。俺も大事にする。昨日はありがとな。おばさんにもご馳走様でしたって言っといて下さいな』
「羨ましーよ。彼女さんと仲良しだし」
階段ではさすがに片手は危ないか、とヨリの足をしっかり握って下りる。
「彼氏と喧嘩でもしたんかー?」
「ううん。喧嘩とかじゃなくてさ。ただ──敵わない人っているなー、って話」
中学二年のヨリがいっぱしの女みてぇな事を言っていて少々面食らった。
まだ持てる重さだけれどちっこい頃と何ら変わらない。
ヨリは俺の妹で──妹だ。
「……俺だって敵わない奴、いんよ」
「ん? 聞こえなかった、何?」
聞こえなくていい。
これは俺の弱音だ。
兄の威厳とかそんなんじゃない。
いつ、そういう奴が現れてもおかしくはない。
本当はびびってる。
クラキは──俺の好きな奴は、そういう奴を惹き寄せる。
「オニィ?」
「……いーや。泣かされたらまたおんぶしてやんよ」
「泣かされてないっすー。泣かしたんすー」
俺の妹がよくわからない。
「おら、台所着いたぞ。降りれ」
「うい。オレンジジュースあっためるけど飲む?」
「
するとヨリは、テレビでやってたから多分美味いんじゃない? と二つ分用意し出した。
やれやれ、と俺は椅子に座ってまた携帯電話を操作する。
『冬休みの予定は?』
そんな女子のライーンに、休み中の課題は無視出来ないけれどとりあえず無視の方向で考えてみる。
どこかに行くっていう予定は今のところない。
部活もないし、正月までの大掃除や母さんのダンス教室の大掃除もプラスしたら結構な作業になるけれど──。
『どっかで会いてぇな』
昨日会ったばかりなのに、もう会いたい、とか。
携帯電話の縁でおでこを掻いて、恥ずいのも掻く。
そして目の前に湯気を立たせたオレンジジュースが置かれた。
「いただきまー」
「まー」
兄妹同時に、一口。
「──熱すぎて味わかんねぇ!」
「同じくだ!」
その時、女子から返信が来て、俺はまた、にや、と笑ってしまったのだった。
『うん!』
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