第109話 グラニテ(前編)
ハジメマシテー、ワタシは男子ちゃんの携帯電話でーす。
がりがり、ごりごり。
ご主人であるリョウちゃん──男子ちゃんは、ワタシをテーブルの上に置いて、隣で何やら削ってまっす。
冷たい四角い容器に茶色の氷? をフォークで、ぎゃっしゃぎゃっしゃ、引っ掻いてて、妹ちゃんと一緒に作ってやつ……えーと確か、グラニテとかいうデザートです。
簡単そうで楽しそう、でもないかも。
結構削るの大変そうで顔やばいもん。
今日は土曜日、学校はお休みで男子ちゃんはお昼くらいまで寝てて、今は三時過ぎたあたりをお知らせしまっす。
ここはお台所で、家には男子ちゃんだけ。
あ、ワタシ一台と男子ちゃんだけねっ。
てとんっ。
おっとー、ライーンですよー。
男子ちゃんはワタシの音に気づいてワタシを操作します。
たたたたっ、と慣れた指でタップタップ。
『明日、お時間あるかしら?』
クラキシウちゃん──女子ちゃんって子からのライーンに男子ちゃんってば目がまん丸。
ワタシを持ち上げたまま固まってるわ。
あららら、そうなのー。
男子ちゃんってば隅に置けない感じになっちゃったのねぇ……いいじゃないいいじゃなーい!!
男子ちゃんがワタシを使う時は時間を見たり、男友達との連絡だったり、ゲームだったりが多かったの。
それが、夏だったかしら? ひゅーひゅーっ!
で、何て返しちゃう? 返しちゃう?
…………えー、何このそっけない感じぃ。
ワタシ送りたくなーい、つって無理なんですけれどねぇ。
『あるけど、何?』
何の躊躇いもなく送信ボタンタップされちゃったんだけれど──って思ったら、あらら? 口元笑ってるじゃないのさ? ほんっと、素直じゃないんだから。
こういうのって顔が見えないんだからね、勘違いされちゃうかもしれないんだから──。
──てとんっ。
……ほらぁ、もーっ、もーっ!!
『怒ってる? ごめんなさい、お邪魔だったかしら』
違うの女子ちゃん! 男子ちゃんがあんぽんたんなだけなの! ほら、早く返信しなさいあんぽんたん!
男子ちゃんもワタシと同じように慌てながら、たたたたっ、とタップします。
『いや怒ってない。ごめん邪魔じゃない。明日何かあんの?』
ふぅ……可愛いスタンプもつけて弁解完了ね。
てとんっ。
あら、早い返信……あらぁ、女子ちゃんわかってるのねぇ。
うんうん。
『そう、良かった。どこかお出かけしないかなって思ってそのお誘いです』
キターー!! って、フォークをがしゃーんっ、って落とした音うるさっ! どうすんのどうすんの! 早くワタシをタップしなさい!!
『良きですよ』
だっはっはっはっ!! 何だこいつぅ! ってワタシのご主人でしたわ! はいはい送信完了!
男子ちゃんはフォークを洗ってまた、がりがり、ごりごり、グラニテを削ります。
早く返事が来ないか、隣のワタシをちらっちら、見ています。
大丈夫よぉ、ちゃんと音出してあげるわよぉ。
待っていたらグラニテを削り終えたみたいで、冷蔵庫で冷やしていたグラスを持ってきて削っていたフォークで移しだしたの。
グラスを冷たくしないと解けちゃうのかしらね。
茶色は珈琲? あ、バニラアイス乗っけるんだー、洒落てる洒落てるーぅ。
──どんな味? 苦いの? 甘いの?
ワタシは暑いのと冷たいのしかわかんないからさ。
でもでも男子ちゃんの事はわかるのよー。
もう一年半も一緒にいるからね。
てとんっ。
ライーンの通知音に一口食べた男子ちゃんは乱暴にワタシを掴みます。
大事に扱いなさい、ワタシって結構高級品なのよー?
『よかった。嬉し』
んーっ! 可愛い! 女子ちゃん素直なのねぇ! でもでも結構時間があったから考えたのかも、とか思ったりして──って、男子ちゃんテーブルに突っ伏してどうした? 嬉しいライーンでしょうがー、よく見なさいよー。
って、痛い痛い! ワタシを握り締めすぎ! みしみしいってる! みしみしいってるからぁ!!
落ち着いた男子ちゃんはグラニテを持って隣のリビングのソファに座ります。
そして一口食べて、ごろん、と横になってワタシを掲げます。
行儀悪いわねー。
で、見てるのはワタシじゃなくて、女子ちゃんのお誘いライーンなんだけれども。
あーあ、にやけた顔しちゃってぇ。
いいから早く返信してあげなさいってばぁ。
男子ちゃんは行儀悪くスプーンを口に咥えたままワタシをタップします。
『何食い行くの?』
はぁ? 何それ、お出かけイコール食べに行くの?
てとんっ。
『どうしてわかったの?』
……だっはっは! 男子ちゃんって女子ちゃんの事よく知ってるのねー! ちょっと悔しいぞ? ってのは冗談。
だって──今の男子ちゃんの笑った顔はワタシだけしか見れないわけだしね! 役得役得ぅ!
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