Episode.42 死闘の果てに
少女の右手の
そして、シンはそれを避けるわけにはいかない。今シンの後ろには、彩葉と風花、柚葉がいるからだ。
生身となった三人にこの少女の攻撃が当たれば、まず命はない。
シンの右手甲の魔法陣が浮き出て深紅に輝きを発し、高速回転。それに伴って刀身も深紅に輝くと、熱を発し、やがてシュバッと炎が噴き出す。
「上位魔力性質変化『炎』──」
シンは豪々と燃え盛る剣を頭上に掲げる。
「
そして一気に振り下ろす。
すると、視界を塗り尽くすほどの深紅が、撃ち出されたエネルギー弾の
煉獄が、灼熱が地面を熔解し、所々をガラス質に変えてしまう。
少女はそんな業火を、ごつい武装を装備しているとは思えない高スピードで回避し、巨大な左掌をシンに向ける。
そこにエネルギーを集束させ、発射。巨大なエネルギー弾がシンに迫る。
シンの左手甲の魔法陣が浮かび上がり、紫青色に眩く輝いて高速回転。耳をつんざく高周音が部屋に反響し、左手に紫電が纏う。
そして────
「
巨大エネルギー弾とその背後にいる少女を狙っての
射抜かれたエネルギー弾は空中で霧散。そして、エネルギー弾を超えてなお迸る紫電は少女に迫る。
少女は身を捻って回避するが、巨大な腕の間接部に攻撃を受けてしまう。この武器はもう使えないと少女はその巨大な左腕の武装を解除する。
シンに吹き飛ばされた痛々しい肩口が露になる。
しかし、シンも似たようなもので、素手で上位魔力性質変化を使うと反動はかなり大きく、左腕に亀裂が入り、そこから光の粒子が微かに漏れ出ている。
少女が再び右手の
シンは舌打ちしながら、剣を目の前に持ってきて、風車のように高速で回転させる。
雨の如く押し寄せるエネルギー弾を、回転する剣が真正面から受け止めていく。
しばらくその状態が続くと、少女は
両肩に乗せられた筒の先端から見えるのは、追尾ミサイルより大きめのミサイルだ。
「ヤバすぎる……」
シンがそう呟いた瞬間、発射される。二つのミサイルが動けないシンに向かって進み、直撃。
シンは【
吹き飛ばされたシンの身体のあちこちから光の粒子が漏れだし、持続ダメージが発生していることがわかる。このままではいずれHPが0になって、エーテル体が解除されてしまう。そうなっては、敗北が決定する。
シンはボロボロの身体で立ち上がろうとするが、よろけて片膝を付いてしまう。
少女は今こそが決め時だと思い、
そして────
「【展開】──」
銃口の前に、いくつもの魔法陣を合わせたかのような、複雑怪奇な魔法陣が展開される。
(魔法も使えるのかよ……)
シンは膝立ちのまま向けられた銃口の前に展開された魔法陣を凝視すると……
「もう俺が動けないと思ったろ?」
「……」
シンはニヤリと口元を上げて、平気な様子で立ち上がった。少女はそんなシンを見て、僅かに目を細める。
「お前が動けない俺に、強力な技で止めを刺そうとしたように、俺もお前が動かなくなるのを待ってたんだよ」
少女は銃口を向けたまま、シンの話を聞いている。
「
「……」
少女は沈黙を貫く。
「つまり、お前は大技を使うときは移動できない……今のように」
シンはそう言って剣を頭上に掲げる。刀身に刻まれたヒエログリフが輝くと同時、剣の周りにいくつかの魔法陣が展開される。
そして、シンの身体が徐々に発光し始め、やがて足元から光の破片となって砕けていく。砕けた光の破片は刀身に吸収されていく。
やがてエーテル体が完全に解除されると、私服姿──生身の状態になる。その状態で、シンは【
「これがHP全て──エーテル体を解除することと引き換えに発動する魔法具【
エーテル体を全て吸収し、力にした【
シンは左手も伸ばし、両手で剣の柄を握る。
「──だ、駄目です先輩ッ!」
後ろから彩葉の叫び。
「生身であの攻撃を受けたらっ……死んじゃいますッ!」
シンは僅かに振り返って、視界の端に彩葉と風花、柚葉を映す。
「もういい……もういいわよシン! 貴方だけでも逃げなさいよッ!」
風花も紫炎色の瞳を潤わせながら叫ぶ。
「市ヶ谷さん……何でそんな魔法具を作ってしまったんですか……っ!?」
怒りと悲しみが半分ずつといった風に、柚葉が尋ねる。
「一週間前、ナイトゴーレムの大群と戦ったとき……この先にはもっと手強い敵が現れるって確信が生まれてな。もし絶体絶命の危機に陥っても、お前らだけでも守りたいって思ったんだよ」
そう言ってシンは、視線を少女の方に戻す。
「それで俺が死のうとも……刺し違えてでも敵を倒して、お前らを守るッ!」
少女の展開した魔法陣が輝く。
シンが掲げた【
「力比べといこうかッ!」
シンはそう言って、左足を力強く前に踏み込む。
「ルクエラ・エンジェリカ・クペルニコス」
少女が展開した魔法陣から、青色に輝く砲弾が発射される。
「フル──バーストッ!!」
シンはありったけの力で剣を振り下ろす。刹那、【
少女とシンの丁度中間で、両者の攻撃がぶつかり合う。
少女の放った青い砲弾が一気に大きくなり、迎え撃つ光の奔流を押し戻す。
「
シンが叫ぶ。すると、その声に応えるかのように勢いを増した光の奔流が巨大な青い砲弾を押し返す。
そして────
景色は光で埋め尽くされ、視界を焼く。シンの手から解き放たれた光の奔流が、青い砲弾を呑み込み、そのまま少女に向かって駆け抜ける。
少女の姿が光に掻き消され、駆け抜けた光の奔流は直線上にあった壁までも破壊する。
部屋に反響していた轟音が鳴り止み、静寂が訪れる。
シンの視線の先は、舞い上がった土煙で覆われている。
「……」
シンはじっとそれを見詰めたまま。
しばらく沈黙が流れ────
「わりぃな、俺の敗けだ……」
沈黙を破ったシンの言葉に、三人が目を見開く。
バッと土煙に穴が開き、少女が飛んで出てくる。
纏っていた武装は全て消え失せ、身体のあちこちに傷が入り、内部の金属部位が見えているところもあるが、右手はしっかりと鋭い刃に変形されている。
シンは向かってくる少女の方に駆けながら、右拳を固く握り締めて身体に引き付ける。
そのあまりにも無謀な行動に、三人が制止させようと叫ぶが、シンも少女も止まらない。
そして────
シンが生身で出せる最速の右ストレート。少女は難なくそれを見切り、顔の左側にかわして、右手の刃を突き出す。
彩葉、風花、柚葉。皆がその光景に絶句した。
シンの左肩を銀色の刃が貫通し、そこから鮮血が散華する。刃を伝った血が、ポタポタと地面に落ち、赤い水玉模様を作っていく。
そして、少女は右手の刃をシンの肩から引き抜く。
身体から力が抜け、立っていられなくなったシンは、その場に膝を付き、やがて俯せに倒れた。
少女はそんなシンを無機質な黄色い瞳で見詰めながら、地面に足を付ける。
「い、いやぁあああああああああああ──ッ!?」
シンは薄れゆく意識の中で、最後に彩葉の悲痛の叫びを聞いた────
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