第104話 バナナチップス(後編)
よろしく、の続き。
ぱきん、と折れる音が楽しいバナナチップスで甘くなったところに、とろん、としていて、すっきり、ともする飲むタイプのヨーグルト。
今週はずっと雨で、夜中に少し止んだみたいだけれど、今は休憩なしにずっと走ってるみたいに足音──雨音がする。
教室の窓の向こうを見ながらバナナチップスをまた一枚食べる。
雨の音に消えそうだけれど、口の中で音は負けていない。
……いっぱい、考えてくれてるみたい。
横目で男子を見てみると、まだ左右に頭が揺れていた。
「……んふっ」
ちょっと笑ってしまったけれど、雨の音で聞こえなかったみたい。
今度は私が待つ番、か。
うーん……難しいわね。
男子は私からを待っていてくれた。
色々あったけれど、それはもう過ぎた事だしいいのだけれど、こっちの立場となるととてもむず痒いものがある。
……欲張り過ぎかなぁ──ううん、そんな事ない。
究極の言い訳、だって女の子だもの、を発動させてもらうわ。
こういう事は初めてだけれど、イメージみたいな、そういうのあるんだもの。
今読んでいる小説だってそう。
考えて、感じ取って、言っている。
「……いいなぁ」
あ、声に出ちゃった。
「……なーんだよ?」
こういう時ばっかり聞こえるんだものね。
「小説の感想よ」
「ふぅん?」
「ふーん、よ」
「何じゃそりゃ」
「興味があるようでないような曖昧な返事だなって」
「……興味ある、ます」
変なくっつけ敬語に笑ってしまった。
こんな事で楽しいなんて、けれど──。
「──教えなーい」
「何だよ、そう言われると気になるじゃんよ」
「教えない方が楽しくなりそうなんだもの」
そう言い返すと少し
「なら、うん。我慢する、ます」
私が読んでいる小説の中の告白は、主人公の想い人からで、素敵な男の人で──。
また一枚、ページを捲る。
……いいなぁ──好きの最上級を、囁いている。
きっと声も素敵なんだろうなぁ……耳元ってやばいわよねぇ……って、囁かれた事なんてないのだけれど、想像を妄想して夢見ちゃったわ。
まだ灰色の放課後なのに。
私も男子も同時に、ぱきん、とバナナチップスを齧った。
それに横目も合った。
ぱきぱきん、と齧りながら考える。
……クサカ君が私の耳に囁いたらどうなるかしら…………あら? あららら? 何これ、恥ずかしくなってきた。
わお。
これは何か対策を立てないといけないわ。
けれど私は待つ側になっているし、待ってって言われたし、こんにゃろって言われたし。
ずぬー、とヨーグルトを飲んで私も頭を左右に揺らせてみる。
「お? 俺の真似?」
男子が気づいてそう言った。
「そ、そういうわけじゃ──」
「──ふぅん?」
今のはからかいを含んだ、ふぅん。
ちょっとにやけてるのが腹立つ。
それと──。
「──クサカ君のその顔、好きだわ」
そう言ってやった。
けれど顔は見れなくて、また、ずぬー、とヨーグルトを飲む。
あーあ、待つって言ったのに、言っちゃった。
「……お、俺も…………好き、ですけど。その、お前の……ドヤ顔?」
ドヤ顔って何それ、と私は男子を見てしまった。
「……何だよその顔」
「どの顔?」
すると男子は眉間に指を差した。
微妙な顔になっていたようで眉間に触る。
「あのさ」
男子が箸でバナナチップをつまむ。
「俺、好きだよ。でもこれって俺とクラキと間じゃ……その、違うじゃん?」
男子はわかってくれていた。
私達の中で、好き、は好きだけれど、それは友達を含むものであって、夏休み前に話していた事であって、だから──私も男子も、それ以上を待っているところで。
「……ええ、もちろん。違くないようで、違うものね」
「う、うん。だから俺なりの、そのー……ちゃんと言う! から、先に言うの無し、な?」
まずは一つ──半歩先の、半歩前を男子はちゃんと言ってくれた。
言わなくてもわかるのに、わかっているのに、言った先から恥ずかしさからか体を折り曲げて顔を隠して撃沈しているけれど。
もう本当に、好きでたまらないわ。
「ふふっ」
「わ、笑うなってー……」
「はーい、ごめんなさいっ」
私は浮かれた爪先を交互に揺らしたのだった。
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