Episode.34 待ち受ける難関
「せぇーいッ!」
シンが目前から迫ってくるゴブリンの胸ぐらを掴み上げ、次々に空中へ投げ出していく。
「彩葉ー!」
「任せてください──【
シンの掛け声と同時、彩葉が展開していた魔法陣から、光が集束して形作られた矢が数本射出される。
宙に光の軌跡を描きながら飛んでいったそれらは、シンが投げ上げたゴブリン達を一匹ずつ、正確無比に貫いていく。
一瞬黒みを帯びた血が散華するが、すぐに黒い塵となって四散。ゴブリンを倒したことの証拠である小さな深緑の結晶がパラパラと地面に落ちていく。
────【
ただ、このスキルには一つデメリットがある。消費税ではないが、発動させた魔法に必要なMPに加え、その10%のMPも消費しなくてはならないのだ。ゆえに、威力が大きく元々消費MPが大量な魔法を【
しかし、彩葉は【魔法師】の覚えられる魔法の上限五つの内、四つは誰かの援護をする前提の低威力魔法なので、【
加えて、元々魔法の命中精度が非常に高かった彩葉は、【
そのお陰で、前回のレベル戦でかなり注目された彩葉は、その容姿も相まって一部探索者のハートも射抜いてしまったらしく、ファンクラブも出来たとか出来てないとか……。
「お疲れ彩葉。とりあえずここらのモンスターは借り尽くしたかな」
シンが片腕をぐるぐると回しながら彩葉の傍まで戻ってくる。
「せ、先輩……ちょっとペースが速すぎますよ……。撃ち抜くの結構大変なんですから」
「あっはは……悪い悪い。あまりにも鮮やかに撃ち抜いていくもんだから、ついな」
「もう……ただ、先輩がそれだけ私のことを信用してくれてるってわかったから良いです!」
彩葉は可愛らしい笑顔を浮かべて、シンの顔を覗き込むようにして言う。シンは一瞬動揺するが、最近彩葉にいじりの主導権を握られているような気がしたので、平静を装う。
「あー、えっと風花ー? そっちも終わったかー?」
シンは少し遠くでモンスターを相手にしていた風花に声を掛ける。風花は恐らく最後であっただろうモンスターの腹部に槍を突き刺して仕留めた後、シンの方へ振り向く。
「ええ、終わったわ」
風花は槍を背中に戻しながらシンの方へ。柚葉はというと……。
「おい柚葉ー、記録を取るのも良いが、あんまり離れてると危ないぞ」
「分かりました、今戻りますね」
シンの忠告を受け、柚葉も合流。
「これからどうしますか? もう少し先まで進んでみます?」
柚葉がこの先にある通路に視線を向けながら尋ねる。
「そうだな、次来るときに攻略しやすいようもう少し奥まで行ってみるか」
シンはそう答えながら、彩葉と風花にも「それで良いか?」と視線を送る。二人はその視線に、首を縦に振る。
「んじゃ、行くか」
シン達四人は、すぐ先に見える一本道の通路を進んでいった────
そして────
「ゴーレム?」
シンが何の感情もなく呟く。目が死んでいる。
「ゴーレムですね」
「ゴーレムね」
「はい、ゴーレムです」
彩葉、風花、柚葉がシンの呟きに返答する。やはりどこか感情がない。
理由は明白。目の前のゴーレム──“達”だ。
一本道の通路を抜けると、横幅よりも奥行きの方が長い大きな部屋に出た。左右の壁にはまるで本棚のように溝が掘られており、そこに数えるのも嫌になるほどずらりと陳列しているのは、石で出来た身体で騎士のような見た目、片手には大きな盾、もう片手には長槍という感じの──ゴーレムである。
厳密にはゴーレムの中でも『ナイトゴーレム』と呼ばれるBクラスモンスターである。単体での戦闘力は平均的なLv.4探索者くらいだと言われている。
しかし…………。
「見た目は全てナイトゴーレムだが、恐らくほとんどが偽物……つまりただの石像ッ! 所見で『こんな多勢のナイトゴーレム相手に出来ねぇよ!』と思わせるためのトリックッ!」
シンはどこかの名探偵気分にでもなっているのか、突如意味の分からないことを言い始め、やがて片手を自らの眼前に持ち上げてキザな格好を取る。
「ふっ……有象無象は騙せても、この俺の目を欺くことは出来なかったな……
「「「…………」」」
女子三人が痛ましいものを見るような視線をシンに向けている。
微妙な沈黙が流れる。
「えっと、真実は全て本物のナイトゴーレム……全て動いて襲ってくると思います」
柚葉が半分苦笑いでそう告げる。その言葉に彩葉と風花も「私もそう思う」というような反応をするが、シンは再びキザな笑みを浮かべる。
「ふっ……この事件は迷宮入りということにしておこうか……」
「上手いこと言ってんじゃないわよっ!」
「いてっ……!?」
風花がシンのおでこを指で弾く。シンはエーテル体なので痛みは感じないが、やはり反射的に声が出る。
「先輩……どうやら、そういう真実らしいです」
「不条理だ……」
シンは残酷な現実に絶望し、空を仰ぐ。
(こんなときに石の天井しか見えないのも酷い話だ……)
シンはそんなことを思いながら、少し気持ちを落ち着かせる。
しかし、この光景に戸惑っているのは何もシンだけではない。彩葉も風花も……
再び沈黙が流れる。
そして、突如パシィンという乾いた音が響く。シンが自らの頬を両手で挟んだのだ。
「よしっ、やってみるか!」
シンの言葉に、三人が口をポカンと開けて唖然とする。
「ん、だってここまでに父さんと母さんがいなかったってことは、二人はここを突破したってことだろ? だったら俺達も通ってみせないと」
「先輩……」
「俺は二人を親としてだけじゃなく、探索者としても尊敬してる。だが、負けたくない。二人がここを抜けたなら、俺達もここを抜けようぜ?」
「シン……」
「それに、先に進まないと二人には会えない……連れて帰れないんだよ」
「市ヶ谷さん……」
シンは三人の目をしっかりと見る。そして、心からの……確信を持った言葉を口にする。
「俺は、このメンバーならいけると思う。ここだけじゃなく、この先も──どこまでも」
シンの言葉に、三人がはっと目を見開く。そして、互いに顔を見合わせた後、再びシンの方へ向く。
「そうね……そうよね!」
風花がいつもの自信ありげな笑みを浮かべる。
「私もいけると思います!」
柚葉が片手を胸の前でグッと握る。
「先輩と一緒なら……何だって出来ますよ!」
彩葉が両手で長杖の柄を強く握り、朗らかに笑って言う。
そして四人は一つ頷き合ってから、目の前の広大な部屋の方に向く。
「さぁ、いくらでも掛かって来い──ッ!」
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