私の彼氏、独り占め
私には視える。いや別に霊とかそういう系が見えるとかじゃないよ。だからといって薬物をやっていて幻覚が見えるとかでもない。大丈夫。剣を持った小人とか見えないから。じゃあ何が視えるのかって。え? 見えない? 暗いけど街灯あるし見えるでしょ、前にいるじゃん。私が歩くの遅いから今はちょっと置いてかれてるけど。
背はそんなに高くない。本人は 170 ないのが嫌らしいけど私は気にしてない。前そう言ったらじゃあいっかって恥ずかしそうに片岡くんは言ってた。ていうか片岡くんはやせ型だから実際はもっと背が高く見える。だから問題ないよ。そういえばやせててカッコいいって言ったら最近はスキニーなズボンをよく履いてくるようになったね。
付き合って三か月経つけどまだヒロくんとは呼ばせてくれない。なんでって訊いたら恥ずかしいかららしい。それでも私のことは志穂って呼び捨てにしてくる。私は恥ずかしくないし大歓迎だからこれでいいんだけどね。できたら私も片岡くんのことヒロくんって呼びたいかな。
「ヒロくん!」
頭の中で名前を何回も唱えているとなんだか急に呼びたくなって怒られるかもしれないけど呼んでみた。片岡くんは私の声を聞いてパッと振り返ってくれたけど、私が自分の方に駆け寄ってきてるとは思わなかったみたいで私の顔を見て驚いていた。振り返ったときはその呼び方やめろとか言おうとしたのかもしれないけど、私が笑ったら何も言わずに頭を撫でてくれた。
頭を撫でられるのが嫌って言う子も友達にはいるけど私は撫でてもらうのが好き。だって安心するし気持ちいいしそれに撫でてるときの片岡くんの顔がとってもかわいい。いつもはカッコいいって感じなんだけどこのときの顔はほんとにかわいい甘えてるみたいな顔をする。甘えてるのは私の方なのに。まあ片岡くんが幸せならなんでもいっか。
片岡くんは私を撫でた右手で今度は私の左手を握ってきた。なんだけど数秒後に急に離された。えっと思って私が見上げると片岡くんはごめんごめんと言いながら私の右側に回った。車道側だったから。そう言ってまた片岡くんは歩き出した。こういう細かい気遣いが私はうれしい。こんなの今どき流行らないのかもしれないけど、なんかこう片岡くんが私のこと考えてくれてて守ってあげるみたいな感じがしてうれしい。もちろん片岡くんのことは私が守るんだけど。あ、家の前まで来た。片岡くんの家はここからもう少し歩いたところだからいつもここでお別れ。また明日ねって手を振る。
「ただいまあ」玄関先で待っていたお母さんに言う。
「おかえりなさい。もう暗いのに一人じゃ危ないわよ。連絡くれれば迎えに行ったのに」
「大丈夫だよ片岡くんといっしょに――いや、何もない。今日の晩ご飯なに?」
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