非戦闘系職業の成り上がり ~生産職【魔法具製作師】の俺が、革新的な自作魔法具使って力を底上げ。そのまま最強目指して探索、無双する!

水瓶シロン

Episode.1 探索者登録

 「探索者登録をお願いします」


 ここは迷宮統括協会ギルド本部。この街───迷宮都市ダンジョン・シティの中央に位置する、圧倒的な存在感を放ち、街の象徴としての役割もになっている、一面硝子ガラス張りの近未来的超高層ビル。


 少し長めの黒髪を襟足くらいで一つくくりにし、小さな尻尾を作っている少年が、登録料である五十万円を出し、大きなカウンターの前で受付の職員にそう言った。職員は「かしこまりました」と一言言って、一枚の書類と黒いボールペンをカウンターの上に出す。


 「こちらにお名前とご住所、年齢、生年月日をご記入ください」


 少年は言われるまま、ボールペンを右手に取り書類に記入し始めた。


 ─────市ヶ谷いちがやシン 十五歳


 シンは書き終えると、カチリとボールペンの芯を仕舞い、書類を受付職員の方へ向くようにして差し出す。


 「それでは、次に職業ジョブ診断に移ります。お手数ですが、こちらの解析機に登録者様の血液を一滴、お願い致します」


 そう言って受付職員は、ビニール製の小袋に入った、一本の専用の細い針をシンに渡す。シンは少しばかり顔をしかめたが、袋から針を取り出し、左手人差し指に刺す。ピリッという痛みと共に、針を刺した跡から、一滴の赤いしずくが膨らんで出てくる。


 カウンターの脇に置かれた解析機の皿状の小さな台に血液の雫を落とす。針と一緒に小袋の中に入っていた絆創膏を指に巻いている間に、解析機から伸びたコードと繋がっている液晶画面を、受付職員が見ている。


 ピコン、という解析完了を知らせる音と共に液晶画面に解析結果が写し出される。そこには、シンの職業ジョブ、ステータス全般が出ている。職員はそれを見ながら、先程シンに書いて貰った書類の下の欄を埋めていく。


 「診断結果がこちらになります」


 そう言って受付職員は、改めて書類をシンに見せてくる。


 (今日この日のために、長い間バイトして、探索者用の装備を揃えられる金を貯めたんだ。出来れば前衛職が良い! そう!【剣士】だ! 剣士来い剣士来い剣士来い剣士来いッ!!)


 思い起こされるバイト生活。昔から両親に憧れて探索者になりたかったシン。そのためにはあらゆる努力を惜しまなかった。


 大きな期待と夢を胸に、シンは差し出された書類を見る。すると─────


 市ヶ谷シン

 【魔法具製作師】 Lv.0


 HP :1000

 MP :250

 STR:100

 INT:100

 VIT:100

 MND:100

 AGI:100


 《スキル》

 ・魔法具製作



 「登録者様の職業ジョブは【魔法具製作師】ですね。名前の通り生産職です。ステータスは一般的な初期ステータスの100、HP1000ですが、MPは凄いですね! 初期でこれだけ高い人はなかなか居ませんよ? これで職業ジョブが【魔法師】などでしたら大活躍──」


 シンは途中から受付職員の話が耳に入ってこなくなった。期待を胸に膨らませて、さあこれから探索者としてやっていくぞという思いをせ、今後のことも色々と計画していたのにも関わらず………。


 (魔法具製作師……? おいおい、非戦闘系職業じゃねぇか……)


 期待していた【剣士】でも、ましてや前衛職でもなかった。完全な非戦闘職。迷宮ダンジョンに潜るのはレベリングのときくらい。それも、一人では何も出来ない。


 期待通り、思い通りにはいかないというのはよくある話だ。しかし、だからと言ってすぐに受け入れられるというものでもない。


 シンは砕けた夢と迷宮統括協会ギルド公認探索者のバッジを胸に、とぼとぼと帰路に着いた。



 ─────次の日。


 「なぁ、市ヶ谷。お前、探索者登録したんだって? 職業ジョブは何だったんだよ?」


 ここは第七高等学校。割と最近建てられた学校で、この街唯一の中高一貫校である。そしてこれは、西校舎一階、高等部一年一組の教室の、ある一風景である。


 窓際の席に座っていたシンの所に、三人組の男子が寄ってくる。その真ん中に立つ、いかにもお坊っちゃまという風格の男子がシンに声を掛ける。


 (俺、コイツ苦手なんだよなぁ……)


 シンは内心鬱陶うっとうしく思ったが、それを表情に出すことなく答える。


 「魔法具製作師だったよ……」


 「魔法具製作師ぃ~? あっはははははは!!」


 お坊っちゃま男子は抑えることなく、高らかに嘲笑した。目尻からは涙がにじみ出ている。


 このお坊っちゃま男子───岩倉いわくら晃太こうたは、中等部三年のときからシンと同じクラスで、何かとシンに絡んでくるのだ。


 「お前ら、聞いたかよ? 魔法具製作師だってさッ! 生産職中の生産職じゃないかッ!!」


 両隣に並んで立つ二人に、晃太が話を振る。二人は呼応するかのように嘲笑した。


 「で? これからどうするんだよ。まだ行方不明になった親を探しに、迷宮ダンジョンもぐるとか言うんじゃないだろうな?」


 「まあ、ぼちぼちやっていくさ」


 「ま、精々死なないように頑張れよぉ~? ぷっ……はははははッ!」


 そう言って、晃太とその連れ二人は、授業開始のチャイムと共に、自分達の席に戻っていった。


 (はぁ……何も言い返せない自分が情けない……。実際俺は生産職。これからどうしていったもんか……)


 シンはため息をつき、憂鬱ゆううつな気分のまま、授業の教科書とノートを取り出した。



 ─────放課後。


 「取り敢えず、装備を買いにいくか……」


 シンは、バイトで貯めた金を手に、必要最低限の装備を整えるため、帰路の途中にある店に立ち寄った。


 (買うものはもう決めてある。ナイフ、レザーアーマー、レザーブーツ、ポーション類……)


 シンはそれらを店員に注文し、取ってきて貰う。たったこれだけの装備を買っただけで、長い間汗水垂らして稼いだ金が消し飛んだ。


 シンは買った装備を、探索者バッジの特殊空間へ仕舞い込む。こうすることで、所有者であるシンの声掛け一つで、その身に一瞬で装着出来るという便利アイテムである。


 そして、バッジの力でその身体はエーテル体となり、戦闘中に負傷しても、装備を解除すればもとの身体は無傷のままだ。また、探索者としてのステータスの反映は、身体がエーテル体のときのみである。


 シンは早速迷宮ダンジョンに潜ろうと、迷宮門ダンジョン・ゲートが開いている場所まで、駆けていった。


 (非戦闘系職業とはいえ、始めての迷宮ダンジョンだ。ワクワクするな……)


 迷宮門ダンジョン・ゲートは、それぞれ難易度ごとにクラス付けされている。下からC、B、A、Sクラスとあり、中でもSクラスは、第三、第二、第一級の三つに分けられる。


 また、それぞれに探索者の適応水準レベルが迷宮統括協会ギルドによって設定されており、今シンが向かっているCクラスゲートはソロならLv.2から、三人以上のパーティーならLv.0からとなっている。


 ただ、これは強制ではなく、水準レベルに達していなくても、本人の意思さえあればゲートに入ることが出来る。


 シンは目的のCクラスゲートの前まで来た。そこには多くの探索者がゲートへ入っていく姿がある。ゲートは文字通り───それ以上の姿で、Cクラスであるこのゲートでさえ、高さは十メートル近くある。


 シンは、水準レベルを承知の上でソロで───それも非戦闘系職業である【魔法具製作師】の身でゲートへと足を踏み入れる。第七高等学校指定のバッグの内ポケットから探索者バッチを取り出し、その手に握る。そして、探索者バッジの起動コマンドを口にする。


 「探索者能力サーチャーアビリティ起動──ッ!」

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