Episode.25 決勝戦の後

 第七回冬季レベル戦クラスLv.4の表彰式が終わり、シンは応援に来てくれていた彩葉、風花、柚葉と共に大規模闘技場を後にした。


 「先輩、優勝おめでとうございます!」


 「上位十人はLv.5昇格。優勝者は5000ステータスポイント付与に加えて賞金三百万円。何かおごりなさいよ」


 「風花お嬢様? お前は奢られる必要ないだろ」


 「貴方……またどつかれたいのかしら?」


 「あの、私はこの後迷宮統括協会ギルドの方で仕事を頼まれているので、そちらの方へ向かいます。皆さんはどうされますか?」


 柚葉が皆に尋ねる。


 「じゃあ、俺達も一緒に行くよ。Lv.5へステータス更新したいし」


 シンは彩葉や風花の方へ視線を向けて、同意を取りながらそう答えた。


 そして四人は、この『迷宮都市ダンジョン・シティ』の中央にそびえ立つ、近未来的超高層ビル───迷宮統括協会ギルド本部へと向かっていった。



 市ヶ谷シン

 【魔法具製作師】 Lv.5


 HP :6000

 MP :4000 (↑1250)

 STR:4002 (↑1250)

 INT:100

 VIT:1100

 MND:750

 AGI:5000 (↑2500)


 《スキル》

 ・魔法具製作



 「ふぅ……終わったぜ……」


 迷宮統括協会ギルドで柚葉と別れた後、シンはステータス更新機を操作し、自分のステータスポイントを割り振っていた。今、その操作が終わったところだ。


 「終わったぜ……じゃないわよッ!」


 「な、何だよ……」


 「はぁ……呆れた」


 風花はため息を吐き、頭を押さえていた。シンはその姿を意味不明そうに見ていた。


 「恐らく風花さんと私、思ってること同じだと思うんですけど……先輩、もう少し防御面に振ったらどうですか?」


 彩葉が風花の気持ちも代弁して言った。


 「いやいや、攻撃は最大の防御って言うだろ? 相手の攻撃は自分の攻撃で相殺すればいいし、何よりAGIを上げておけば、躱せる……というわけさッ!」


 どや顔で決めるシン。彩葉は苦笑して反応し、風花はより一層深く長いため息を吐くのだった。



 しばらくして─────


 「風花、そっち行ったぞッ!」


 「分かったわッ!」


 辺り一面荒廃し、草木一本生えず、硬質な岩肌が広がっている。


 シン達は迷宮統括協会ギルドを出た後、迷宮ダンジョン探索部でよく来るBクラス迷宮ダンジョンに潜っていた。


 「先輩! 撃てます!」


 「了解ッ!」


 シンは、彩葉が準備を終えたことを確認すると、目の前のモンスターから横に飛び退く。


 後方で長杖を掲げ、魔法陣を展開していた彩葉が、透かさず魔法を放つ。


 「ルクス・サジータッ!」


 一条の軌跡を描いた光の矢が、モンスターの眉間に突き刺さる。モンスターは断末魔の叫びを上げて、その場に倒れる。黒い塵となって四散した。


 彩葉はすぐに次の魔法陣を展開し始める。


 「風花さん、出来ました!」


 「オッケー!」


 風花が蹴りでモンスターを仰け反らせる。そこに、後方から彩葉が放った炎の矢が飛んでくる。その矢は、モンスターの左胸───心臓部を正確無比に突き刺す。すぐに黒い塵となって四散した。


 しばらくそんな狩りを続けた後、三人は手頃な場所で腰を下ろして休んでいた。


 「いやー、このパーティーやりやすいな。風花が俺達の学校だったらなぁ……」


 「別に休日くらいなら付き合ってあげるわよ……」


 風花はそっぽを向きながら、どこか照れ臭そうに返す。


 「それにしても先輩、その剣が以前装備店に注文していた武器ですか?」


 彩葉は、シンの左腰に吊るされてある片手剣バスターソードを見ながら尋ねる。


 「ああ。というか訳あって注文していたものより高品質のが出来たんだ」


 「そ、そうなんですかッ!?」


 「前に俺達が討伐してドロップしたミノタウロスナイトの角を軸に、色んな素材を加えて作ったんだが、決め手はこの刀身。もともとミスリル製になる予定だったんだが……オリハルコンになっちった!」


 シンが舌をペロッと出し、わざとらしく拳を頭に当てて説明する。


 「オ、オリハルコンッ!? そんな素材をどこでッ!?」


 「ん? 何かハイクリスタルタートルとか言う──」


 (あっ……言っちゃった、怒られる……)


 シンは、彩葉の目がジト目に変わっていくのに気が付いた。


 「先輩……? ハイクリスタルタートルって、Aクラスモンスターですよね? まさかとは思いますが、ソロでAクラス迷宮ダンジョンに潜っていたんですか?」


 彩葉の笑顔が怖い。シンは額に脂汗を浮かべながら、手と頭を横に振る。


 「ま、まさかぁ……。そう、風花に手伝ってもらってたんだッ!? いやー、その節はありがとなッ!?」


 シンは必死に風花に目配せする。風花は彩葉と同様ジト目でシンとしばらく視線を交わし─────


 「──私が手伝ったのは最後だけよ」


 「風花ぁあああああッ!?」


 「せんぱい──ッ!!」


 「すみませんでしたぁあああああッ!?」


 華麗にシンのムーンサルトジャンピング土下座が決まったのだった。



 ─────その後、三人は迷宮ダンジョンを出て、帰路についていた。シンはなぜか少し後ろでとぼとぼと歩き、その前で彩葉と風花が並んで歩いていた。


 「風花さん、例のやつ……」


 「ええ、問題なく手配しているわ。間違いなく驚くでしょうね」


 「そうですか、ありがとうございます」


 「ふふ、が楽しみね」


 声を潜めて、彩葉と風花が何かを話している。しかしシンは、後ろの方をぐったりとした様子で歩いているので、その話しは耳に届かない。


 彩葉と風花は、シンに気付かれないように尻目に見て、クスクスと笑っていた。



 しばらくして─────


 「シン、彩葉をちゃんと家まで送っていくのよ?」


 「分かってるよ。ってかお前、本当に年下か?」


 「うっさいわね! 本当よ!」


 「あはは……」


 風花のの門の前、彩葉はそんなシンと風花のやり取りを苦笑して見ていた。


 「じゃ、またな」


 「ええ、お休みなさい。せ・ん・ぱ・い?」


 風花はそう言って、燃えるように赤い長髪をバサッと払って門の中に姿を消した。


 その後、シンは彩葉を家まで送っていく。


 「では先輩、また明日学校で」


 「おう、明日な」


 シンはそう言って、いつも通り帰路に就いた。そして、なぜかその顔は少し笑っていて─────


 (よし……帰ったら【愚者の剣グラディトゥス】に特殊効果スペシャルエフェクトを付与してやるぜッ!)


 ということだった。


 また、シンが新たな規格外魔法具を作り出すのであった─────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る