幕間(剣 素子)

 やぁやぁ読者諸君、始めてまして、つるぎ素子もとこという。剣呑な名前ですまないね。

 私が何者かを覚えているあなたはとても賢明というか、記憶力が良いね。そう、私こそが生徒会を超える権力を持つ学内組織、図書委員会の副委員長職にあった者だ。

 一応この、章ごとに挟まれる『あとがき』もどきについては本編に関わりのあった人間を出すことにしているらしいのだが、そもそも本編には驚くほど登場人物が少ないのだから人選が偏るのも仕様のないことだろう。

 あとがきから読み始める異端者の諸君は論外として、さてこの本編を読み終えて、どうだっただろう。筒井と『自分』は委員会では淡々としている印象だったけれど、まさか神聖なる図書室での当番時間にこんな甘い世界を作り上げていたとはね。

 さて、大宇宙の法則に従って、私からも『自分』なる人物について詳細を述べるのはやめておこう。男なのか女なのか、は大した問題じゃないと思うけれどね。はたして『自分』は特定の一人なのか、そもそも筒井が自問自答をそれらしく彩るために生み出した架空の人物ではないか、もしかして『自分』は外の銀河からやってきた地球外生命体では……なんて、さすがに飛躍しすぎたか。

 実は、筒井と『自分』は同学年ではあるけど、どちらかが留年もしくは飛び級で意外と年齢差がある……さて、これは嘘かな、本当かな? 2つか3つでも年齢が違うと考えると、また違う視点で本編を楽しんでもらえるように思う。


 この本編はほぼ私信というかまぁ至極個人的な記録を適切に改稿したうえで開示してしまったものであるために、内容に対して関係者各位が文句をつけてもどうしようもないものであるのだが、そこを曲げて注文をつけさせてもらいたい。

 この本編における『自分』はまともすぎる。まるで『自分』は自分が常識人で筒井や私が変わり者であるように書いているが、『自分』もまた同じ図書委員である以上常識人であるわけがない。それなのに、これではまるでただ読書が好きなだけの一般生徒かのようだ。図書委員でありながら、自らの執筆物で自らの弁護を図るとは小賢しい奴である。

 ぜひ筒井には筒井の視点でまったく同じ時間場所の話を取り上げ、『自分』がいかに人間という正道から外れた異端児であるかを市井しせいの人々へと知らしめていただきたい。

 なお、私が悪鬼羅刹などという剣呑な表現をされていた点について思うところがないわけでもないが、今となってはそのような噂を流していた当事者たちがどのような顛末を迎えたのかはあえて言及する必要もないだろう。終わった話であるからして、私もこれ以上掘り返すつもりはない。読者の諸君もまた、わかっているね?


 最後に補足させていただくと、本編では図書委員という役職がまるで図書室でおしゃべりするだけの怠慢な役職のように映るかもしれないが、図書委員はその他のクラス、学校行事に関わるすべての役職を免除される程度に忙しい立場だ。これはあくまで当番中の余裕のある時間帯の一部を切り取ったものである、ということを付け足すことで、伝統ある図書委員の品格と名誉を守らせていただこう。


 それではこれにて。皆様方、引き続き良い読書生活を。

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