非戦闘系職業の成り上がり ～生産職【魔法具製作師】の俺が、革新的な自作魔法具使って力を底上げ。そのまま最強目指して探索、無双する！

Episode.33 激闘！ミノタウロスナイト！

　シンは【愚者の外套（コート・オブ・ストゥルトゥス）】と【ジェットブーツ】の特殊効果（スペシャルエフェクト）によって、ＡＧＩを瞬間的に跳ね上げる。

　シンの姿が霞み動く。

　一気にミノタウロスナイトとの距離を詰めたシンは、右拳を強く握り締めて魔力を込める。

　【リビレラリータ】の甲の部分に描かれた複雑怪奇な魔法陣が赤く輝き浮き上がる。高速回転し始めると、その拳にボッと炎が灯る。

　「はぁッ！」

　放つ右ストレート。

　しかし、流石は第三級Ｓクラスモンスター。ミノタウロスナイトはその手に持つ大剣の腹で、シンの打撃を難なく防ぐ。

　「しぃ──ッ！」

　シンはそれを読んでいたとばかりに、【ジェットブーツ】の靴底から圧縮空気を噴射。そのまま飛び上がり、ミノタウロスナイトの頭上を取ると、左手を手刀の形にする。

　左手甲の魔法陣が緑色に発光。浮かび上がって高速回転すると、その手に風のベールが纏う。

　シンは透かさず左手の手刀を数回振り払う。

　その軌跡を描くように発射された風の刃が、ミノタウロスナイトを頭上から襲う。

　ミノタウロスナイトは自身の腕で頭部を庇う。風の斬撃を喰らった腕には無数の切り傷が刻まれ血が滲む。

　「グゥウウ……」

　ミノタウロスナイトは低く唸りながら、着地するシンを赤い相貌で睨み付ける。

　「ちぃ……Ｌｖ.７になったとはいえ、あの腕は切り落とせんか……」

　シンはそうぼやきながら、再び拳闘の構えを取る。

　────その隣では、風花ともう一体のミノタウロスナイトが戦っていた。

　風花が巧みに槍を突き出していき、ミノタウロスナイトが大剣で捌いていく。

　幾度となく槍と剣とが交錯し、甲高い音が響き渡る。

　しかし、決して勝負が拮抗しているわけではない。

　風花の槍の刃に灯る炎が、ミノタウロスナイトの身体をかすっていくごとに、火傷を負わせていく。

　ミノタウロスナイトはこのままではジリ貧だと悟ったのか、大きく後ろに下がった後、重たい大剣を身体の後ろに引いて構えて風花に突進していく。

　「ふっ……待ってたわよ」

　風花はそれを好機と取り、薄く笑ってから槍を構える。

　「槍術────」

　カッと風花の紫炎色の瞳が見開かれる。

　「灼炎ノ一閃────ッ！！」

　シュバッ！　と風花の槍から灼熱の炎が吹き出し、やがて風花をも飲み込んでいく。

　しかし、風花はその炎を苦痛に思うことはない。今この瞬間、炎は風花の味方。

　風花の燃えるような赤い長髪は、炎の揺らめきのごとく流れ、紫炎色の瞳はしっかりとミノタウロスナイトを見据えている。

　そして────

　「はぁああああ──ッ！」

　「ブモォオオオオオ──ッ！」

　突き出した風花の槍と、ミノタウロスナイトが突進しながら振るってきた大剣とが触れあう。

　それは刹那とも受け取れないほんの一瞬。

　風花の槍の切っ先から、圧倒的熱エネルギーを集束させたかのような炎の一閃が、迸る。

　それは、まるでプリンを掬うかのようにミノタウロスナイトの大剣を両断し、そのままミノタウロスナイトの胴体にぽっかりと大穴を空けた。

　その大穴から見える後ろの景色では、迸った炎の余韻が大岩を砕き爆発していた。

　風花に纏っていた灼熱の炎が消え失せる。

　訪れた静寂。

　「ま、こんなものかしらね」

　そう言って風花が槍を背中に戻すと、身体に大穴を空けて立ち尽くしていたミノタウロスナイトが、今更ながらに爆発四散。そのせいで黒い塵となって消えたかどうかは判断できなかったが、後には大きな赤黒い結晶が落ちていた────

　「────な、何だありゃ……」

　シンは風花の戦闘を横目に見て、驚嘆しながら苦笑いを浮かべていた。

　(これは俺も負けてられないな……)

　シンはそう思って少し気合いを入れる。

　「いくぜっ……！」

　シンは魔法具の特殊効果（スペシャルエフェクト）によって超加速。半瞬遅れて地面から土埃が舞う。

　ミノタウロスナイトは、もはやシンの姿を捉えきれない。驚いたように目を見開き、足を後ろに引いてしまう。

　シンはその僅かな間に、ミノタウロスナイトの背後に回っていた。

　シンの右手甲の魔法陣が青紫色に輝き浮き上がる。高速回転しながら発する耳をつんざく高周音が鳴り響く。発生した紫電がシンの手に纏い、スパークを起こす。

　そして────

　「穿て……貫くもの（ブリューナク）──ッ！！」

　シンは紫電が纏った貫手を放つ。

　ぱっと景色が白熱し、視界を焼く。

　貫手の延長線に迸った雷撃が、容赦なくミノタウロスナイトの背から胸を貫通し、なお走り続ける。

　やがて魔力の残滓がパチパチと弾け、射線をしっかりと視認させる。

　ミノタウロスナイトは絶命。黒い塵となって四散した後、大きな赤黒い結晶を残した。

　「……ふっ、終わったぜ」

　スッキリしたような顔で皆の方に振り返るシン。

　「『ふっ、終わったぜ』じゃないわよ！　何で上位魔力性質変化使ったのよッ！　お陰で貴方の右腕ボロボロじゃない！」

　風花の突っ込み通り、先程の技の反動で、シンの右腕には亀裂が走り、そこから光の粒子が微かに漏れ出ている。

　「だ、だってお前があんな大技使うから、俺も張り合いたくなっちゃうじゃんッ！？」

　「知るかッ！」

　「痛いッ！？」

　風花にどつかれるシン。エーテル体なので痛覚はないはずだが、思わずそう言ってしまう。

　「先輩が決めちゃったら、私、援護するときないじゃないですかー！」

　ぷくぅと頬を膨らまして抗議する彩葉。確かにシンに援護をお願いされたが、結局援護する隙がなかった。

　「わ、悪かったって！　次は任せるから、な？」

　シンは両手を合わせながら彩葉を宥めようとする。

　彩葉はそんなシンをしばらくじっと不満げに見詰めた後、顔を綻ばせる。

　「はい、任されました！」

　「ん、んん……」

　上目遣いで可愛らしく言ってくる彩葉に、シンは思わず視線をそらしてしまう。

　「ふふ、これはもう確定でしょうか？」

　そう小声で呟くのは、何かを察している風な柚葉であるが、その声を聞く者はいない。

　そんなこんなで、無事に樹海を抜けることが出来たシン達。少し遅めの昼食を取った後、今日の野営地を探しながら足を進めていると……

　「なるほど……樹海を抜けた先はこうなってるのか」

　そう呟くシン。目の前に現れたのは、石で造り上げられた神殿だ。外壁には植物の蔦や苔があり、一見物凄い歴史を感じさせるが、果たして迷宮（ダンジョン）に歴史があるのかどうか……。

　「取り合えず今日はこの神殿の前で野営（キャンプ）するとして、少し神殿の中も探索しましょう」

　そう提案するのは柚葉。シンと彩葉と風花は首を縦に振って了解の意を示す。

　次のシン達の探索は、神殿である────