黒き鬼
北大路 美葉
黒き鬼
未明より暁へと変はる境ひ目を跨ぎ越し、ある黒き鬼、山を下りて里へとさ迷ひ来れり。
鬼は腹を減らし、足取りは鈍く、白目は血走り、その肌色は殊更に黒ずみ、益々醜き顔貌を為せり。然れど担ぎし金棒を決して手放さず、肩に喰ひ込みたるままに持てり。
里の人々、その奇異なる姿を恐れ、家より出でず
畑にか細き大根やら芋やらの
寺には誰も住まず、手入れも為されず、向拝柱の傾きたるは
黒き鬼、山門をくぐり寺庭に伸び放題の
黒き鬼、己の背丈よりも僅かに高き鐘楼の横に立ち、己の背丈よりも僅かに短き金砕棒を肩より下ろして一振りしたる。両の
金棒を両手に握り締め、鬼、力任せに梵鐘を打てり。鐘の音は割れることなく、
鬼、其の音を聴き、固く瞼を閉じつつ、目より涙を流しけり。口より食み出したる己の牙を恥じ、続け様に何度も鐘を打つなり。
黒き鬼の打ち鳴らしたる鐘の音は里に、山々に、その向こうの海に、遠く遠く迄響き、
人々、鬼の打つ鐘とは知らず、目を閉じ働く手を止めて合掌し、其の音に己が心を
黒き鬼 北大路 美葉 @s_bergman
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