第13話 フルーツポンチ(前編)

「……なんか今日は手が込んでませんかね?」


 前の席に座る女子は俺の机の上で、いそいそ、と準備をしている。

小さめのタッパーが三つ、少し大きめのからのタッパーが一つ。

そして透明のプラスチックカップが二つ。


 放課後の教室の窓際、一番後ろの席で俺は並べられたそれらを見つめる。


「先日大量に果物が送られてきたの。あなたにもおすそ分けしようと思って工夫を凝らしたのよ。有難く思いなさいな」


 おっと、何で上から発言?


 蓋を開けるのを俺も手伝う、と中にはイチゴとブルーベリーが、ごろごろ。

女子が開けた方にはオレンジとキウイ、もう一つは桃と──桃? 白と黄色の二種類だ。

何よりこのタッパーが冷たいのはどうしてか。


「保健室の先生に──もとい、メロンを丸ごと差し上げたので冷蔵庫を拝借したの」


 言い方がだなぁ? まぁいいけど。


 今日も今日とて夏の暑さにやられ始めているので冷たいものは有難い。


「それであなたもちゃんと用意したんでしょうね?」


 珍しく女子は飲み物の指定をしてきた。

ほいよ、と俺は缶のサイダーをとんっ、と爪で弾く。


「さ、混ぜるわよ」


「もしかしてフルーツ?」


「いいえ、フルーツよ」


「ん? 一緒じゃねぇの?」


「……一緒なの?」


 眉をひそめた女子が首を掲げた。

そして俺も傾げる。


「……まぁいいわ。えーと、味変でサイダーを用意してもらったのだけれど、好きな方でいいわ。とりあえずこれに入れるわね」


 女子は、ぼとぼと、とシロップが入った大きめのタッパーにフルーツを落とした。

混ぜると色とりどりで豪華絢爛という感じがする。


「んふっ、楽しそう」


 また面白い言い方をするな、と頬杖をついて女子を見る。


 楽しそうなのはお前じゃんか。


「コップ、持っててくれるかしら」


 はいはい、あ、やっぱり箸か。


 女子は綺麗な箸使いで、ひょいひょい、とフルーツを入れていく。

彩り良く入れているのだろうか、きちんと数を数えて入れているのだろうか。

どちらにしても、透明のプラスチックカップの横から見える層は女子風に言うと、楽しく、見える。


「──クラキって結構几帳面だよな」


「そう?」


「うん」


 実は今日の午後の授業中、ノートを見せてもらった。

姿勢正しく揃った文字に、というか字がめっちゃ綺麗! で、びびった! それとカラフルなペンの書き込み。

ちょっとしたイラストの遊びで解説ポイントなどで非常にわかりやすくしてあった。

他のクラスメイトのノートも俺のよりは十二分じゅうにぶんに見やすいのだけれど、ちょっと驚いた。

今だってそう、一つずつ小さなタッパーからフルーツの大きさや向きも考えて入れている。


「俺だったらタッパー斜めにしてぼどぼど入れてる」


「私一人だったらそうしてるわ」


 なんだよ、思ったら──。


「──あなたが見てるし、少しは格好つけたいじゃない。


 不意打ち、食らった。


「なんてね、単純に好きなの。飾ったり綺麗にするのが」


 女子がどう思ってるかはわからないけれど、してやられた感がして俺は唇を尖らせて、はいはい、と頷くのが精一杯。

しかし女子の、女の子っぽい部分が見えて、なんか、なんか。


「苦手なフルーツでもあった?」


「え?」


「口」


 ああ、と唇を元に戻す。


「な、ないない。全部好き」


「ふふっ、私も全部好き。お互い欲張りね」


 確かにこんなに一度に何種類も食べる事なんてそうない。

一つ一つじっくり食べても美味しいけれど、それを少しずつ何種類もなんて贅沢だ。


「私は欲張りって好き。欲張りな自分も好きよ」


 だろうな、と俺は無意識に頷いてしまった。


「何よ、クサカ君もでしょう?」


「お前ほどじゃねぇと思うけど」


「負けるつもりはないわ」


 いつ勝ち負けの話になったのか。


 ともあれ、そろそろ几帳面な盛り付けも終わりそうか、と思った時、タッパーを斜めにしてシロップを入れながら女子がこう言った。


「……メロン半分にしとけばよかったわね」


 欲張りにも限度はある、と俺は呆れたのだった。

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