第157話 ペスティーニョ(前編)

 月曜日の今日は、決戦の日。

第二回、何でもいう事聞くゲーム大会の開催日である。


 かちかちかちかち、どーんばーんべしゃあ。


 真剣にゲームのボタンとキーを押す音が鳴っている。


 放課後の教室の廊下側の一番後ろの席で、私は前の席に座る男子をちら、と見た。

さすがにゲームを練習しまくっていただけあって、練習試合をした時よりもずっと上達している。

その男子は今日、眼鏡姿だった。

何でも今日のために目を酷使しすぎたとからしく、コンタクトがどうの、と言っていた。


 ちぇ、眼鏡姿は私だけが知ってて、この前の企画の時に少しだけの人が知ってただけだったのにな。


 なんて、集中しないと負けちゃうわ、と私も指を動かす。


 ゲームではフェイントからキャラメルポップーコーンの時限爆弾を仕掛けて、シュークリームに入って防御して、次の魔法攻撃を準備して──リアルでは瞬時にお箸でペスティーニョを取って口に放り込む。


「ちょっ、余裕ですかこんちくしょ!」


 ごりがり、と蜂蜜がたっぷりまとわりついているペスティーニョを齧って、齧る。

ややミカンの爽やかな香りもよくて、何よりこの音。

かり、ごり、がりっ、と噛み応えもあって楽しい。


 今日のお菓子はかりんとうにとても似ているお菓子で、ペスティーニョは洋風? と言っていいかしら。

食べながらしましょう、と提案したのだけれどゲームは両手で塞がれていてなかなか食べれないでいる。

というのは男子だけで、私は隙と余裕を見ては、ひょいっ、と、がりっ、と食べている。

ごくん。


「まさか。ご覧の通り超真剣よ」


「嘘つけぇ!」


 まぁ酷い。

こんなに手際良くゲームもお箸も操作しているのに──あ、酷い。

カラメルソースで動きを遅くさせられた挙句に、アーモンドチョコレートの手榴弾を投げられた。


小癪こしゃくね」


「げっ! それ巨大林檎飴で打ち返せんの!?」


 手榴弾をヒット打ち、と思ったらパイ投げで相殺されてしまった。


「やるぅ」


「ありがとございますぅ」


 このようになかなか良いバトルを繰り広げているわけで、なかなか決着もつかない。

三ラウンド勝負の一ラウンド目の今、制限時間は残り二十秒。

何とか時間を持たせてヒットポイントを多く残して逃げ切ろうか──。


「──あ」


 と、私が言うに、ストロベリーナッツプレッツェルの二刀流で切り込まれ──叩き込まれてしまった。


「……悔し」


 一ラウンド目、私が負けてしまった。

まさかの出来事に、しょんぼり、と肩が落ちる。


「ふぃー。どうよ、俺の上達ぶり」


 得意気に眼鏡を上げる男子に、いらっ、とした。

けれどすぐに笑ってしまった。


「はいはい、とても上手になりました」


「なーんだよ、子供あやすみたいに言いやがって」


「褒めてるの。さて、ウォーミングアップが済んだところで──」


「──待て待て、勝ちを消そうとすんな?」


 ちっ!! と激しく舌打ちをしてまた一つペスティーニョを食べる。

蜂蜜の甘い香りで気を取り直しましょうか。

その前に、バトル中に欲をかくのをやめましょうか、と一回目の自分を反省する。

男子も勝利のペスティーニョをごりっ、と食べた。


 がり、ごり、がりごり。


 お互い食べつつ──男子の口元に目が行ってしまった。

勝った時の要求宣言を思い出したのも同時だった。


 私が勝ったら、正面からハグ。

男子が勝ったら、三回目のチュー。


 …………がりん。


「どったよ? 上に何かあんの?」


 私は無意識に天井を見上げていたら、男子も同じように天井を見上げた。

ごくん。


「……なんでも、ないっす」


「ははっ、ないっす、とか言わないだろお前」


 人の気も知らないで……ぬん。


「絶対勝ってやるんだから。見てなさいよ」


「おーう、かかってこい」


「むしろ私が胸を貸してあげるわ」


「言うじゃん? ぎゃふんと言わせてやっから見とけー」


 男子は笑いながらまた一つペスティーニョを食べる。


 本当は負けても──いえいえ、何を考えているの私。

これは真剣勝負。

マジでガチでやらないと、やられちゃうわ。

三回目の、ちゅーを………………ぎゃあ。


 ※


 そして二ラウンド目、私は一ラウンド目の反省点を生かし、なんなく勝ったのだった。


「どやぁ」


「ぬぅん!」

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