トイレついてきて

 ん。もしかして駿が起きたかな。首を右に傾けると眠そうに駿が目を開けている。あ、これは起きたやつだ。スマホを見ると深夜三時過ぎ。このまま起きるにはまだ早いなあ。


ママ、ママ。

どうしたの駿

おしっこ。

うん、行っておいで。待っとくから。

いやだ。

え?

こわい。


 あ、そういうことか。せっかく一人でトイレにいけるようになったと思ったのに。まあ確かに暗くて怖いかも。電気つけれても怖いか。


じゃあママもいっしょに行くね。

うん、ありがと。


 もぞもぞと体を起こして駿が布団から出ていく。私もパパを起こさないようにそうっと起き上がる。部屋の空気は少し冷たい。布団の中に比べれば当たり前だけど。立ち上がって廊下の電気をつける。パパがぐっすり寝ているのでこの部屋の電気をつけるのはかわいそう。私がついてくるということで安心したのか明かりのついた廊下を意外にも駿はすたすたと歩いていく。その後ろを私もついていく。なぜか得意げにトイレのドアを開けた駿は、じゃあここで待っててと私に言った。その顔が何か言って欲しそうだったので一人でおトイレできるんだねすごいねと言うと、でしょと笑っている。怖いというのは口実で、もはやこれを言ってもらうために私を起こしたのではないかというくらいうれしそうだ。そんな我が子がかわいい。まあ眠いなか起こされたのには少しイラっと来たけれど。ここで待っててねともう一回釘を刺して駿はドアを閉めた。怖いのはほんとみたいだ。


寒い。


寒い。


いすに掛けてあるカーディガンでも羽織ろうか。


そういえばこれ秋物だから春物のカーディガンを出そうかな。桜色のやつ。


あれどこにしまったんだっけ。


たしかタンスの下から二段目の右の方だったかな。


……


……


あのさ駿、遅くない? なんかさ水の音もしないし。どれくらい時間が経っただろう。よく分かんないけど。


トントン 駿~ 駿~


……


トントン 駿~ 駿~


ついつい声が大きくなる。パパが起きちゃうかも。


トントン 駿! 駿!


……


ガチャ


……


しゅ ん?


 誰もいない。ただそこには便座があるだけ。薄い水色のカバーがかかった。え? さっき駿、トイレに入ったよね。いや違うか。洗面所に入ったんだよね。うん、そうそう。でも洗面所を覗いてもいない。じゃ、じゃあさ。

 手当たり次第に家の電気をつけ部屋を見て回る。駿の部屋。私とパパの部屋兼物置。リビング。和室。いない、いない、どこにもいない。何回も何回も部屋を見て回るけどいない。


はぁはぁはぁ


 疲れたので少し立ち止まる。急に家が静かになって自分が大声を出しながら走り回っていたことに気づく。ごめんパパうるさかったね、っていうかパパに何も言ってない。


パパー 駿がいないの。


声を掛けながら和室に戻る。


パパー パパー


 返事が無い。パパはさ、寒がりだからね。布団にもぐってるんだよ。きっと――。もしやと思いつつ布団をめくる。


……


パ パ?

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