Episode.7 戦闘系の魔法具製作師
─────そこは、一言で言って美しかった。
「こんな
シンが
シンの隣に立つ琴川も、長杖の束をギュッと握り締め、その淡い栗色の瞳を
そんな
(こんな景色に合うモンスター……まぁ、
そんなことを考えていたシンの前に、一体のモンスターが見えた。派手な模様が描かれた大きく薄い羽、頭から伸びた長い二本の触覚。
─────そう、蝶だ。
しかし、モンスターであるだけあって、その大きさは一般の蝶と比較にならなかった。胴の部分が大体人間サイズで、羽を広げれば、両手いっぱいに広げた大人より圧倒的に大きい。
「─────市ヶ谷先輩ッ!?」
「ああ、分かってる」
その大きな身体を満足させられるほどの花の蜜を集めるのに、どれだけの時間が掛かるんだろうと、少し気になっているシンだが、琴川の方へ振り返ると。
「そうだな、取り敢えず君の魔法を見てみたいな。あのモンスターはこっちに気が付いていないみたいだし……どう?」
「わ、分かりました」
そう答えた琴川は、シンの前に出る。そして、その手に持った長杖を掲げて目を閉じる。すると、琴川の目前に、赤い光の力線で何かが描かれていく。
ほんの数秒後、完成したそれは一つの魔法陣。琴川の魔力が脈動し、その魔法陣に注ぎ込まれる。そして─────
「いきますッ! フランマ・サジータッ!」
ボッと燃え上がる赤い炎が一本の矢を形成し、放たれる。赤い直線の軌跡を描きながら、少し先で羽を休めている蝶型モンスターに迫る。
その時間は一瞬。
赤い炎の矢が巨大な蝶を貫いた。
─────
魔法行使には詠唱などは要らず、必要なのは、行使したい魔法に必要なMP(魔力量)だ。また、魔法行使の際に必要な魔法陣を描く時間は、その者個人の力量によって変わってくる─────
(魔法陣の展開速度も悪くない。狙いも正確だな……)
「ふぅ……」
ホッと息を吐く琴川。
「お疲れさん。頼れる部長で助かったよ。俺は楽できそうだな」
「あはははは……ありがとうございます。」
「じゃ、次は俺の番だな」
シンはそう言って、指をポキポキと鳴らし、琴川の前に出る。
ヒラヒラと舞いながら、先程と同じ蝶型モンスターが二匹飛んでくる。もしかすると、このモンスターのエサは花の蜜ではなく、人だったりするのか、シンの方に目掛けて飛んでくる。
「い、市ヶ谷先輩! 二匹もいます! 一旦逃げ───」
そんな琴川の言葉を遮るかのように、シンが地面を蹴った。咲いている花が散り、宙に舞う。
【
シンの右拳の甲に、赤い魔法陣が浮かび上がり高速回転。ボッと赤い炎が灯り、拳を包み込む。
「ふッ!!」
【リビレラリータ】の
今度は左拳の甲に緑色の魔法陣が浮かび上がる。そして、風がその拳に
「はぁッ!!」
シンの左ストレートがモンスターの胴に入る。すると、纏っていた風が螺旋軌道をし、モンスターの身体に風穴を開ける。
地に落ちる蝶。瞬く間に黒い塵と化し四散した。
「こ、これが……【魔法具製作師】……ッ!?」
琴川はその瞳を目一杯開き、驚愕していた。シンはモンスターから落ちた黄色い結晶を広い、戻ってきた。
「言っただろ? 俺はただの【魔法具製作師】じゃない。戦闘系の魔法具製作師だ。で、どうだろう、前衛は任せられそうか?」
琴川は長杖の柄をギュッと握り、シンを見る。そして。
「はいッ! もちろんです! これからよろしくお願いします!」
「ああ、こちらこそよろしく。部長」
「ぶ、部長は止めてくださいよ……市ヶ谷先輩」
「そうか? じゃあ何て呼べば良い?」
「い、
「いきなり下の名前はちょっと抵抗がッ……」
シンはあまり友人が多い方ではなく、ましてや女子の友達など一人もいないのだ。そのためか、指で頬を
「無難に名字にしよう! ああ、それが良い! よ、よろしくな琴川!?」
「そうですか……では、私は何て呼べば良いですか?」
琴川は少し残念そうに肩を落とし、尋ねる。
「そうだな……いつも少し呼びづらそうだもんな。これも普通に先輩とかで良いんじゃ……あれ? でも部活では琴川が先輩か? う~ん……」
シンは
「わ、分かりました。では改めまして……これからよろしくお願いしますね、先輩……」
「あ、ああ……よろしく、琴川……」
二人ともどこか恥ずかしそうに言うのだった─────
─────
シンと琴川は、あの後もしばらく探索を続け、手に入れた結晶を換金しに
「さ、三万円……」
換金し、手に入れた三万円を眺めながら、シンが目を輝かせている。
(やっぱソロで潜るより、効率が良いな……)
「えっと……一万円は部の貯金として残しておきたいんですが、残りのお金は私達で貰っちゃいましょう」
琴川がにっこりと笑みを浮かべてシンに言う。
「マジでッ!? 部の活動なのに、貰って良いのッ!?」
「はい!」
シンは心の中でガッツポーズをし、琴川から一万円を受け取った。
「では、今日はここで解散でしょうか」
「外も暗いし、家まで送っていくぞ?」
「え、先輩が?」
「ああ」
「あ、ありがとうございます……」
琴川は少し頬を赤く染め、長い小麦色の髪の毛を指でくるくると巻く。シンはそんなことには気付かずに、そのまま二人で
しばらくして、シンと琴川は、窓から暖かな明かりが
「送ってくれてありがとうございました、先輩」
「じゃ、また明日な」
そう言ってシンは、自分の家に向かって足を進めた。
(家族か……いいな……)
─────二人はその後も
市ヶ谷シン
【魔法具製作師】 Lv.3
HP :1200
MP :750 (↑500)
STR:752 (↑500)
INT:100
VIT:150
MND:100
AGI:500 (↑300)
《スキル》
・魔法具製作
シンは、モンスターから手に入れたステータスポイントが1000ポイントとなり、Lv.3昇格の基準を満たし、レベルアップ報酬の300ステータスポイントも使い、ステータスを上げた。
琴川彩葉
【魔法師】 Lv.2
HP :1200
MP :300
STR:100
INT:202
VIT:100
MND:100
AGI:100
《アビリティ》
・魔道(消費MPマイナス10%)
《魔法》
①フランマ・サジータ(炎の矢を放つ 消費MP10)
②ルクス・サジータ(光の矢を放つ 消費MP10)
「と言うか先輩、もっと防御系のステータスも上げたらどうですか? 今の先輩ほぼ紙ですよ?」
放課後、いつものように
「いやぁ、避ければ良いかなって」
「あと、何で先輩はそんなに早くレベルアップしてるんですか!? 入部した頃は同じだったじゃないですか!?」
「いやぁ、俺は生活費も稼がなきゃいけないからな。休日とかもソロで潜ってんだよ。Bクラスに」
頬をプーッと膨らませていた琴川が、シンの言葉に目を見開き、立ち止まる。
「び、Bクラスッ!? 先輩、ソロでBクラス
「Lv.4以上が推奨されてるだけだろ? 大丈夫だって、ちゃんと安全確保しながらやってるし」
「そういうことじゃありませんッ!」
そんなやり取りをしていると─────
「おやおや? そこにいるのはシンじゃないか?」
階段の下から、相変わらず二人の取り巻きを連れた晃太がシンに声をかけてくる。
(ああ……めんどくさいのが来た……)
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