Episode.41 絶体絶命の戦い

 「【発射バースト】」


 少女の左手が変形した巨大な銃から、膨大なエネルギーを集束したビームが射出される。


 銃口から出た瞬間、五つに分裂し、それぞれがバラけてシンに襲い掛かる。


 「やべッ!?」


 シンは目を見開いて驚きながら、【愚者の外套コート・オブ・ストゥルトゥス】と【ジェットブーツ】に魔力を流し込み、AGIを昇華させる。


 五つのビームの射線から外れた──と思ったとき、一つのレーザーは先ほどまでシンが立っていた場所に着弾するが、残り四つがシンを追尾する。


 「──ッ!?」


 迫ってくる四つのレーザーを目前に、シンは靴底から圧縮空気を噴射し、推進力を得ると同時に、変則的な動きを取り、再びビームの射線から身をそらす。


 またもや一つのレーザーが着弾し、残りの三つがシンを追い続ける。


 【愚者の外套コート・オブ・ストゥルトゥス】の特殊効果スペシャルエフェクトの持続時間は一瞬。既にその効果は切れ、今は【ジェットブーツ】の特殊効果スペシャルエフェクトによるAGI上昇のみ。靴底から圧縮空気を噴射したところで、少女のような持続的な飛行は不可能。


 (ちぃ──迎え撃つしかないッ!)


 シンは靴底を地面に滑らせて振り返る。そして、両手に嵌めた白い手袋──【リビレラリータ】に魔力を込めてSTRを高める。


 右手にもつ片手剣バスターソードの深青色の刀身を煌めかせ────


 「はぁあああッ!」


 一つのビームと斬撃がぶつかり合う。


 シンは剣を振り抜き、ビームを両断。透かさず剣を返して続くビームを裂き、最後の一閃を縦に振るう。


 シンの身体の両隣を、斬られたビームが駆け抜ける。後ろの方で着弾し、爆発。


 発生した爆風が、背後からシンのダークグレーのコートをなびかせる。


 「何とか斬れるッ!」


 一か八かのビームへの斬撃。見事成し遂げたシンは、ここぞとばかりに少女との距離を一気に詰める。


 少女は先ほどの攻撃で決着が付くと思っていたのか、一瞬戸惑ったような様子を見せるが、すぐに行動に移る。


 正面から迫ってくるシンをしっかりとその瞳に捉えている。


 シンは剣を握る右手に魔力を込め、性質変化させる。甲の魔法陣が浮かび上がり赤く発光し、高速回転。それにつれて【愚者の剣グラディトゥス】の透き通った刀身も発光し始め、やがて炎を纏う。


 そして、シンは少女の正面から斬り掛かろうとする。


 少女は余裕を持ってそれを見据え、右手の刃で迎え撃とうと構える。


 しかし、シンの正面からの斬撃はフェイク。靴底から圧縮空気を噴射し、少女の頭上を取ると、容赦なく剣を振り下ろす。


 少女は左手の巨大な銃でシンの剣を受ける。一瞬力が拮抗するが、銃と剣──ぶつかり合えば剣にがある。


 シンの炎を纏った剣は振り抜かれ、銃身の中央部分で切断する。そして、切り口を中心に爆発。少女はギリギリで回避行動を取り直撃は免れたものの、爆風によって後方に吹き飛ぶ。


 シンはその隙を逃さない。


 【愚者の外套コート・オブ・ストゥルトゥス】と【ジェットブーツ】の特殊効果スペシャルエフェクトによって、AGIを爆発的に高める。加えて靴底から圧縮空気を噴射し、一層の推進力を得る。


 体制を立て直そうとしている少女の真正面まで一気に詰めると、右手甲の魔法陣が浮き出て、紫青色に眩く輝き高速回転。耳をつんざく高周音が鳴り響き、バチバチと紫電が発生し、刀身に纏う。


 「可愛い見た目だが容赦できる余裕がねぇからなッ!」


 シンは剣を自分の耳元まで引き付けて────


 「喰らえ──貫くものブリューナクッ!!」


 引き絞られた矢が射出されるかのように、鋭く剣を突き出す。


 少女は大きく黄色い瞳を見開き、驚きながら、シンに両断された銃を解除し、元に戻った左手を身体の前に突き出す。


 「【展開】──投影障壁プロジェクション・バリア


 少女の左手の前にマンホール程の大きさの光の盾が展開される。


 シンの剣先から音速を超える超電撃が迸り、景色を白熱させる。


 少女の展開した盾と貫くものブリューナクが正面から激突する。


 (……ちっさい盾だが、今までのどんな障壁より固いっ! だが……ッ!?)


 万物を貫くその名を与えられた攻撃は伊達ではない。


 次第に少女の展開した盾に亀裂が入り始め、所々が欠けていく。


 そして────


 「いっけぇえええ──ッ!?」


 「【失敗エラー】……」


 パリィインッ!


 盾は盛大に砕け散り、少女の突き出していた左手ごと超電撃が貫通する。少女の左腕は粉々に砕け、左肩から先は何もなくなる。


 「【不可解】概算戦闘力から駆け離れた攻撃により、身体損傷甚大。敵性反応の危険レベルを再検討……最大レベルと判定します」


 少女は左腕が吹っ飛んだにも拘らず、絶叫することも発狂することもなく、ただ淡々とシンを見詰めて戦闘力を測っている。


 (これを見たら、もうどう見ても機械だな……)


 シンは眉を潜め、少女を警戒しながら心の中で思う。


 少女の左肩口からは血──ではなく、機械が壊れたときに発生するスパークがパチパチとしている。そして、太かったり細かったりする導線や、奥には金属部分も窺える。


 「【全武装展開オール・アームド・ディプロイメント】──全力をもって、対象を撃破します」


 「いやいやしなくていいからッ!? ってか今まで本気じゃなかったのッ!?」


 そんなシンの絶叫は虚しくスルーされ、これが答えだとばかりに少女の全身に様々な武器──否、兵器が取り付けられていく。


 背中の金属の羽はより大きなものになり、右手には少女の身の丈を余裕に超える回転式機関銃ガトリングガンが装着され、失くなった左腕部分には、巨人のもののような腕が取り付けられている。


 両肩には箱形のものが取り付けられていて、それぞれに六つ程開いた穴からは、確実に何かが飛び出てきそうである。


 「おお……色々と大きくなられましたね……」


 シンは勘弁してくれという思いを抱きながら、苦笑いで呟く。視線は少女の全身を捉えていたが、やがて、唯一変化しなかった胸部にいってしまう。


 これだけ変化が起こったんだ、変化しなかった部位が目立ってしまうのは仕方がない。


 しかし、いくら機械と言っても女の子は女の子。仕方がないわけないらしく、これまで感情の読めない顔を貫いていたが、ここで不満げな顔持ちになる。


 「【警告】その目を潰します」


 少女はそう言った瞬間、あわせて十二個の両肩の銃口から小型のミサイルを射出する。


 「ちょ、こんなファンタジーな世界で機械少女ってだけで危ないのに、ミサイルはアウトッ!?」


 シンは涙目で叫びながら、逃げる。特殊空間から取り出したナイフを左手で投擲し、いくつかのミサイルを迎撃する。その爆発でによって他のミサイルも落とす。


 しかし、爆発を逃れたミサイルがシンを追尾する。


 「科学の最先端行ってんじゃねーかッ!?」


 シンは仕方ないと振り返り、剣で迎え撃つ。しかし、ビームのときのようにはいかず、斬った瞬間爆発が起こり、ダメージを受けてしまう。


 シンは周囲の爆煙を剣で払い除け、視界を開かせる。


 すると、少女の右手の回転式機関銃ガトリングガンの銃口がシンに向けられており────


 (誰か俺をガン○ムに乗せてくれ……)


 シンの願いが叶うはずもなかった────

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