第110話 グラニテ(後編)

 ハジメマシテ、ボクは女子さんの携帯電話です。


 今日は土曜日でボクのご主人である女子さんは、おうちのお手伝いをしたり読書をしたり過ごしていました。

今は自室で携帯ゲーム機で遊んでおられ、ひたすたアイテム集めをされています。

女子さんのお父さんもゲームが趣味なので、二人して競っているようなのです。

仲良しさんなのは良い事です。


 てとんっ。


 女子さん、ライーンです。

送り主はクサカリョウさん──男子さん、という方です。


 ……むん。


 女子さんは薄い黄色の、グラニテ、という冷たいのを食べています。

昨日女子さんのお父さんが、いそいそ、と作っていた残りです。

ボクを持ってタップしました。

ライーンは先ほどから何件も行ったり来たりしています。


『食べないわけないなって思って。でも他にも何かあるんだべ?』


 ふふっ、と女子さんが薄く微笑んでいます。


 女子さんは、この男子さんをデートにお誘いしました。

そのライーンは考えて考えて、何度も消しては打って送られた文字でした。

ボクはそれをずっと見ていたわけなのですけれど、はらはら、と言いますか、そわそわ、と言いますか──とても可愛いな、と見ていました。


 たたたたっ、と女子さんはボクをタップします。


 と、また二行ほど書いた文字を全消しですか? 次に書かれた文字達は──むん。


『クサカ君とのお出かけがメインですけれど?』


 また考えたようですけれど、これって多分。


 てとんっ。


 ……やっぱり仕返しされちゃいましたね。


 女子さんは、むっ、としたような膨れっ面で、その頬っぺたは少し赤くなっています。


『もちろんそうですけど?』


 こう返してきた男子さんもどういう顔をしているんでしょうか。

ボク、とても気になります。

そして少しだけ、羨ましかったり、します。

ボクは女子さんにお伝えする術がないのですから。


 女子さんが愛用しているスタンプを送信します。

少し怒っている風のスタンプは、照れ隠し、のつもりでしょうか。

むしろ照れているのがモロバレだと思うのですが、女子さんは気づいていないようです。


 それから女子さんと男子さんのライーンは続きました。

時折グラニテを食べてはまたボクをタップします。


『合宿で必要なもの揃えたくて。買い物したいの』


『俺も合宿あるし、いいよ』


 ふむふむ、合宿があるのですね。


『お昼過ぎくらいに待ち合わせしましょ』


『おっけ。前に待ち合わせした本屋?』


『いいえ、あっちの方じゃなくて逆の──』


 ──以前待ち合わせした場所とは違うようで、どうやら女子さんには計画があるようです。

少しだけにやけた口元は秘密の表れでしょうか。

とても楽しそうです。


 てとんっ。


『今、何してた?』


 ……ボクと遊んでましたけれど。


 なんて、返せるはずもありません。

女子さんは、からんっ、と食べ終えたグラニテのグラスにスプーンを置いてベッドに座りました。

そしてそのまま、横に倒れて寝そべります。

ボクも同じ角度で横になって、タップされました。


『クサカ君とライーン』


 ですね。


 てとんっ。


『そうだけど、そうじゃなくって』


 男子さんはスタンプも送ってきました。

女子さんはうつ伏せに寝返りしてボクをタップします。


『レベル上げと材料集めしてたの』


 主語が抜けていますよ? けれどそうですね、きっとこのライーンも似てるのだと思います。

二人の関係のレベル上げ、二人の情報集め、のような。


 ある意味、攻略、のような。


 てとんっ。


『クラキもゲームやんのか。勝負してみてぇな』


 男子さん、女子さんに勝負を挑むなんて大丈夫ですか? こう見えて女子さんのゲームりょくは半端ないですよ? ゲーム歴が長い女子さんのお父さんがムキになるほどですよ?


『かかってこい』


 ノリノリで煽りも含めて返す女子さんは、ふふっ、と笑っています。


 ……返り討ちにあっても知りませんよ?


 それからスタンプをつけようというのか女子さんは、どれにしようか、と選んでは迷っていました。

そのスタンプも可愛いですけれど、こちらのスタンプはどうですか? なんて思ってもボクには選べません──けれど。


 ボクも少々熱くなってきました、ので。


「──えっ、嘘、どうして?」


 焦る女子さんの前にボクはスタンプを送信しました──送信、してしまいました。

それは女子さんが一度も使った事がないスタンプです。

ハートを投げるウサギさんのスタンプです。

バグ、という事でお許しくださいませ。


 てとんっ。


 男子さんからのライーンです。


 ……ふふっ、女子さんも男子さんも、ボクと同じように熱いみたいです。

グラニテのおかわりでもどうですか?


『不意打ちやめろぅ!!』

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