Episode.14 慌ただしい日の終わり

 「先輩レベルアップおめでとうございます!」


 「ミノタウロスナイトから手に入るステータスポイントすげぇな。一気にLv.4昇格条件の10000ポイント貯まったぜ……」


 「そりゃそうでしょ……自分のレベルより高いモンスターを倒せば手に入るステータスポイントは多くなる。ましてや、貴方が倒したのはSクラス……不思議じゃないわ。」


 シンがLv.3───今はLv.4だが───である証拠を確認し終えた後、三人で換金カウンター前に来ていた。


 森の一部ごとぶっ飛ばして討伐したモンスターの大群から手に入れた結晶と、ミノタウロスナイトから入手した結晶を、今カウンターに提出したところだ。


 しかし、いつものように手早く換金されない。結晶の数々をカウンターの奥の方へ持っていかれたっきり、かれこれ五分は経っている。


 シンと彩葉、そして風花は他愛のない話をしながら待っていた。


 すると、カウンターの職員ともう一人、壮年の男性が一緒に戻ってきた。


 「こちらの探索者様です」


 戻ってきた換金カウンターの職員が、シンの方へ手を向けて、付いて来た壮年の男性に言う。


 すると、その壮年の男性が一歩前に出て、シンの前に立つ。


 「君が、ミノタウロスナイトを討伐したのか?」


 「はい、そうです」


 「一人で倒したのか?」


 「いえ、彩葉と一緒に討伐しました」


 そう言ってシンは彩葉の方へ視線を向ける。すると、彩葉は慌てて首を横に振る。


 「い、いえ! 私はほとんど何もしていません! 後方から援護していただけですからッ!」


 壮年の男性は改めてシンを見据える。すると。


 「本当ですよ、ギルド長。私も目撃しています」


 風花がシンの横に立ち、壮年の男性に言う。


 (へッ!? ギルド長ッ!?)


 それを聞いたシンが目を見開く。彩葉も同じような反応をしている。


 「君は確か……Lv.7【槍使い】緋村風花……だったかな?」


 「はい」


 (こ、このおじさん……ギルド長って、探索者の名前やらレベルやら職業ジョブまで覚えてんのかッ!?)


 「はっはっはっは、いや失敬。別に疑っていたわけではないよ。ただ、自分の目でその探索者を見てみたくてね」


 その壮年の男性───ギルド長は、そう言って笑う。そして。


 「Lv.3……いや、Lv.4【魔法具製作師】市ヶ谷シン。ちょっと、付いて来なさい。」


 そう言ってギルド長は、奥の方へと歩いていく。シンと彩葉もそれに付いて行く。


 風花は、自分の受けた依頼───Bクラス迷宮ダンジョンに第三級Sクラスモンスター『ミノタウロスナイト』が現れたことについての調査の結果を報告するため、シンと彩葉と別れた。


 シンと彩葉は、ギルド長と共に、エレベーターに乗って、上階に上がっていく。着いた先は最上階───迷宮統括協会ギルド長室である。


 その部屋は壁が一面硝子ガラス張りで、迷宮都市ダンジョン・シティを一望できる。そして、部屋の真ん中には大きなテーブルとソファーが置かれていて、最奥には、ギルド長が事務に使うであろう、立派な机と椅子が置かれている。


 「そこに掛けなさい」


 「失礼します」


 「は、はい」


 シンと彩葉、そしてその対面に、ギルド長がソファーに腰掛ける。


 「あ、あの……私まで付いて来ても良かったんでしょうか……?」


 彩葉が恐る恐る尋ねる。すると、ギルド長は笑みを浮かべて答える。


 「勿論だよ、君もミノタウロスナイト討伐に関わる一人だからね。それに、市ヶ谷君の彼女を一人残してはいけないだろう?」


 「「───ッ!?」」


 「おや? 違ったかな?」


 「お、俺達はそんなんじゃないですよッ!?」


 「た、ただの部員同士ですからッ!?」


 しばらくそんな話で盛り上がる三人。シンと彩葉は少し恥ずかしくなって、頬をほんのりと赤らめていた。


 「さて、そろそろ私が君をここに呼んだ理由について話そうか」


 シンと彩葉は少し緊張する。


 「私は、君に期待しているのだよ。【魔法具製作師】という非戦闘系職業であるにも関わらず、前代未聞の偉業を成し遂げた君に」


 ギルド長は、しっかりとシンを見据える。


 「君ならいずれ、我々ギルドが設定している最高レベル───Lv.9までたどり着くだろう。そして、迷宮ダンジョンの謎を解き明かす……そう期待している」


 「迷宮ダンジョンの謎?」


 「そう。迷宮ダンジョンとは何か、なぜ迷宮門ダンジョン・ゲートは現れたのか……謎は多くある。研究はされているが、一向に分からないままだ」


 「それを俺が解明すると?」


 「そうだ。私は、君にはその可能性があると思っているよ」


 「残念ですが……俺にそんな大層なことを成し遂げる目標はありません。俺はただ、行方不明になった親を探したいだけです。だから、期待には沿えないかと」


 「今はそれで良い。だが、私は今確信した。君はいずれたどり着く、迷宮ダンジョンの謎に」


 「……」


 シンはギルド長から、そんな意味深な話をされた後、彩葉と共にこの部屋を後にした。



 「───お帰り、二人とも。」


 一階に戻ってきたシンと彩葉の所に、風花が来る。


 「お前……まだいたのか? 用事は済んだんだろ?」


 「私だって待ちたくて待ってた訳じゃないわよッ! ただ、この人を貴方に紹介しろってギルド長が……」


 (は? ギルド長?)


 そう言って風花が指をした。そこには、綿毛のように柔らかなクリーム色の長髪を、耳の後ろあたりでゆるく二つにくくっている、髪と同色の瞳が特徴的な少女がいた。清楚で柔和な気質が匂い立ち、楚々と整った顔立ちをしている。


 その少女が風花の隣まで来て、シンにペコリと頭を下げる。


 「私は迷宮統括協会ギルド所属のアドバイザー、むかえ柚葉ゆずはと言います。この度、市ヶ谷さんの担当をさせていただくこととなりました。よろしくお願いします」


 「アドバイザー? 確かそれって、Lv.6以上の一部の探索者につくものじゃなかったっけ?」


 「はい。ですが、今回はギルド長直々の指名ですので、その限りではありません」


 (おいおいギルド長……期待が重いぞッ!? 俺は断っただろうがッ!?)


 シンは心の中でギルド長にうったえ掛けながら、苦笑していた。


 「ま、まぁ、よろしくな?」


 「こちらこそ、お願いします」



 ─────その後、どういう情報網があるのか知らないが、シンの装備の損傷具合を知っていた柚葉が、オススメの装備店を紹介してくれた。ただ、柚葉はまだ仕事があるとかで、一緒には行けないらしい。


 用事が済んだ風花は、迷宮統括協会ギルド前でシンと彩葉と別れ、帰っていった。



 ─────くだんの装備店。


 街の中心部から少し外れた所に、柚葉が勧めてくれた装備店がある。シンと彩葉は、あの後結晶の換金で受け取った百五十万円と共に───勿論現金で持ち歩いたりはせず、それぞれ口座に入れてある───やって来ていた。


 「でも先輩、本当に私と先輩の取り分が半々で良いんですか?」


 「勿論だ。彩葉がいなかったら勝てなかったからな。遠慮なんかしないでくれ」


 そんなことを話しながら、二人はその店に入っていった。


 「いらっしゃい」


 「すみません、装備の修繕をお願いしたいんですが」


 シンと彩葉は、カウンターにいるかなり強面こわもての作業着姿の男性にそう言って装備を差し出す。


 しばらくその男性は、二人の装備の損傷具合などを確認した。それが終わると、見た目にそぐわず、とても丁寧な手付きで装備を畳み、受け取った。


 シンと彩葉は、修繕料である十万円を支払った。そして。


 「後もう一つ、コレで武器をつくって欲しいんですが」


 そう言ってシンは、ミノタウロスナイトからドロップした、大きく太い立派な角を取り出す。


 初めこの角は、シンが彩葉にゆずるつもりだったのだが、彩葉は換金した金の取り分を半々にしてもらっただけで満足だと言って、断ったのだ。


 「こ、コイツは……ッ!?」


 「ミノタウロスナイトの角です」


 「あ、あんたレベルはいくつだ?」


 「Lv.4です。あ、討伐したときはLv.3でしたけど」


 少しどや顔を浮かべるシン。


 「す、すげぇな……分かった、良い素材だ。飛び切りの得物を作ってやる。で、何が良い?」


 「そうですね……じゃあ───」



 店を後にしたシンと彩葉。空は完全に暗くなり、等間隔に設置された街灯が、夜道を明るく照らしている。


 しばらくして、いつものように彩葉の家の前まで来る。


 「では先輩、また明日」


 「おう、また明日な」


 そうして二人の、モンスターの大群に遭遇してからの慌ただしい一日が、ようやく終わったのだった。



 (貯まった10000スキルポイント、Lv.4昇格報酬の400スキルポイントを使った後のステータス)


 市ヶ谷シン

 【魔法具製作師】 Lv.4


 HP :6000 (↑4800)

 MP :2750 (↑2000)

 STR:2752 (↑2000)

 INT:100

 VIT:1100(↑950)

 MND:750 (↑650)

 AGI:2500 (↑2000)


 《スキル》

 ・魔法具製作

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