電子メールロマンス
これはスマートフォンが普及する前のある大学生の話。
◆◆◆
僕は若槻さんが好きだ。田口の知り合いらしいけど僕は直接の関わりがない。田口と若槻さんは同じ学科だけど僕は違う学科。学部で同じ講義のときがあってそのとき僕は一目惚れした。田口と一緒に歩いてるときとかにじーっと若槻さんの方を見ているとある日お前若槻さんのこと気になるの? と訊かれた。一目惚れから一週間くらい経ったときだったからよほど分かりやすかったのだろう。
それから田口に一目惚れしてしまったと打ち明けて色々と相談に乗ってもらった。とりあえずの最終目標は付き合うことだけどまずは知り合いにならないといけない。そこから友達、恋人と発展させれればいい。だからどうやって知り合いになるか。もちろん田口に紹介してもらえば早いんだけど、なんだかそれは短絡的すぎるし田口にも申し訳ない気がした。それに若槻さんと上手くいかなかったら僕と田口の仲や、田口と若槻さんの仲まで崩壊してしまう可能性もある。それは防ぎたいから別の方法を考えようと思った。
そんなことを考えていたら思いがけないチャンスが先月やってきた。四、五人のグループに分かれて発表をするということを前期の残り半分でやると教授が言いだしたのだ。しかも完全にグループは完全に学生番号順。そして僕は若槻さんと一緒のグループになれた。このときほど自分の名字が脇園でよかったと思った日はない。授業のときもグループごとに固まって座るから僕はすごい幸せだった。しかも間近で見れるだけじゃなく会話することもできる。グループの発表の準備が課題扱いだったから四人グループの僕たちは連絡先を交換することにした。進捗を報告したり資料とか画像をパソコンで共有するのに必要だから。
という経緯で若槻さんとはしゃべる仲になったしメアドも教えてもらえた。すぐにでもメールを送ってみたかったけどそれはただの不審なヤバい奴だから自重した。それよりもグループの中で頼りになるやつという印象が大事だと思って、僕はかなりこの発表と準備に力を入れた。結果的には同じグループの他の男女に褒められたけど。この二人は元から付き合っていたみたいでそこ二人で会話していることが多かった。そういうわけで自然に僕は若槻さんとしゃべることが多くなっていた。僕としてはラッキーだった。
作業が進むにつれメールを送る機会も増えた。僕が授業の前に下調べしてメールで共有するというパターンが定着しつつあった。若槻さん宛てのメールの最後の方には世間話みたいなことを書き添えたりもした。授業のときにその話の続きをしたり。若槻さんから返信が来ることは無かったけど授業のときに話せたから別に気にしてなかった。おそらく僕の好意は若槻さんに程度はどうあれ伝わってたんだと思う。
そろそろ発表本番というころ、イライラしながら迷惑メールのフォルダに振り分けられたメールに片っ端から削除していたら、その中に若槻さんからのメールが紛れていた。最初は気づかなかったけど、開いてみたら若槻と書いてあって僕はびっくりした。そのあとうれしいという感情が押し寄せてきた。メールの本文は短かった。
◆◆◆
脇園くんへ
人類文化概論の発表グループで一緒の若槻です。いつも準備を積極的にしてくれたり、メールで教えてくれたりしてありがとうございます。発表本番まであと少し、がんばっていきましょう。よろしくお願いします。
p.s.
あなたの気持ちは迷惑メールみたいなものです。
若槻
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