Episode.24 激闘!決勝戦!
『第七回冬季レベル戦クラスLv.4決勝戦、開始ッ!』
アナウンスの合図と同時、隼人が強く地を蹴り出し、鋭利な切っ先を持つ槍──【ピアシング・スピア】を両手に持って構え、シンに向かっていく。
シンは身体を半身に拳闘の構えを取り、勢いよく迫ってくる隼人を油断なく見据える。
「はあッ!」
槍の間合いに持ち込んだ隼人が、駆けてきた勢いも乗せ、鋭い刺突を放ってくる。
「ふっ──」
シンは身を
しかし、相手のことを研究し、対策してきたのはシンだけではない。
隼人はそれを読んでいた。
隼人が突き出した左肘に取り付けられている金属製の防具で、シンの右ストレートが防がれる。隼人はその勢いで地を靴底で削りながら後退したものの、大したダメージは負っていない。
しかし、シンの攻撃は止まらない。
瞬時に隼人の懐に潜り込み、拳打を繰り出していく。
隼人は槍の柄を使用し、シンの拳打の嵐を何とか防いでいく。
「くそッ!? うざってーなッ!」
シンの拳打の嵐から逃れようと、隼人が蹴りを繰り出す。しかしそれは悪手。
シンは隼人の蹴りをしっかりと受け止め、両手でその脚を掴む。そして、自分を軸にコマのように振り回し、その勢いに乗せたまま隼人を宙に投げ飛ばす。
「ぐあッ!?」
シンは【
シンの姿が
「はぁあああああッ!」
赤い軌跡を描いた拳打が一閃。爆発的な運動量を加えられた隼人の身体は、地面に叩き付けられ、そのまま転がっていく。
シンは着地し、改めて隼人を見据える。
すると、砂煙の中からゆっくりと隼人が身を起こす。先程のシンの拳打は、間一髪槍の柄で防いで、その威力を抑えたのだ。
「さ、流石『
「……」
「だが……今ので俺を殺れなかった時点でお前の負けだ。」
「どういう意味だ」
シンは隼人の言葉に眉を潜める。隼人は口角を吊り上げて言う。
「わざわざこんなに距離を開けてくれるなんて、願ってもないってことさ」
「──ッ!?」
(この距離だったらお互い間合いの外……何が出来るって──)
シンはここまで思って、焦燥に駆られた。思い出す昨日の風花との特訓。
『シン、【槍使い】相手に距離を離しすぎても駄目よ?』
『ん? お互い射程外なんだから問題なくないか?』
『【槍使い】が使える技には、
「槍術──ピアシング・ジャベリンッ!!」
「ちぃ──ッ!?」
隼人が槍を逆手に持ち、身体の捻りを十分に使って槍を投擲する。その瞬間、槍が赤く発光し、そのまま超加速。刹那の間にシンの眼前に迫る。
シンは横っ飛びで交わそうとするが、遅れた左腕に赤く光る槍が突き刺さり、そのまま腕を持っていかれた。槍は、シンの左腕を切っ先に刺したまま対角の壁に突き刺さる。
シンの左肩口から激しく光の粒子が漏れ出す。身体の部位を損傷すると持続ダメージが発生するため、シンのHPは時事刻々と減り続ける。
シンは肩口を押さえながら、隼人を見据える。今、隼人は槍を持っておらず丸腰。しかし、シンはその一見絶好の機会に思われる状況でも動かない。
なぜなら─────
ビューンッ!
壁に突き刺さっていた槍が、ひとりでに隼人の元に飛んで返ってくる。
そう、【槍使い】の槍は投擲された後、持ち主の元へ返ってくるという性質がある。故にシンは、隼人に向かっていくことが出来なかったのだ。
(ぐ……やはりアイツのSTRが高いからか? 喰らったダメージが尋常じゃないぞ……)
HP:4000/6000
「ふっ……俺が丸腰のときに掛かって来なかったのは懸命だな。だが、既に勝敗は決した。俺の勝ちだ!」
「おいおい、腕を一本持っていったくらいで随分と付け上がるじゃないか」
「へぇ……まだ戦う気なのか? 降参したらどうだ?」
「残念だが、そう簡単に負ける気はないッ!」
シンはそう言って地を強く蹴って駆け出す。【ジェットブーツ】に魔力を籠め、AGIを上昇させる。
「馬鹿がッ!」
向かってくるシンを、槍を構えて隼人が迎え撃つ。
シンは直線的な動きから一変、【ジェットブーツ】の靴底から圧縮空気を噴射し、宙を舞う。そして、右手甲の魔法陣は緑色に輝いており、その手に風のベールが纏っている。
「ふッ!」
シンが右手を払うと、その軌道上から風の刃が生まれ、隼人の頭上から襲い掛かる。
隼人は、シンの変則的な動きに動揺し、守りが甘くなる。槍の柄で風の刃から身を守ろうとするが、そのほとんどが隼人の身体を斬り刻む。
「ぐぅッ!?」
シンは隼人の背後に回り込む形で着地し、再び右手を振るって風の刃を放つ。しかし、今度は隼人の槍に防がれる。
「おりゃあッ!」
隼人は槍を横薙ぎに払う。シンはバックステップで交わそうとするが、槍の切っ先に触れ、胸の辺りに横一筋の浅い斬れ込みが入る。
(くっそ……ここらで上位魔力性質変化使いたいが──ッ!?)
昨日の特訓で─────
『そうだ、大会で上位魔力性質変化使うの禁止ね?』
突如思い出したかのように風花が言う。
『えッ!? 何でッ!?』
『あんなの使ったら余裕勝ちじゃない。それに、たたでさえ貴方結構話題になってるのに、これ以上何かしてみなさい? 普通の日常が送れなくなるわよ?』
『それは困るな……』
というわけで、シンはこの戦いで上位魔力性質変化が使えないのだ。今までそれを使えば倒せる場面は山ほどあったが、シンはその都度我慢しているのだ。
だが、千切れた左腕による持続ダメージによって、シンのHPはかなりヤバイところまできている。
「おらおらおらおらッ! どうしたぁ!? 『
隼人の乱れ突きがシンに襲い掛かる。
シンは後退しつつ、脚捌きでそれを
しかし、シンは微かに口元を緩ませる。
(そろそろ頃合い……か)
シンは後方宙返りで、隼人と大きく距離を取ると右手を前にかざし、呼吸を整えるようにして目を閉じる。
それを見た隼人は
(何で距離を取ったんだぁ? さっき投擲技を喰らったばっかりだろうに……)
隼人はそんな疑問を念頭に、シンに向けて槍を構える。
(さぁ……お前の初舞台だぞ)
シンは目を開き、叫んだ。
「──来い【
刹那、閃光と共にシンのかざした右手に新たな武器──漆黒の鞘に入った
シンはそれを左腰に吊るし、その柄に手を掛ける。
「ちぃッ!? 変なもん出してきてんじゃねぇーよッ!?」
隼人はシンのその怪しげな剣を警戒し、槍を投擲する。赤く発光した槍は、隼人の手を離れた瞬間爆発的に加速し、一瞬でシンの眼前に迫る。
そして────
カィイーーン!
─────槍は、回転しながら宙を舞っていた。
そしてその下には、シンが鞘から剣を抜き放ち、ピタリと残心している姿が。抜き放たれたその刀身は若干透き通っており、不思議な輝きを持つ深青色をしている。
「今の俺にその槍を見て交わすのは無理だ。なら、交わさずに迎え撃てばいい」
シンは剣の切っ先を隼人に向けながら言う。隼人は歯噛みして、返ってきた槍をその手に取る。
「ぶ、武器の一つや二つで、この戦況は変わらねぇーぜ?」
「それは……俺次第だッ!」
シンは地を強く蹴り出す。【
隼人は思い切り槍を突きだし、シンを迎え撃つ。
しかし、一条の煌めきが目に入った瞬間、隼人の槍は真っ二つになり、切っ先が宙を舞っていた。
シンの右手甲の魔法陣が浮き出て緑色に輝き、高速回転。それに呼応するかのように、
飄々と風が吹き、その刀身に纏う。
そして─────
「はぁあああああッ!!」
横薙ぎに一閃。
刀身の軌跡から鋭利な風の刃が放たれ、隼人の身体を上下に分断する。発生した風の刃は、隼人の身体を斬ってもなお進み続け、後ろの壁に深い斬れ込みを刻む。
刹那に続く縦一閃。
同様に風の刃が生じ、隼人の身体を今度は左右に分ける。後ろの壁には十字の斬れ込みが深々と刻まれた。
シンは剣を振り下ろした形でピタリと残心。
四つに身体を分けられた隼人は、光の粒子を激しく噴き散らし、なす術なくその場に倒れ込む。やがてその身体を光の欠片と化して四散した。
シンが刀身を鞘に納める。
静寂が大規模闘技場一帯を支配する。全て観客、実況アナウンスまでもが息を飲んだ。
そして─────
『しょ、勝者……市ヶ谷シンッ! よって第七回冬季レベル戦クラスLv.4の優勝は──ッ!?』
『市ヶ谷シンだぁああああああああ──ッ!!!』
「「「うぉおおおおおおおお──ッ!!!」」」
割れんばかりの大歓声が闘技場一帯に轟く。
(ふぅ……何とか勝てたか……)
シンは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます