4.缶コーヒーは無いの?

「お疲れ様でした」

 検査員の声を後にオレは部屋を出た。

 あの後は大変だった。シズクさんに問い詰められた後、警察病院で精密検査を受けるはめになってしまった。

 何せ身元不明ってやつだしな。そこはオレもしょうがないとは思う。それに昔の病院生活を思い返せば、何て事なかったし。

「終わったみたいね? 結果が出るまで休憩室へ行きましょ」

部屋の外でシズクさんが待っていてくれた。彼女に連れられて少し賑わった空間へと案内された。

「何か飲みたい物ある?」

 自販機の前でシズクさんが訊ねた。これ、自販機だよな。オレがいた病院の自販機と違って、派手なネオンが飾られている。

「えっと、じゃあコーヒーを」

「? 随分と古い飲み物の名前を出すのね。うーん、近いのはこれかしら?」

 そう言って出てきた缶をオレに寄越した。手渡された物を見てみると“エナジーチャージャー・モカ風味”という名前がでかでかと表示されていた。

 エナドリかな? ま、まあ疲れが吹き飛べば何でもいいや。

 シズクさんの方を見てみると、“タバスコ・ヘブン”という缶を手にしていた。辛い物好きなのかな?

 窓際に腰かけて、外の景色を見やった。辺りはすっかり夜で、ビルの電光掲示板やネオンが煌々と光っている。一つの看板が点灯しながら横を過ぎていった。シズクさん曰く、大型ドローンらしい。

 買ってもらった飲み物に口を付ける。甘口コーヒーみたいな味がした。疲れた体に染み渡る感じがして、その上で元気が出てくる。

「言うのが遅くなったけど、それ飲むと眠れなくなるわよ」

 そっか。でもどの道今日は眠れない気がする。それだけ街の光景はオレを楽しませてくれた。

 向かいでシズクさんが足を組んでくつろいでいた。彼女の両足は義足だった。見た目は金属製のようだけど、デザイン性を感じるお洒落なブーツ見たいで、彼女によく似合っていた。

 視線を感じたのか、彼女は話してくれた。曰く、この街では体の一部を機械にするのは当たり前らしい。義足は、犯人を追いかける為に公的に貸与されている特注品だそうだ。

 それから、しばらく雑談をした。ダイキのおっちゃんにも聞いた質問も、シズクさんはもう少し詳しく教えてくれた。

 オレ達を呼ぶ声がした。どうやら検査の結果が出たらしい。腰を上げて、先生の所に向かう事にした。

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