5.狂気の装置、”アンカー”
先生は医者というよりマッドな研究者という雰囲気だった。
時折ヒヒッと笑いながらオレの体について説明してくれた。至って健康で、精々逃げた時に出来た傷ぐらいしか目だった所はないらしい。
「ただねえ、君の細胞構成を観察したんだが、細胞が若すぎるんだ。まるで生後数ヶ月の赤ん坊の様な若さだ。それで気になって、遺伝子配列も精査してみたんだが、どうやら一般の人間とは違った構成をしているようなんだ」
先生の言葉にシズクさんが口を挟んだ。
「ひょっとして… たまに話に聞く人造人間って事?」
「断定は出来ないけどね、どっちにしろ、この子を放置する事は出来ないねえ。こちらで保護して、様子を見ないといけない」
シズクさんは思い巡らす様子で黙っていたが、やがて何かを思いついた様だ。
「だったら、私が保護するわ」
「え? 君がかね?」
「発見したのは私だし、この子は放っておけないわ。それに前から言われてたのよ。単独調査は危険だからバディを作れってね。この子ならスカウト程度なら出来るでしょ」
「いや、いくら何でも見ず知らずの子をバディにするはまずいのでは?」
とんでもない事になった上、口論が始まってしまった。話題を逸らす為に、オレはふと思い出した事を口に出した。
「あ、あの。一つ聞きたかったんですけど。初めてシズクさんと会った時に言っていたんですけど、“アンカー”だの“蛾”だのって何ですか?」
先生はちょっとシズクさんを睨んだ。当のシズクさんはため息をついて説明してくれた。
何でも昔、世界規模(当然オレが元居た世界ではないけど)で大きな戦争があったらしい。
長引く戦いで兵士の士気もボロボロだったそうだ。そこでロシアかどっかである機械が開発された。脳に特殊な電気信号を送る事で一時的に恐怖を薄めて、更には驚異的な身体能力まで付与する代物だったらしい。それが形状的に“アンカー”と呼ばれている。
覚せい剤みたいな薬が問題視される中で、薬では無いアンカーは爆発的な人気になるのは明らかだったそうだ。人権団体が抗議しても、法の適用外だったので相手にしなくても済んだ様だ。
戦争の後、アンカーは一般人の中へと裏で浸透し、違法な金額で取引されているらしい。
今ではアンカーによる凶悪事件が発生する様になり、シズクさんみたいな専門捜査官が誕生する事となったそうだ。
「それで、“蛾”っていうのは?」
「アンカーに依存している人間をうちらではそう表現するのよ。ほら、蛾みたいな羽虫って、電灯みたいな光に群がるでしょう? 機械に心酔する人間はそんな蛾みたいだ、て誰かが言ってね。それが浸透したの」
成程、と納得するオレだった。
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