Episode.40 機械仕掛けの少女

 「【告】敵性反応を四つ確認。これより、対処行動に移ります」


 少女から発せられたその言葉を、四人は瞬時に、そして本能的に宣戦布告だと覚る。


 風花は引き抜いた槍を油断なく構え、シンもその隣で鞘から剣を抜き放つ。彩葉は数歩後ろに下がり長杖を掲げ、魔法をいつでも放てるようにする。柚葉はその彩葉の後ろに隠れる。


 (おいおい……あのドラゴンの首を容易くちょんぱした奴だぞ……ッ!? どうしろってんだッ!?)


 シンは心の中で文句を言いながら、少女がどう動くのかを注視する。


 そして────


 「……え?」


 シンは間抜けな声を出す。


 体感的には、まるで瞬間移動したかのような感覚。だが、実際には超スピードで向かってきたのだ。そして、少女が飛行するときに放つハイブリット自動車のエンジンのような音を聞くより早く、少女は風花の眼前に迫る。


 そして、少女は鋭利な刃に変形させた右手を振るう。


 「──ッ!?」


 流石Lv.8の高レベル探索者と言ったところか。風花は咄嗟の判断で少女の斬撃を槍の柄で防ぐ。金属と金属がぶつかり合い、火花が飛び散り、高い音が戛然かつぜんと響く。


 しかし、少女の攻撃は止まらない。目にも止まらぬ速さで右手を振るい、風花に斬りかかる。風花は後退しつつ必死に防ぐが、それも長くは続かなかった。


 少女は身を捻って変則的な動きを取ると、風花の槍を片足で蹴り、一瞬の隙を作る。そして、何の迷いもなく正確な一閃。


 「な……ッ!?」


 風花は腰の部分で身体を上下に両断される。まるで血が飛び散るように光の粒子が溢れ出て、風花の身体に亀裂が入りすぐに四散。


 HP0。風花のエーテル体は消滅し、生身に戻る。


 「風花さんから離れてくださいっ──ルクス・サジータッ!」


 彩葉が少女に向けて光の矢を放つ。多重発動マルチ・アクトしなかったのは、近くの風花を誤って傷付けないためだ。


 相変わらずの正確な射撃。光の矢は迷うことなく少女を捉えている。


 しかし、少女は再びくるりと身を捻る。彩葉の矢は、少女の動きに遅れて付いてくる長く青い髪を通り抜けるに終わる。


 そして、少女は回避行動を取りながら、空いている左手を銃に変形させていた。少女が僅かに目を細めると──


 ビュンッ! ビュンッ!


 銃口からエネルギー弾が二発連続で射出される。


 射出された一発のエネルギー弾は彩葉の胸部に、もう一発は彩葉の後ろにいた柚葉の胸に直撃する。


 撃たれた二人はその場に倒れてしまう。撃たれた箇所には拳サイズの穴が開いており、そこから光の粒子が溢れている。


 本来ならば心臓のある位置。致命傷になる部位に攻撃を受けると、エーテル体は破壊される。


 その通り彩葉と柚葉はその身に亀裂を入れ、やがて砕け散った。


 「みんなッ!?」


 シンはそんな光景を前に、ただ立ち尽くしていることしか出来なかった。


 「【告】三体の無力化を確認。残り一体……」


 少女は無機質にそう呟きながら、黄色い相貌でシンを見る。


 「先輩、逃げてッ!?」


 地面に倒れる彩葉が、焦ったように叫ぶ。


 「馬鹿、お前ら置いて逃げれるかッ!?」


 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょッ!?」


 次は風花が叫ぶ。


 「市ヶ谷さん、このことを迷宮統括協会ギルドに報告してくださいッ!」


 柚葉までも。


 シンはしっかりと少女を注視し、剣を構えながら、苛立ち混じりに反駁はんばくする。


 「何度も言わせんな! そんな真似できるかっつってんだよッ! それに、この機械少女がそう簡単に逃がしてくれると思うかッ!?」


 「先輩……」


 彩葉が心配そうに呟く。風花と柚葉も同じ様にシンを見ている。


 「おいお前……喋れるモンスターなんだから自己紹介くらいしろよな」


 シンは少女に鋭い視線を向けながら言う。少女は一瞬考えるような仕草を取った後、視線をシンに戻して答える。


 「【返答】当機は迷宮ダンジョンに生息しているモンスターではない」


 「ど、どういうことだ……?」


 「【告】これ以上の情報提供は無意味と判断」


 少女はそう言って話を切ると、若干背中の金属の羽を広げる。


 「何が何でも戦闘は避けられないってわけか」


 シンがそう呟いた瞬間、少女の姿が霞むように動く。一気に縮まるシンと少女の間合い。


 少女が右手の刃を高速で振るう。シンはそれを剣で迎え撃つ。


 何回か刃と刃が交錯し、やがて競り合いの状態になる。


 そこで、シンが一気に少女を押し飛ばそうとしたとき、少女が左手の銃口をシンに素早く向ける。


 シンは行動を中断し、魔法具の特殊効果スペシャルエフェクトでAGIを高め、射線から身をそらす。


 半瞬遅れて、さっきまでシンがいた場所をエネルギー弾が通過する。外れたエネルギー弾は地面に着弾し、拳サイズの穴を開けた。


 シンはその隙に反撃に転じる。少女の側面から、剣を右斜め上から振り下ろす。狙うは首。


 しかし、少女は高速で左手を銃の形から、右手と同じ刃に変形させる。シンの斬撃をその手で受け止める。そして空いている右手を横に一閃。


 シンはバックステップで回避し、刃の切っ先に腹部を掠める程度に済んだ。そして、透かさずシンは特殊空間から左手でナイフを三本取り出し、少女に投擲。


 少女はそれを難なく両手の刃で防ぐ。


 (掛かった──)


 シンがそう思った瞬間、それぞれのナイフを中心に爆発が起こる。少女はもろに喰らう位置にいた。


 しかし────


 爆煙が晴れて、少女の姿が現れる。そして、その身体を球体で覆うように展開された魔法障壁。少女の身に傷一つ付いていなかった。


 「クソッ! 防御も完璧とか反則だろッ!?」


 シンはそう毒づきながら、少女と距離を取る。


 (速くて攻撃も多彩、防御も完璧って……どうやって倒せってんだ……)


 シンが自分に出来る限りの勝ち筋を考えていくが、イメージの中ですら、自分の攻撃が少女に防がれてしまう。


 そのとき────


 「【展開】スキャトリング・アーティレリー」


 少女がそう呟くと共に、左手が変形する。それは長い銃身を持ち、数本の導線のようなものが繋がっていて、少女の体躯に見合わないゴツゴツとした銃だ。


 そして同時に、彩葉と柚葉を撃ち抜いたときに使った銃とは比較にならない脅威であることは言うまでもない。


 「距離を詰めれば剣で、離れれば銃で……何でもありだな、お前」


 シンは半ば呆れたように少女に言う。少女はそんなシンに照準を合わせるかのように黄色い相貌で見詰める。


 「【発射バースト】────」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る