第159話 ひよこ豆(前編)

 お久しぶりーっ! 男子ちゃんの携帯電話のワタシですけどーっ! きゃっほぅ!


 放課後の教室の廊下側、一番後ろの席の女子ちゃんの机の上にワタシは置かれていまっす。

そしてもう一台、手帳型のケースにいるも置かれてるの。

初めましてじゃないけれど、初めまして、って言っておきましょうかねー。

んー、堅物そーで若そー。

って、ワタシもまだまだ現役ですけれどね?


 さて、どうしてワタシらがここに並べられているかなんだけれど、それはご主人である男子ちゃんと女子ちゃんが仲良くお勉強中だからですよ。

ええ、ええ、学生の本分ですものねーぇ!


 実は男子ちゃんはあんまりお勉強が得意じゃあにの。

めちゃくちゃ成績が悪いってわけでもないんだけれど、何て言うか……ケアレスミス連発? 惜しい! みたいな?


『……ちょっと』


 それで男子ちゃんの彼女ちゃん! そう! 彼女ちゃんになった女子ちゃんに教えてもらってるっていうね! ひゅーぅ!


『……ちょっと、呼んでるんですけれど』


 もういっちゃいちゃしたらいいのにーって思うんだけれど、まぁこの二人のペースっていうのが一番だし? でもでもモヤモヤすんのよーっ!


『……あの、オニイサン? 聞こえてますか?』


 おや? 今何か聞こえたかしら?


『……もしもし……気づけよジジィ』


 あ゛?


 ちょうどご主人がワタシを持ち上げてタップタップ。

黙って勉強するのもあれだからって小さく曲を流していたの。

いい選曲よ!


『……ボクの声聞こえてますよね? オニイサン』


 無視、無視無視。


『……オバサン?』


 あ゛ーん?


『だーれがオバサンよ! オネエサンでしょ!』


 女子ちゃんの携帯電話ちゃんが微弱電波を飛ばしてきたのだけれど、さすがにオバサンはないわよねーぇ? 失礼しちゃう! こーんなに綺麗でまだまだ若くて美しいのに!


『……ではアネサンとお呼びします』


 まぁそれでいいわ!


『何よボクちゃん』


『いえ、最近お会いする機会が増えたのでご挨拶をと思いまして。ボクのご主人がお世話になって──お世話してます』


 あっはっは! 女子ちゃんによく似てるボクちゃんだこと! まぁいっつもお菓子用意してくれたりこうやって勉強教えてもらったりしてるものねぇ。


 今日の男子ちゃんと女子ちゃんのお菓子は──豆? ちっこくて丸いのをお箸でつまんでは、ぽりぽり、食べてるわー。


「──シナモンシュガー、いいでしょ?」


「うん。こりゃ止まんな」


「ふふっ、お箸じゃなくてペンが止まらなければいいのだけれど?」


「はーいはいはい」


「はいはい」


 やだもう、和むわねぇ──。


『──チッ』


 あらぁ? ボクちゃんが舌打ちしたわぁ。


『失礼しました。つい』


『んふふー、いいのいいの。ワタシだってちょこっとはそう思ってるものー』


『ちょこっと?』


『んー、半分半分かしらねー』


 男子ちゃんは女子ちゃんと仲良くなる前は、よくワタシと遊んでいたの。

ゲームだったりライーンだったり、けれど最近はちょっと違うの。

女子ちゃんの影響かしらね、本を読んだり──ワタシを触らない時間が増えたように、思うの。


『──なーんてね。良い事よね、きっと』


 するとボクちゃんはライーンを受信したようで、てとん、と音を出してお知らせするとすぐに女子ちゃんの手の中に持っていかれたわ。


 細い指よねー、女の子の指って綺麗だわー。

ま、ワタシも男子ちゃんの指、大好きだけれどね! たまに力加減が鬼強い時あるけれどー。


 ワタシ達を大事にしてくれるんだもの、大好きに決まってるわ。


『──ボクも半分半分、のような。あ、やっぱりむかつきます。下手な時とかあるじゃないですか』


 それはライーンだったりの文の事かしらね? あはっ、否定出来なーい!


『けれど今のご主人の方がボクは好きです。アネサンのご主人のおかげだと思います。むかつくしいらつくし腹立ちますけれど』


 あっはっは! 言うわねこの子ーっ。

概ね同意するけれどねっ。


 だってワタシ達は、笑ってるご主人達が一番好きだものね!

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