自分は今かわいい

 今日は初めて自分でメイクをした。高校ではメイクをしてる人もいたけど私の周りじゃ少数派で、友達と遊びに行くなんて機会も無かったから別にしなくていいかって思ってた。だけど大学に入ったら女子はみんなメイクしてて仲良くなった子にメイクしてないって言ったら、えー勿体ない絶対メイクしたらもっとかわいくなるよなんて言われて乗せられ始めたんだ。人生の夏休みでフットワークの軽い大学生らしくその日の授業が終わったらその子の家に招待されてメイクをされた。人生で初めてのメイクだった。親がやっているところを見たこととかはあったんだけど、親は教えてくれなかったし私が何か尋ねることもなかった。だから私のメイクはほぼ友達のやり方の通りになっている。

 それで友達に何回か教えてもらった後の本番が今日というわけだ。メイクを教えてもらった友達と行く予定だったんだけどバイトのヘルプに急遽入らないといけなくなったとかでお流れになった。だけどもうメイクは終わってたし買い物に行く用事はもともとあったから、目的地を近場のショッピングモールに変えて出かけることにした。バスも出てるんだけど待ち合わせをしてないから時間を気にする必要もない。三十分もかからないし歩こうかな。

 土曜ということもあって人通りは多い。いつもなら憂鬱なその往来も今日はそこまで私の気分をめげさせない。それはメイクをしたからかもしれない。たくさんの人とすれ違って見られてたとしても、いつもよりはマシな顔をしていると思うことができてるからかもしれない。

 一階からお目当ての四階まで行く。エスカレーターで上がっていくとエスカレーターの横の壁が鏡になっていた。おそらく店内を広く見せるためだろう。きっちり手入れされてて大きい鏡がいつもは苦手だったけど、今日はそこに映る自分の顔が嫌じゃない。アイライン上手に引けたななんてのんきなことを思ってる。

 そんなことを思っていると四階に辿り着いた。ここに来たのは洋服を見に。店員さんが結構話しかけてくるタイプだから少し苦手だった。でも置いてある服は好みだから今日は勇気を出してやってきたというわけ。実際店員さんに声を掛けられたけどちゃんと受け答えできたと思う。

 お店を出たらいい時間だったからそのまま七階まで上がってカフェに入った。そこでガレットを頼んで待ってる間ぼおっと考え事をする。ファンデーションとか眉マスカラとかアイラインとかラメとかなんだとかそういうのを顔に塗るっていうかなんていうかするだけでこんなにも違うんだなって。中の私という人間自体は変わっていないのに意識が変わったというかね。自分は今かわいいんだって思えることって重要なんだなあ。にこやかにガレットを持ってきてくれた店員さんにごゆっくりどうぞと言われたから、穏やかにありがとうございますと答えた。

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