第178話 ホットミルクティー(後編)

 まさかゲームセンターでいいとは思わなかった。

ゲーム好きだってのは負けまくっているから知っているけれど──それよりもこの興奮具合は想定外だ。

俺の手を繋いだままの女子はクレーンゲームの前で、ぴたり、と止まって動かない。


「ツギハギコシリーズがこんなところにあるなんて……っ」


 何だそりゃ、と中にあるぬいぐるみを見た俺は思い出した。


「これって、お前の部屋にあったぶさいくなウサギの──」


「──ぶさいくじゃないです可愛いんですー。小さい時から好きなの。バージョン違いで柄や目、顔が違って楽しいのよ?」


 俺にはあれもこれも同じように見えますが。


「クリスマス限定、欲しいー……っ」


「ふはっ」


 子供みたいな無邪気さに笑ってしまった。


「む。なーに?」


「いんや。じゃあやってみっか」


 俺は三百円を財布から取り出した。

二回挑戦出来る。


「先にいいぞ」


「え、けれど私これ壊滅的に下手よ?」


 以前、小学生の頃にやった事があるそう。


「それはそれで面白ぇし、一回ずつなー」


 女子は、むん、と気合いを入れて一回目を操作する──が、本当に壊滅的に下手くそで俺、爆笑。

かするどころか目標から遠すぎる。


「だから言ったでしょっ」


「はーっ、ごめんごめん。じゃあ俺な──」


 クラキが欲しいっつったのはあいつか……じゃあこんくらいで……こんくらいか?


「えっ、えっ、嘘っ」


 これは俺もびっくり。

上手い具合にアームが引っかかってくれて、一発ゲットだ。

手のひらサイズのやっぱりぶさいくに見えるぬいぐるみを掴んで女子に渡す。


「ドヤぁ」


「今は得意気許すー。凄い、嬉しーっ、ありがとっ。ね? 可愛いでしょ?」


 女子はぬいぐるみのチェーン部分を持って、顔の横で揺らしている。

どっちかっていうと、完全に女子の方が可愛くて、困った。


「はいはい、可愛い可愛い」


「んふふー、適当な感じも今は許すー」


 適当じゃないですけれどね?


 そして俺達はまた手を繋いで歩き出した。


 ※


 嬉しい。

まさかクレーンゲームになってるなんて知らなかったもの。

とりあえず手に持っているのもあれだから、バッグチャームみたいに──うん、今はここにいてもらいましょう。


「何か飲む?」


「ミルクティーあるわ。もう冷たいけれど」


「一口くれれ」


「ちょっとしかないから全部どぞぞ」


 私は難なく飲む男子を見ていた。


 か、間接キスなんて初めてじゃないのにまだどぎまぎしちゃうなんて、絶対ばれたくないっ。


 という顔を必死に耐えて私達はまた歩く。

ゲームセンター内は結構な人がいる。

家族連れだったり、友達同士だったり、彼氏彼女だったり。


「ん、こっち」


 飲み終わった男子がまた私の手を繋いだ。

迷子防止かしら──なんて、照れ隠しも隠しましょう。

むん。


 男子についていくと、対戦型格闘ゲーム機のエリアに来て、そこには中学生の男の子達が群がっていた。

斜め後ろから覗いてみる。


 わー……かっこいいキャラね。

女の子のキャラはいるのかしら。

何より──。


「──操作、難しそ」


 つい呟いたからか、聞こえた中学生達が何人も私に振り返った。

とりあえず微笑み返しでもしておきましょうか。

そしてちょっと操作方法を見せてもらいましょうか。


 ふむふむ……うんうん。


 画面と手元をちらちら交互に見て、うん。


「うん、覚えた。これやりましょ」


「はい!?」


 男子も中学生も驚き顔で、私も遅れて驚いたふりをしてみせた。

そんなに驚く事かしら。

何でも最初は見様見真似なのに。


「はい、クサカ君は向こう側に行った行った」


「わ、わかった……」


 そして私は順番を変わってくれた中学生達に選択操作やその他の操作を少し教えてもらって、はい対戦、よーいスタート。


 画面では私が選んだウサギ耳の女の子のキャラクター、男子が選んだ猫耳の男の子のキャラクターがジャンプして、パンチして、キックしている。


 ふむふむ、やってみると案外操作が上手くいかない──あ、わかった。

スティックの持ち方が合わないんだわ……ほらね、んふふ。


 一ラウンド目、接戦気味だったけれど私の勝利。

ニラウンド目、もうコツを掴んだ私の圧勝。


 台の向こう側にいる男子が体を横に倒して見てきたので、私も体を横に倒してあげる。

男子の顔は悔しそう。


「……もう一回!」


「んふふ、かかってこいこい」


 と、それから何回か対戦した私は続けて圧勝した。

ついでに中学生達にも大人気なく圧勝したのだった。

いえい。

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