Episode.30 第一回未知迷宮探索
「いよいよ……だな」
そう呟くシンと、その隣に並ぶ彩葉、風花、柚葉の目の前には、異様な気配を放つ、重厚で大きな扉がそびえ立っている。
「絶対に見つけ出しましょう、先輩のご両親を!」
「そうね」
「もちろんです!」
彩葉の気合いを入れる掛け声に、風花と柚葉も呼応する。
シンはそんな三人を見ながら、心の中で最大級の感謝を告げる。
「えっと、柚葉は一応エーテル体化するけど戦えないんだったな?」
「はい、探索者でなくアドバイザーなので……。でも、サポートはお任せください! 足手まといにはなりません!」
グッと両拳を胸の前で握って答える柚葉。シンは右手を突き出し、親指を立てる。
「ああ、頼りにしてるぜ!」
そして、四人は顔を見合わせ、無言で頷くと、胸に付けた探索者バッジに手を添える。
「「「
バッジの効果起動句を口にした四人の身体は、瞬く間にエーテル体と化し、それぞれの探索者装備を身に纏う。
「よし、行くぞ!」
シンの掛け声と共に、四人は未知の
パッと開けた視界に飛び込んできた光景は、一言で言えば“大樹海”。
視界の限り
「事前の情報通り……いや、それ以上の光景だな」
シンが、目前を埋め尽くす樹海に気圧されながら呟く。
「はい……視界も悪いのでモンスターの接近に気付きにくいかもしれませんね……」
シンの隣で、彩葉がぎゅっと木製の長杖の柄を握り締めながら言う。
「私と初めて会った日みたいに、森を焦土にするのはナシでお願いね?」
「あはは……そんなこともあったな」
風花の言葉に、シンは苦笑いで答える。そして、こほんと一つ咳払いして、気持ちを入れ直してから、シンは三人と共に大樹海へと足を踏み入れていった────
三時間ほどが経過────
「遅いぜ──ッ!」
シンがダークグレーのロングコートをはためかせながら、周囲にそびえ立つ木々の幹を足場に、超変則機動で目の前の巨大なゴリラのようなBクラスモンスター──『キングゴリラ』に無数の打撃を加えていく。
【リビレラリータ】に魔力を込め、STRを飛躍させる。甲の魔法陣が赤く輝き浮かび上がって高速回転。ボッと拳に赤く燃える炎が灯ると、シンは容赦なくそれをキングゴリラの顔面に叩き込む。
「グォオオオ……ッ!?」
その衝撃に悶えながらも、地面を脚でしっかりと踏み、何とか持ちこたえるキングゴリラ。
「これで、終わりだぁあああーーッ!」
【ジェットブーツ】から圧縮空気を噴射させ、圧倒的推力を得たシンは、その運動量を燃える拳に乗せて、仰け反ったキングゴリラの腹部に右ストレートを叩き込む。
ドォオオオンッ!
激しい
キングゴリラはその身を黒い塵と化して四散。後には掌サイズの焦げ茶色の結晶が落ちていた。
「そっちは終わったか?」
シンはその結晶を拾うと、後方に視線を向ける。
するとそこでは、風花が巧みに金色の槍を操り、数体の別のモンスターを相手取っている姿があった。
「今終わるわよッ!」
風花はそう答えると、自身の槍の刃に深紅の炎を灯す。そして、そのまま槍を横薙ぎに払うと、その軌道上から、炎で形作られた鳥──いや燕が飛び出て、押し寄せていたモンスターに襲い掛かる。
そして、ものの数秒で全てのモンスターは燕の餌食となって燃え尽き、炭のように黒い塵となって四散した。
「おい、森を燃やしそうなのはお前の方じゃないのか?」
「ふん、私がそんなへまをするわけないでしょ?」
シンの言葉に、風花は槍を背中に背負い戻しながら答える。
「すみません先輩、風花さん……こんなに射線が通らないと思っていなくて……」
そこへ、柚葉を守るように立っていた彩葉が申し訳なさそうに言ってくる。
「まあ、しょうがないな。【魔法師】にとったら最悪と言っていい地形だからな……」
シンは周囲に隙間なく生い茂る木々を見渡しながら答える。
「だが、結界の魔法で柚葉を守ってくれるだけで結構助かってるぜ? 俺と風花はそのお陰で戦闘に集中できる」
「そ、そうですね! 柚葉さん、私から離れないでくださいね?」
彩葉は、柚葉に視線を向けてそう言う。その言葉に、しばらく目をパチクリさせていた柚葉は、柔らかく笑って反応する。
「ふふ、私、琴川さんのイケメン発言にときめきそうです」
「もう、柚葉さんっ!」
からかわれた彩葉は、恥ずかしさから顔を赤くしていた。
「それより……ここはどこら辺かしらね? この樹海から抜けられる未来が見えないのだけれど……」
モンスターから落ちた結晶を拾い集めてきた風花が疑問を口にする。すると、柚葉がタブレットを取り出しマップを表示して、皆に見せる。
「樹海の五分の一……と言ったところでしょうか。先日お話しした通り、樹海の先がどのようになっているかは不明ですが……」
少し深刻そうに話す柚葉。
「じゃあ、半分進んだ辺りで今日は探索終了ってところかしら」
「ということは……」
風花の言葉に、真剣に思考を巡らせるシンの呟きに、皆が視線を集める。
「ということは、だぞ?」
「「「ということは……?」」」
もったいぶるような沈黙が流れ、皆が固唾を飲む状態が続く。
そして────
「
それはそれは嬉しそうに目を輝かせ、誕生日に彩葉から貰った髪ゴムで結んだ黒髪の尻尾を犬のように横に振りながら言うシン。
しかし、シンの様子とは裏腹に、女子三人は呆れた視線を向けていた。
「何を言い出すかと思えば……」
風花がため息混じりに肩を落とす。
「あはは……確かに、少し楽しみですね?」
苦笑しながら、少しくらいは同意しようと彩葉が反応する。
「な、何だよ……お前らは楽しみじゃないのか!?」
微妙な空気が流れたので、シンが皆に尋ねる。
「あのね、
「ああ、そういえば風花は
「アンタは乙女かッ!?」
風花は切れの良い突っ込みと共に、ぺしっとシンの頭にチョップを喰らわす。
「ほら、貴方が先頭なんだからさっさと進みなさいよ! そうしないとお楽しみの
「それは困るな」
シンはそう言って、三人の先頭に立つと、再び歩き始めた────
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