Episode.18 共闘!シンと風花
シンと風花の気配に気が付いただろうか───二人の前にどっしりと座って構える、甲羅にいくつもの透明な六角柱状の水晶───もとい、ミスリルを生やした『クリスタルタートル』が、
「コイツ、強いのか?」
「んー、道の途中で出てきたモンスターよりかは強いわよ」
「なら一丁気を引き締めてやりますかッ!」
「助太刀するわ」
そう言ってシンはクリスタルタートルに対して、身体をやや半身に拳闘の構えを取る。風花もシンと一定距離を置いて、背丈を上回る金色の槍を構える。
「オォオオオオオ──ッ!」
クリスタルタートルの
「しぃ──ッ!!」
シンが
Lv.4となったシンの元々のAGIは2500。それだけでも今までと比較にならない駿足。しかしこの一瞬だけはそれすらも圧倒的に上回る5000。
シンの姿が
シンの右拳の甲の魔法陣が浮き出て赤く輝き、高速回転。ボッと赤く燃える炎が灯り、その拳を包み込む。そして─────
「はあッ!!」
右ストレート一閃。赤色の軌跡を引き、力強くクリスタルタートルの左前足を打つ。
「クゥウウーーッ!?」
少し籠ったような鳴き声を上げるクリスタルタートル。それなりにダメージは入っているようだ。
「やぁあああああッ!」
風花が透かさず乱れ突きを放つ。クリスタルタートルの右前足にいくつもの斬れ込みが入り、そこから血が
しかし、クリスタルタートルも易々とやられたりはしない。
前足を踏ん張り、地を押してその重たい巨体を上げる。一時的に後ろ足二本で立つ。
「──シン下がってッ!」
「あ、ああッ!」
シンと風花は瞬時に後ろに飛び下がる。そして─────
ドォオオオオオンッ!!
激しく地面が揺れ、地鳴りがドームに響く。クリスタルタートル付近の地面には亀裂が入り、回避しなければどうなっていたかは想像に難くない。
「治まったか……?」
「まだよッ!」
そう警戒を発する風花。その見立ては的中し、クリスタルタートルが魔力を高める。その証拠に、甲羅から生えているミスリル柱が魔力に反応して輝きを発する。
刹那─────
ビュゴォオオオオオッ!
甲羅のミスリル柱から冷気が噴射される。それは地を伝うようにシンと風花の方へ迫ってきて、やがて足元を
「冷たッ!? 魔力性質変化かッ!?」
「ええ、ミスリルは魔力の伝導性が高い。クリスタルタートル本来の魔力性質変化の力を高めてるってわけよ」
「なるほど……だが、魔力性質変化は俺の十八番だぜッ!」
そういってシンは地を強く蹴り出し、クリスタルタートルに向かっていく─────
(動けないッ!?)
シンは自分の足元を見る。するとそこにはしっかりと凍り付いた自分の脚があった。
「風花ッ!?」
「何よ」
(えっ……?)
シンは、風花の身を心配して振り向いてみるが、風花の脚は凍り付いた様子はない。それどころか、冷気が風花を避けるように広がっていく。
「ああ……あの冷気なら炎で払ったわ」
風花は、見せ付けるように自分の槍の刃に炎を灯らせる。シンは、心配して損したという様子で
「おりゃあああああッ!?」
シンは【ジェットブーツ】の靴底から圧縮空気をありったけ噴射。脚に纏わり付いた氷は粉々に砕けて散らばる。
その勢いに乗って凄まじい勢いでクリスタルタートルに迫るシン。
そして、甲羅から生えているミスリル柱に右手を付ける。同時、甲の魔法陣が浮き出て黄色く輝き、高速回転。
「ミスリルは魔力の伝導性に優れる──お前が出来るんだ、俺も
そう言うと、ミスリル柱がシンの右手甲の魔法陣と同色───黄色に輝き出す。そして─────
「喰らえッ!」
高電圧高電流の電気が生じる。ミスリル柱を伝い、甲羅に届き、そのままクリスタルタートルの身体へと到達する。
発生するスパークが火花を散らし、ドーム内を明るく照らす。
そしてクリスタルタートルはそのまま感電死した。
それだけ。
「ドロップ……しなかった……」
シンはしばらく唖然とし、そのまま膝を折って突っ伏した。風花は後ろで、そんな様子を苦笑しながら
(それにしても、トリッキーな戦い方ね……)
風花は心の中で、少しだけシンに驚嘆していた。
「──もう……そんなに気を落とさないでよね。ドロップアイテムなんかそう簡単に手に入るもんじゃないんだから。」
「うん……」
シンは次のクリスタルタートルを探すため、風花に
そしてこの後、再びクリスタルタートルを見つけて討伐するも、ドロップアイテムは落ちず、三度討伐するも、やはりドロップしなかった。
「あぁああああああああッ!?」
「今日はもう良いんじゃない? 次も手伝ってあげるから……」
シンは三体目のクリスタルタートルを討伐した後、やけになっていた。今晩はこの
「駄目だ……駄目なんだ。そろそろ手に入れないとレベル戦に間に合わなくなる……」
「言っちゃ悪いけどね、多分貴方はその武器がなくても負けたりしないわ。貴方の戦い方はLv.4の域を越えてる……レベル戦で戦う同じLv.4の探索者なんて、正直相手にならないと思うわ」
「そうかなぁ………」
「この私が保証するわ。安心しなさい」
「ん……分かった……じゃあ、あと一体だけ……」
「仕方ないわね」
そんな話をしながら、二人は今日最後のクリスタルタートル討伐を目指して、歩いていった。
しばらくして─────
「──に、逃げろッ! あれはヤバイッ!」
「クリスタルタートルがッ!」
そんな叫びを上げながら、他の探索者が逃げ出すようにシンと風花の横を通り過ぎる。そして、シンと風花は顔を見合わせて、こくりと一つ頷くと、探索者が逃げてきた方向へ駆け出す。
そこには─────
「やったぁあああああッ! クリスタルタートル発見ッ!」
「これで最後だからね──あれ……?」
「よしッ! 風花行くぞッ!」
「ちょっ……ま、待って……ッ!?」
シンは聞かず、【
刹那の間にクリスタルタートルに接近。そのまま魔力を込めて【リビレラリータ】の
が─────
「な……ッ!?」
クリスタルタートルとシンの右拳の間に、薄くて固い半透明の壁───魔力障壁が展開されている。
右ストレートは難なく弾かれ、シンは上体を大きく仰け反らせる。そして、クリスタルタートルの口が大きく開かれる。そこに魔力が集中し、発光する。
そして─────
「シン──ッ!?」
「ちぃ──ッ!!」
ズバァアアアアアンッ!
光の
「シン……?」
風花は脂汗を浮かべて、シンに呼び掛ける。しかし、土煙が上がっていて、その姿は見えない。もしかするとHPが0になり、エーテル体の維持が出来なくなっているかもしれない。
「──あ、あっぶねぇ……。」
土煙の中から、シンがゆっくりと身を起こす。
シンは、あの攻撃を喰らう瞬間に【
ポーチから回復ポーションの小瓶を取り出し、喉に流し込む。ボロボロのシンの身体が、少しずつ癒えていく。
「ば、馬鹿ッ!? 一人で突っ込むからよッ!?」
「あはは、悪い悪い……それにしてもアイツ……」
「ええ、ただのクリスタルタートルじゃないわ。その上位種───『ハイクリスタルタートル』よ」
そう呼ばれたモンスター───ハイクリスタルタートルは、一見普通のクリスタルタートルと変わらないが、甲羅から生えている透明な六角柱状の結晶の色が異なっている。不思議な輝きを持ったその結晶は、普通のクリスタルタートルの甲羅の中心に一本だけ生えていたものと同じだ。
「シン、あの甲羅から生えているのはオリハルコンよ。ミスリルより圧倒的に硬度が高く、魔力伝導率も高いわ」
「おまけに口からビームね……」
シンと風花はハイクリスタルタートルを油断なく見据え、それぞれの構えを取る。
「今日最後のクリスタルタートルだったはずが……その上位種とは……」
「逃げることも出来るわよ? あの巨体だもの、元来た道に戻ればアイツは入ってこれないわ」
「いや……上位種だろうが何だろうが、クリスタルタートルであることに変わりはない。ドロップアイテムくれるならそれでよしッ!」
「仕方ないわね」
─────今日、最後の狩りが始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます