Episode.20 冬季レベル戦開始!
─────日は流れ、遂にこのときがやってきた。
シンの目の前にある看板に、大々的にポスターが貼られている。
“
「……」
シンはその看板を見詰め、呆然と
「せんぱーいッ!」
「市ヶ谷さん!」
「仕方ないから来てあげたわよ」
そこへ彩葉、柚葉、風花がそれぞれの私服姿で現れる。皆とても似合っているのだが、レベル戦直前のシンにはそこに気を回す余裕はなかった。
「お、おう……」
シンが少しキョドりながら振り返る。
「何? まさか緊張してるわけ?」
風花が、その紅蓮に燃える炎で染めたかのように美しい赤色の長髪をかき上げながらやや上から目線に
「ああ……」
「先輩なら大丈夫ですよッ! 取り敢えずトーナメント前のバトルロイヤル、頑張ってくださいね!」
「ああ……えッ!?」
シンが彩葉の言葉に疑問符を浮かべる。
「どうしました?」
「いや……バトルロイヤル……? 何それ?」
「「「え……ッ!?」」」
三人の少女が目を点にして固まる。そして流れる謎の沈黙。
「先輩……あくまで確認のために言っておきますね……? レベル戦の参加者は毎回凄い人数なんです。だから、トーナメントを始める前に、その人数をなるべく減らすため、参加者全員ごちゃ混ぜのバトルロイヤルを十分間行うんです」
「へ、へぇ……」
(((だ、大丈夫──ッ!?)))
シンのそのいかにもな反応に、少女三人の不安が重なる。
そんな不安要素をたっぷりと抱えたまま、シンは看板の先に見える非常に大きな建物───
─────しばらくして、闘技場の真ん中には、レベル戦参加者が整列していて、その中にシンもいる。同心円上構造のこの闘技場の脇に数段にもなって置かれている観客席には、シンの応援に来た少女三人が座っている。
「アイツ……大丈夫かしらね……?」
「市ヶ谷さん……」
風花と柚葉が心配そうに
「先輩は、大丈夫ですよ!」
そこへ、彩葉が自信たっぷりに言い放つ。風花と柚葉は、彩葉に視線を向ける。
「だって、先輩ですからッ!」
屈託のない笑みを浮かべて、二人に向く。それを見た二人も顔を見合わせ、微笑む。
「そうですね、市ヶ谷さんですもんね!」
「ええ、アイツはそう簡単に負けたりしないわ」
そんな三人の視線が向けられる先で─────
「ああ……この人数で十分間バトルロイヤル……」
死んだ魚の目をしたシンが、深く長くため息を付く。
(きちんとレベル戦の説明読んどくんだったなぁ……)
そんな後悔を今更ながらにするシン。その思いとは裏腹に、バトルロイヤル開始時間が刻一刻と迫ってきている。
─────そして。
『さぁー始まりましたッ! 第七回冬季レベル戦、クラスLv.4ッ! 参加者は総勢二百五十七名ッ! この円形フィールドに参加者の皆さんが散らばって準備をしていますッ!』
声の主は若い女性と思われる実況アナウンスが観客席に響く。それに
「頑張ってください……先輩……ッ!」
胸の前で手を握り、じっと円形フィールドを見詰める彩葉。そして、その視線の先には少しソワソワしているシンの姿があった。
『さあッ! 時間となりましたッ! これより、十分間バトルロイヤルを開始します! 参加者の皆さんは、
「「「
シンを含めた、参加者総勢二百五十七人が一斉にその身をエーテル体と化し、それぞれの装備を身に
「「「うぉおおおおおおおおーーッ!!」」」
一瞬で円形フィールドが乱戦、混戦状態になる。打ち合いによって鳴り響く金属音が、魔法陣から放たれる炎や電撃や風やらが起こす轟音が、この闘技場一帯を包み込む。
「何だぁ……この
一人ポツンとまだ動いていないシン。吹き荒れる風にそのダークグレーのロングコートと、うなじで一つに結んだ黒髪の尻尾をなびかせて、その光景に唖然としていた。
そこに─────
「隙ありぃいいいいいッ!」
「うわッ!?」
シンの側面から、大きな斧を振り下ろしてくる男性探索者。シンはそれを
「こ、これがバトルロイヤル……」
「うぉおおおおおッ!」
斧を地面から引き抜いた男性探索者は、再びシンに襲い掛かる。シンはまだ状況の整理が出来ていないまま、その男性探索者に対して、やや半身に拳闘の構えを取る。
が─────
「漁夫の利ぃいいいいいッ!」
「うっそぉおおおおおッ!?」
今度はシンの背後から漁夫───大柄で筋肉質な若い男性探索者が、大剣を振り下ろしてくる。
─────そう、これがバトルロイヤル。一対一ではなく、一対一対一対一対一対……。そしてその戦い方も様々。真正面から戦うもよし、戦っているところに横から入り込むもよし、戦わずに逃げ回るもよし。
「気が抜けねぇ……」
シンは瞬時に交わし、背後から斬り掛かってきた男性探索者の脇に潜り込む。そして、両拳に魔力を込め【リビレラリータ】の
鋭い踏み込みから
無駄のないキレのあるワンツーで、その男性探索者は向こうの方へ飛んでいった。
そこへ、三度斧を振り下ろしてくる男性探索者。シンはそれに被せるようにカウンターを合わせ、左拳が男性探索者の顔面に突き刺さる。
透かさずシンは右手を鋭く伸ばす。その甲の魔法陣が浮き出て、黄色く輝き、高速回転。発生した電撃がシンの手を包み込む。
─────ズシャッ!
鋭い
攻撃の威力に関わらず致命傷判定の場所にダメージを受けると、HPは問答無用で0になる。
男性探索者の身体───エーテル体に亀裂が入り、やがて光の欠片となって四散した。
シンは一人、バトルロイヤルから脱落させた。
─────観客席では。
「初めはどうなることかと思いましたが……」
「ええ、問題なさそうね」
柚葉と風花が円形フィールドで繰り広げられる激闘を眺めながら
「それにしても……」
「あ、あはは……」
二人が隣の席の方へ視線を向けると、そこにはブンブンと腕を振り回し、周囲の目などお構いなしに叫んで応援する彩葉の姿があった。
「いけぇーーせんぱーいッ!! そこですッ!
柚葉と風花は苦笑していた。
─────シンは問題なく戦っていた。
円形フィールドを駆け抜け、隙あらば通り抜け様に急所をかっさらう。
時には【
しかし、後のトーナメントのことも考え、なるべく手の内がバレないように、魔法具の力を使うのは必要最低限にしている。
─────そんなこんなで十分が過ぎ、
『さあッ! バトルロイヤルを生き残ったのは計二十八名ッ! 二時間後から、トーナメントの第一回戦を場所を変わって
いよいよ、トーナメントの開始だ。
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