第168話 カフェ・ラ・テ(後編)
……はー……話なっがー。
オオカミ先生こと、オオツキ先生は我が校の数学教師で生徒指導主事の先生でもある。
そんでもって書道部の顧問であり、確か天文部もオオカミ先生が受け持っておられたはずだ。
人数が少ない部や活動が活発ではない部はほとんど受け持ってしまう先生だから、他の部活動が幾つあるか。
ちなみにオオカミ先生は生徒の中でのあだ名で、鋭い目つきと尖った八重歯が特徴だ。
男の先生でとにかくしつこく、まだ話をされている。
私と男子は自分の席に姿勢正しく座り、オオツキ先生は私達の前に立っている。
すると男子が恐る恐る手を上げた。
「何だ?」
「あ、あの……話はわかりましたんで、そろそろ解放してもらえない、かと」
私も男子に同意する。
もう十五分は息継ぎなく話されているし、疲れるんじゃないかとも思う。
私達はもう疲れている。
「……誰のせいで疲れてると思ってるんですか? ん?」
それは──。
「──私ですね」
今度が私が軽く手を上げた。
「確かに校則違反だと思います。恋愛禁止ではありませんが、これは先生方にしてみれば不純異性交遊の一部にあたる、そういう事ですよね」
「わかってるじゃあないですかー」
「不純ではない、と言っても先生は納得されませんよね?」
「納得、不服の問題じゃあないからなー」
「つまり?」
オオカミ先生は首の後ろを撫でながら、ふーっ、とため息を吐いた。
「……恋愛上等。どんどんそういう好きを見つければいいと俺は思ってる」
意外な答えに私と男子は顔を見合わせた。
「つまり、お前らはぬかった」
「ぬかった?」
男子が言うので私は少し考えて、言った。
「……私がぬかった、という事ですね」
見つかるな、という事。
オオカミ先生はもっと固い先生かと思っていた。
けれど今、先生は笑っている。
にやけているようにも見えるけれど、否定はしていない。
「今回は俺が目撃しちまったから形式上の説教を一応な。今はまぁ、懲りとけ」
そう言ってオオカミ先生は、ごきり、と首を鳴らせてまた笑う。
しかし一応の説教が終わったというのに、まだ教室を出て行こうとしない。
私と男子はまた顔を見合わせて、男子が聞いた。
「……まだ、何かあるんすか?」
「いやいや、お前らは俺とイツキの──まぁ黙っててくれてんのに、と思ってよ」
「イツキ?」
「あっ、ちょ、センセ、それまだ俺だけしか──」
「──あ?」
「ん?」
やや慌てる男子に目を瞑る先生、二人を交互に見る私の
そして男子と先生は少し近づいて、ひそひそ、と話し出した。
「マジかお前。いい奴だな」
「言うわけねーっすよ。つか、自爆って勘弁してくださいよっ。俺、こいつに秘密とか難易度高ぇんすからっ」
「わかった、すまん。とりあえず誤魔化すぞ」
「誤魔化すってどうやって……あーもう、ミズタニ先輩にもどう言ったらいいか……うあー……っ」
「……クサカって結構苦労人なんだなー」
誤魔化すも何も全部聞こえているのだけれど、と私は男子のカフェ・ラ・テを勝手に飲んだ。
ふむ……これはクサカ君が以前言っていた、すげぇ秘密を知ってしまったよ、というあれなのかしらね。
まさかオオカミ先生絡みとは思わなかったけれど、それに天文部の先輩? ……ふむ──。
「──私も言いませんよ?」
二人が注目する。
「大変面白そうな話ではありますけれど、先生に倣います。恋愛上等──ただ、見つからないように」
にっこり、と微笑ながら私は言った。
オオツキ先生は目を丸くして、すぐに鋭い目つきに戻った。
「言うねー」
「ありがとうございます」
「はっ! いいね、嫌いじゃない。まぁあんま苦労させんなよー」
それはどうかしら、と肩を軽く上げると、男子は頬を掻きながらこう答えた。
「別に……た、楽しいんで大丈夫、です」
また、我慢が出来なかった。
嬉しい答えににやけてしまったのだ。
「──はいはい、じゃあ今回はこれで解放します。あ、クラキは職員室まで来い」
私? と首を傾げるとオオツキ先生は、先生の目でこう言った。
「クラキが仕掛けた校則違反だと自分で言いましたもんねー。って事で数学のプリント二枚。残念だったな」
にやにや、とするのはオオツキ先生の先生ではない、地の部分だと思う。
……食えない先生だわ、ちぇ。
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