ウォーミングアップ

 何かスポーツなどをした後はクールダウン。する前はウォーミングアップ。きちんと対義語が対応していてすっきりする。高校を卒業してから五キロ、三十分くらいのジョギングをするのが日課になった。一日の終わり、日が暮れかけたころが暑くないしピッタリだ。そのあとお風呂に入って家族と一緒に晩ご飯を食べる。

 どちらかと言えば自分は形から入るタイプだからGPS付きの高性能な腕時計をジョギング用に買った。元々ウェアになるようなアクリルとかポリエステルとかの服は持っていたし、運動靴も持っていたので何か買おうとするなら腕時計だった。さすがに普段付けている金属のベルトの重い時計をジョギングのときも付けるのは、使いづらいし壊したりするかもしれないし、汗で汚れるだろうから嫌だった。

 この時計はGPS機能が付いているからどこを走っても距離が測定されるしデータを送信すればスマホやパソコンで走ったルートも見れる。でも、その代わりにGPSの起動待ちをする必要がある。測定開始のボタンを押してから数分したらGPSがオンになってタイムがカウントされる。だからこの間は僕もウォーミングアップ。家の前の通りを軽いテンポで何往復かする。

 少し大通りから奥に入った住宅街。お隣さんに足音が響かないように気をつけながらうろうろする。ああ、今日はどこを走ろうかな。昨日は大学の方面に行ってみたから今日は逆方向にしようか。んー、でもあのへん何があったっけ。市民図書館とその横に公園があるか。もう桜も散ったころだろうなあ。この通りの桜も散ってるから。

 桜ってさ何なんだろうね。花見って言われるように昔から日本人には花の代表格として捉えられてるみたいだし。花と言えば桜みたいな。それに花の咲いていない桜を意識したことがあるか、みたいな文句も有名。咲く前は開花予想とか桜前線とかいってみんなで盛り上がる。二分咲き、五分咲き、満開って咲き具合を追って楽しむ。そこから散っていくさまを愛で最後には葉桜と評して慈しむ。それに夜に見に行くと夜桜と名前を変え人々に別の興趣を与えてくれる。

 んー、色々考えてるけどなんか今日、時間かかり過ぎじゃない? いつもだったらもうGPSオンになる頃じゃない? そう思って時計を見ると画面が変わっていなかった。あちゃ、押し方が弱かったか。今度こそと思いながらしっかりとボタンを押す。今度こそ本当に画面が切り替わったことを確認する。そういえばさっき図書館と思ったけれどあの方面には大きな山もある。今は暗くなりかけだからよく見えないけど。あそこにあるなんとか神社がなんか有名なんじゃなかったけ。お父さんがあの神社の話を何かしていた気がする。


ピピピ ピピピ


 あっ、鳴った。やっぱりこれくらいの時間で準備できるよね。じゃ、スタート!

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ほぼ毎日短編 頭野 融 @toru-kashirano

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