Episode.19 共闘!シンと風花②

 シンと風花はそれぞれの構えを取り、対峙たいじするモンスター───『ハイクリスタルタートル』を油断なく見据える。


 「一体目のクリスタルタートル倒したときみたく、アイツの甲羅のオリハルコン使って倒せんかね?」


 「原理的には可能……なはずよ。でも、アイツはクリスタルタートルの上位種、そう簡単に貴方の魔力性質変化に使われてくれるかしら……」


 「ということは……」


 「ええ、正攻法で討伐するのが確実でしょうね」


 ……………………。


 ……………。


 ……。


 「「──ッ!!」」


 呼吸を整える間を置いて、シンと風花がく駆ける。動き出しはほぼ同時。シンはハイクリスタルタートルの左側面から、風花は反対側から攻める。


 シンの諸手もろての甲の魔法陣が浮き出て緑色に輝き、高速回転。その手に風のベールがまとう。


 「ふ──ッ!」


 そのベールが纏った諸手を手刀の形にし、ハイクリスタルタートル目掛けて振り抜く。すると、空気を斬る音と共に風の刃が発生し、太く立派な左前足に向けて放たれる。


 シュバッ!


 無数の斬れ込みが入り、鮮血が散る。しかし、その厚く固い皮膚が阻み、ダメージはあまり入らない。


 その反対側では、風花が金色の槍を振るっている。その槍の先端には赤い炎が灯り、斬り傷と火傷を同時に与えていく。風花の背丈を上回るその長い槍をたくみに操り、ハイクリスタルタートルにダメージを与えていく。


 流石はLv.7。ハイクリスタルタートルの硬質な皮膚も難なく斬り裂き、シンが与えていくダメージを上回る。


 しかし、ハイクリスタルタートルも無抵抗ではない。再びその甲羅のオリハルコンが輝く。少しの間を置いて、初手と同様に冷気を振りく。


 風花も同じ防ぎ方をする。槍の炎を激しく燃え上がらせ、その先端で自身の前の地面に弧を刻む。すると、そこから猛々しく燃える炎が噴き出て壁となり、冷気をさえぎる。


 シンは諸手の風を吹かせ、冷気の進みをコントロールし、自身に向かわないようにして防ぐ。


 ─────ハイクリスタルタートルの攻撃はまだ終わらない。


 その歯のない口を大きく開き、シンに向ける。口内に魔力が集中していき、やがて発光する。


 (ちぃ──ッ!? またビームかッ!?)


 シンは冷気を風で防ぎながら、ハイクリスタルタートルの次の攻撃を察する。その額には若干の脂汗が浮かんでいる。


 「シン──ッ!?」


 風花が反対側から叫ぶ。


 「一度喰らった攻撃だ──」


 ハイクリスタルタートルの魔力が最高点に達する。そして、シンは広角を少しり上げる。


 ズバァアアアアアンッ!


 景色を白熱させる圧倒的なエネルギーの奔流ほんりゅうが、シン目掛けて駆け抜ける。その威力は初め放たれたものより激しく、ハイクリスタルタートルすらも、その立派な四肢で踏ん張って放っている。


 「───二度も喰らってやる義理はねぇッ!」


 シンの姿が霞むように消えると同時、そこに極太の魔力の砲撃が通過する。しかし、それはむなしく空を切る。なぜなら─────


 シンは既にハイクリスタルタートルの真正面に潜り込んでいるのだから。圧倒的エネルギーの砲撃はシンの頭上数センチを通り抜ける。


 ハイクリスタルタートルは、その黄色い瞳を大きく見開く。


 シンの右手甲の魔法陣が浮き出て青紫色に激しく輝き、高速回転。耳をつんざく高周音が鳴り、ドーム状のこの空間に反響する。みるみる内に右手につどう魔力が高まり、紫電を発生させる。


 「す、凄い迫力ね……」


 風花も思わず息を飲む。


 シンの右手に発生した紫電が纏う。目映い輝きを放つその手を、シンは後ろに引き─────


 「貫くものブリューナク──ッ!!」


 放たれた鋭い右の貫手ぬきて


 「オォオオオオオッ!?」


 ハイクリスタルタートルも、負けじと分厚い魔力障壁を眼前に重ねて展開。魔力障壁とシンの貫手が交錯する。一瞬拮抗するかに見えたその場面。


 しかし、万物を貫くその名を与えられたシンの貫手は止まらなかった─────


 景色が白熱。刹那の閃光が空間一帯をおおい尽くす。


 晴れた光景にあったのは、シンが放った貫手をピタリと止め、残心している姿。それと向かい合うハイクリスタルタートルが硬直する姿。そして、シンの貫手の延長線上を、未だ消えない魔力の残滓ざんしが紫電を散らしながら伝っている様子。


 訪れる静寂せいじゃくが、空間を支配する─────


 そして─────


 パラパラパラ……と、硬直しているハイクリスタルタートルの末端から黒く染まっていき、風化するかのように塵となって散っていく。


 よく見てみると、眼前に重ねて展開されている分厚い魔力障壁の中心には、ぽっかりと丸い穴が空いていて、同じようにクリスタルタートルの身体にも貫通する風穴が。


 「シン……貴方……」


 辺りに舞い散る黒い塵の景色の中で、紅蓮の炎で染めたかのように美しい赤色の長髪をなびかせて、風花がつぶやく。その目線の先には勿論シンがいて───シンは散ってゆく塵をあおぎ見ていた。


 そして、そのシンの足元には大きな深い青色の結晶と、六角柱状の美しい特殊な輝きを持つ透明な結晶───ドロップアイテムが落ちていた。


 (市ヶ谷シン……貴方は……何者なの……?)


 風花は戦慄と驚嘆を胸に、ただただシンを見詰めていた─────



 「──こ、これは……ッ!?」


 「ん? どうしたんだ?」


 「あ、あはは……」


 シン行き付けの装備店のある一風景。


 シンと風花はハイクリスタルタートルを討伐した後、Aクラス迷宮ダンジョンから帰還し、ドロップしたアイテムを装備店に持ち込んでいた。


 すると、そのドロップアイテムを見た相変わらず強面の男性店主が、その強面を驚愕の色に染めていた。


 「きちんとからドロップしたを持ってきたぞ? これで頼んでた武器……作れるよなッ!?」


 シンが目を燦爛さんらんと輝かせて店主に確認している。同行した風花はその様子を、後ろで苦笑いを浮かべながら見ている。


 「ぼ、坊主……これは……」


 強面店主は、大きく見開いた目をシンの方へゆっくり向ける。


 「おいおいおいおいッ!? まさか……目当てのドロップアイテムじゃなかった……とか言うなよなッ!?」


 「ああ……その通りだ……」


 「……ッ!?!?」


 シンがショックのあまりたじろぐ。


 「目当てのドロップアイテム……じゃねぇ……これは……もっと高品質な……だ……ッ!」


 「へ……? 高品質?」


 シンがすっとぼけたような声を出す。すると、風花が見てられないと言わんばかりに入ってくる。


 「シン、貴方が倒したのは正確にはクリスタルタートルじゃないでしょ? その上位種……だったでしょ?」


 「え……でもクリスタルタートルには変わりないだろ?」


 「種としてはね? でも、その強さやレアリティ……勿論ドロップするアイテムの質も圧倒的に高いわ」


 「ま、マジですか……」


 「マジよ」


 シンは、風化から強面店主に向き直ると、再び確認を取る。


 「店主……高品質ということは……?」


 強面店主は、ごくりと唾を飲み込み、答える。


 「ああ……注文よりもっと良いもんが作れるぜ……」


 「……」


 シンは腰に手を当てて、空を仰ぎ見る(見えるのは少し汚い天井だが)。そして、しばらくの間を置いて─────


 「よっしゃああああああああ──ッ!!」


 「良かったわね、シン」


 「ああ! 風花もありがとうなッ!? お前がいなきゃ上手く行かなかったぜ!」


 そう言ってシンは無遠慮に風花の手を取り、両手で包み込む。風花は気持ちの準備もないままそんなことをされ、頬を赤く染めていく。しかし、シンはそんなことに構わず風花の紫炎色の瞳を覗き込むようにして言う。


 「これからも何かあったらよろしくなッ!? いやぁー、お前がいてホントに良かったッ! 大好きだわッ! はっははははははははッ!」


 ─────ボッ!


 そんなシンが何気に放った止めを刺すような言葉に、風花は意味不明に胸が動悸どうきし、全身が火照り、顔が真っ赤に染まる。頭の中はごちゃごちゃになり、大混乱だ。


 「ん? 風花……どうしたお前……風邪か?」


 流石に風花の異常な赤面具合に気が付いたシンが、少し心配そうに尋ねる。そして、良かれと思って自らの手で風花の前髪を持ち上げ、自身の額を重ねる。


 刹那─────


 「ば、ば、ば、馬鹿ぁああああああああ──ッ!?!?」


 ドーン! ガラガラガッシャーン!!


 シンは風花に勢いよく突き飛ばされ、商品棚に激突。頭部強打によって意識が朦朧もうろうとする。


 「坊主……それはお前さんが悪いぜ……」


 強面店主は呆れたようにその光景を眺めていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る