Episode.2 初探索
Cクラス
シンは
(無理はしないようにしないとな……。死んだら全てお仕舞いだからな)
シンは、初探索に昂る気持ちを抑えるため、深く息を吸って吐いた。
「よしッ!」
そう言って、
「これが……
辺りに広がる広大な草原。そこは、なだらかな
───
シンは、探索者の目的である
少しすると、目前十メートル程先の小高い丘陵の
(モンスターだ……)
シンは、若干身を低くし、腰の後ろに装備してあるナイフの
(イビルボアか)
新人探索者がレベリングのためによく狩るモンスターだ。ゲームなどでも初盤に出てくる系のいわゆる雑魚モンスターだ。
シンはナイフの柄を固く握り、鞘から抜く。銀色の刃が鋭く光る。野生の勘と言うものだろうか。殺気を感じ取ったイビルボアが、鼻を鳴らしながらシンの方へ振り向く。
シンの初めてのモンスター狩りの開始を告げる、イビルボアの
シンはイビルボアの突進の軌道をよく見て、左飛びで交わす。イビルボアはそのまま真っ直ぐに駆け抜け、やがてUターンし、再び突進してくる。シンも再び横っ飛びで交わそうとするが、脇腹を
HP:950/1000
(くッ! 意外と削られるんだなッ!?)
シンは、エーテル体になったときから、脳裏に無意識のうちに浮かぶHPゲージの減りを感じ取る。
「はぁああああッ!」
二回の突進の後、動きを止めたイビルボアに、今度はシンが向かっていく。右手でナイフを逆手に持ち、イビルボア目掛けて駆ける。駆け抜け様に、イビルボアの右横腹に斬り込みを入れる。イビルボアはその痛みから鳴き声を上げる。興奮したイビルボアの目には、鋭く赤い光が
─────十分後。
HP:750/1000
シンはイビルボアに最後の斬り込みを入れる。すると、断末魔の叫びを上げたイビルボアは、そのまま倒れ付し、黒い塵となって四散した。跡には、小さな薄茶色の結晶が落ちていた。
シンはナイフを鞘に納め、その結晶を拾い上げると、腰に装備してある小さなポーチに入れる。そして、その場に座り込む。
「ふぅ……」
(いくら初心者と言っても、イビルボア相手に十分も掛かった……。攻撃も五回は喰らった……。やっぱり───)
─────非戦闘系職業ではこんなものなのか。
と、シンは思った。目を閉じ、沸き上がってくるのは、初のモンスター狩り成功の喜びではなく、雑魚モンスター相手にこの残念な戦いっぷりを披露してしまった無念さ。入り混じる複雑な気持ちを、胸に仕舞い込んだ。
「─────初討伐、おめでとうございます!」
あの後、他のモンスターを狩ることなく
探索者登録をしたときとはまた違う受付職員が、シンのモンスター初討伐を祝っている。
「初討伐を成功させるとLv.1にレベルアップします。それに
シンは受付職員に言われた通り、受付カウンターの右手の方にいくつかある、ステータス更新機の前に来た。タッチパネル式の液晶画面と、その下に探索者バッジを
『スキャン開始。該当探索者検索中─────』
ステータス更新機から発せられる自動音声を聞きながら、シンは数秒待つ。すると。
『市ヶ谷シン探索者。初討伐成功によるレベル更新と、それに伴うステータスポイント付与が行われます』
その自動音声と共に、タッチパネル式の液晶画面にシンの今のステータスが表示される。そして、画面の上の方に『ステータスポイント102』と表示されている。100はレベルアップによる付与ポイント。2はシンがイビルボアを討伐したことによって入手したポイントである。
シンは少しの間頭を捻って考えると、右手の人差し指で、液晶画面に写し出される自分のステータスのSTR(力)の部分をタップする。すると、何ポイント加えるかが表示され、シンはそこに52ポイントを加えた。次も同じようにして、AGI(敏捷)に残りの50ポイントを加えた。
市ヶ谷シン
【魔法具製作師】 Lv.1
HP :1000
MP :250
STR:152 (↑52)
INT:100
VIT:100
MND:100
AGI:150 (↑50)
《スキル》
・魔法具製作
『更新完了─────』
自動音声がそう言って、液晶画面が暗くなる。シンは嵌め込んだ探索者バッジを取り、バッグの内ポケットに入れる。その後シンは、換金カウンターで、イビルボアから落ちた薄茶色の結晶を、500円で買い取ってもらった。
(そういえば、八時からバイトだな……帰ろ)
シンは、沈み行く初夏の日差しを浴びながら、とぼとぼと家に帰った─────
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